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ママJKの日常  作者: まとら 魔術


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12/19

ACT.11

 放課後の帰り道。

 校舎を出ると、空は淡いオレンジから群青へとゆっくり移り変わっていた。

 舗道の端に並ぶ桜の木はもう花を散らし始め、地面には薄桃色の花びらがちらほらと舞っている。


 彩花と美咲は並んで歩いていた。

 カバンを片手に、美咲がぽつりと口を開く。


「ねぇ、彩花。これからの夢って、ある?」


 彩花は少し考えて、春の風に髪を揺らしながら答えた。

「夢……かぁ。前は“卒業すること”が目標だった。でも今は、ちゃんと働いて、この子を育てたい。

 いつか、“ママが笑ってるのが好き”って言われるようになりたいな」


 その言葉に、美咲は目を細めた。

「うん、きっと言われるよ。だって、あんた笑うと強く見えるもん」


 彩花は小さく笑い返す。

「美咲は? 将来、何になりたいの?」


 少しの沈黙のあと、美咲は両手をポケットに突っ込みながら言った。

「……あたし、先生になりたい。

 今日、彩花の担任の先生見てて思ったんだ。人の力になれるって、すごいことだなって。

 あたしも、困ってる人を助けられる大人になりたい」


 彩花は驚いて立ち止まった。

「……美咲が先生?」

「似合わないって思ったでしょ?」

「ううん、すごく似合うと思う」


 美咲は顔を赤くして、視線を逸らした。

「……そう言われると、照れるじゃん」


 沈む夕陽が二人の影を長く伸ばしていた。

 遠くで子どもたちの笑い声が聞こえる。


 彩花はゆっくりと呟いた。

「ねぇ、美咲。ありがとう。私、これからも頑張るね」

「頑張りすぎないでね。あたしが隣にいるから」


 風が吹き、桜の花びらがふたりの髪に舞い落ちた。

 彩花は娘の未来、美咲は自分の未来。

 それぞれの道は違っても、今この瞬間だけは、同じ道を歩いていた。


 蝉の声が聞こえ始めた放課後。

 窓から差し込む日差しが、黒板に反射して眩しい。

 教室の空気は蒸し暑く、ほとんどの生徒が制服の袖をまくっていた。

 けれど、彩花の脚だけは、いまだ黒いタイツに包まれている。


「ねぇ彩花、暑くないの?」

 隣の席の美咲が、呆れたように笑う。

「うん……ちょっとね。でも、これが“私”だから」

 彩花は少し照れながら答えた。


 彼女のタイツは、もうただの制服の一部ではなかった。

 あの日から――あの冷たいタイルの上で小さな命を抱いた日から、

 “守るもの”の象徴になっていた。


 美咲は頷いて、軽く笑う。

「そっか。彩花らしいね。

 あたしも、何か“自分らしさ”ってやつ、見つけたいな」


 二人は窓際に並び、外を見た。

 真っ青な空に、入道雲が伸びている。


「夏休み、どうするの?」

「うん……娘と過ごすよ。保育園もあるけど、一緒に花火見たいな」

「いいね。それ、絶対叶えようよ」


 放課後の教室に、遠くの部活の声が響く。

 扇風機が回り、風が二人の髪をゆるやかに揺らした。


 美咲は小さくつぶやく。

「彩花ってさ、タイツみたいに強いよね。薄いのに、絶対に破れない感じ」

「……そんな例え、初めて言われた」

「だってほんとにそうなんだもん」


 彩花は笑い、足元の黒い布地に目を落とす。

 布の奥にある温もり――母としての責任と、少女としての未来。

 その両方を抱えて歩くために、彼女は夏になってもタイツを脱がない。

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