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ママJKの日常  作者: まとら 魔術


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10/19

ACT.9

 数日後の午後。

 春の陽射しがやわらかく、公園の芝生が明るく光っていた。

 彩花は娘の手を引きながら、美咲と並んで歩く。


「もうすっかり元気そうだね」

 美咲は笑いながら娘を見下ろした。娘はお気に入りの帽子をかぶり、スニーカーのつま先をトントン鳴らしながら、地面のアリを追いかけていた。


「うん、もう熱も下がったし。食欲も戻ったの」

 彩花の声には、ほっとした色が混じる。


 ベンチに腰を下ろし、三人でコンビニのジュースを分け合う。

「ママ、あれ、すべりだい!」

 娘が指さすと、美咲がすぐに立ち上がった。

「よーし、行こうか! ほら、ママも!」

「え、ちょっと、美咲まで?」

「当たり前でしょ! 三人で滑るの!」


 笑いながら三人で並んで滑り台を滑る。

 娘の笑い声が公園に響き、彩花は思わず胸の奥があたたかくなる。

 ほんの少し前まで、眠れない夜を過ごしていたのに、今こうして娘の笑顔を見られる。


 ベンチに戻ると、美咲が空を見上げて言った。

「ねぇ、彩花。あたしさ、こうやって笑ってるの、久しぶりかも」

「え?」

「なんかね、家の中じゃ、みんな怒ってばっかりで。外でも、うまく笑えない時が多かった。でも今日、ほんとに楽しい」


 彩花は静かに頷き、娘の髪を撫でながら微笑む。

「私も。……美咲がいてくれて、ほんとによかった」


 二人の視線が交わり、ふっと笑い合う。

 娘は二人の膝の間で、どんぐりを拾っては「みて!」と誇らしげに見せていた。


 風が吹き抜け、木々の葉がきらめく。

 穏やかで何でもない午後のひとときが、彩花にとってはかけがえのない“日常”だった。


 昼下がりの職員室。

 窓際には春の光が射し込み、静かな紙のめくれる音と、コーヒーの香りが漂っていた。


「どうぞ、入って」

 声の主は、彩花の担任――お腹が目立ち始めた女性教師だった。

 黒のスカートスーツに、淡いグレーのカーディガン。

 脚には黒いパンストが光を受けてわずかに艶めいていた。

 彼女は立ち上がると、ゆっくりと彩花の前に腰を下ろす。


「久しぶりね、彩花さん。体調はもう大丈夫?」

「はい……私じゃなくて、娘が、少し熱を出していて」

 彩花の声は少し震えていた。けれど、もう隠す気はなかった。


 教師は頷き、穏やかな目を向ける。

「そう。あなた、ずっと一人で頑張ってたのね」


 彩花は膝の上で手を握りしめた。

「……学校に来るのも、本当は怖かったんです。みんなに知られたらって。娘のことを笑われるんじゃないかって」


 教師は机の上のマグカップを少し横に置いて、彩花の方へ体を向けた。

「私もね、今、母になるところなの。まだお腹の中だけど……あなたの気持ち、少しわかる気がするわ」


 彩花は目を見開いた。

 教師はお腹をそっと撫でながら続ける。

「命を抱えるって、不安もあるけど、同じくらい力もくれるの。

 あなたがここまで学校に来られたのも、その子があなたに力をくれてるからよ」


 彩花の目に涙が浮かんだ。

「……先生」

「困ったときは、隠さないで話してね。学校はあなたの敵じゃない。

 あなたも、あなたの子も、守るべき“生徒”であり、未来だから」


 静かに涙が頬を伝った。

 教師は微笑んで、ティッシュを差し出す。

「それに――支えてくれる友達がいるでしょ? あの金髪の子。とても頼もしいじゃない」


 彩花は涙の中で微笑んだ。

「はい。……美咲が、いてくれます」


「いい名前ね。あなたたち二人なら、きっと大丈夫」

 教師は窓の外に目をやった。桜の花びらが風に舞っていた。

「春って、何かを始めるのにちょうどいい季節なのよ」


 彩花はゆっくりと頷いた。

 ――もう、隠す必要はない。ここにも味方がいる。

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