客のいないコンビニ
僕が、そのコンビニに入ってみたのは、偶然にその日、喉が渇いて飲み物が欲しくなったからに過ぎなかった。どこのコンビニでもよかったし、自販機でもよかったのだ。たまたま、近くに、そのコンビニがあったから、僕は我慢できずに店内に駆け込んだ。店内は、思った以上に広かった。たくさんの商品が所狭しと店内の棚に山積みされて販売している。しかしである。客がいない。どこにもいないのだ。ガランとした店内のどこにも客の姿がないのだ。そして、唯一、レジの向こうで、不思議そうな顔をして、こちらを見ているひとりの店員がいるだけであった。
しかし、僕は構わずに、目当ての飲み物を買うことにした。冷蔵棚に向かう。扉を開いて、大きなコーラのペットボトルを抜き出すと、そのまま、レジに向かった。
やはり、おかしい。というのも、レジ係の店員が、引きつったような表情で僕が近づくのを恐れているようなのだ。それで、僕は、コーラを手渡しながら、訊いてみた。
「あのう、何か?」
すると、彼は思いがけない返事をしてきた。
「お客さん、本当に、これ、買われるんですか?本当に?」
「うん、買うけど、何か問題でも?」
すると、店員はため息をついて、
「じゃあ、ご存じないんだ、この店のこと」
僕は不思議になって、
「この店、何か問題でもあるの?」
「大ありですよ、この店、見れば分かるでしょう?」
僕は、店内を見回して、
「そう言えば、お客さん、いないねえ?」
「そのはずですよ、有名な噂ですからね、前からの」
「噂?」
「以前から、そうですねえ、もう数ヶ月前からか、この店で商品を買うと、そのお客さんが、死ぬって噂でしてね」
「しょ、商品を買うと、死ぬ?」
「ええ、どうやら、俺が聞いた話じゃ、死んだ人は百人は超えるそうで.................」
「こ、このコーラ............」
「どうなさいます?買われますか?」
それでも僕は、元来、迷信や都市伝説の類いは信じない方だ。そんなの、単なる偶然かも知れないじゃないか?つまらんことだ。それに、さっきから、喉が渇いて仕方ない。
「うん、買うよ。そうだな、君は僕の幸運でも願っててくれ、頼むよ」
「そうですね、それでは、ありがとうございました」
僕は、コンビニを出た。やはり、やって来る客はいないようだ。もうすぐ、このコンビニも潰れるのだろうか?そんなことは、どうでもいいか。
あれから、数ヶ月になる。しかし、僕は生きている。別に交通事故に遭う訳でもないし、急病になるわけでもない。あのコンビニは何だったのだろう?あの店員の悪ふざけに過ぎなかったのか?あの時、たまたま、客がいないのを利用して、店員が悪い冗談を言ったのかもしれない。とにかく、僕は生きている。それだけでいいじゃないか?今は、そう思うのである...................。