灼熱の外側で
私は夏が嫌いだ。なぜって夏は高校野球の季節だから。
どうかしてる程に燃え上がる灼熱のグラウンドで懸命に走り回る球児たちは私をどうしようもなくみじめにする。
朝練さぼってばかりだった中学時代、後輩に抜かれてやめた高校時代、挑戦すらしなかった大学時代。
彼らの輝きはどうしようもなく私をみじめにする。
そんな私が自分から河原で泣いてる高校球児に声をかけてしまうんだから世の中というやつは分からない。
でもまぁ仕方ない。それほど彼の大きな泣き声は私の心を打つものだった。
他人の目など気にしない純粋で繊細な叫び。
人間ってこんなに真剣に悔しがれるものなのか。それは私の人生にないものだった。
少年も倍は歳の離れたおばさんに声をかけられて驚いただろうが
人間というやつは沈んでいる時は細かい事を気にする余裕はないものだ。
初対面の私にぽろぽろと胸の内を吐き出していった。
話の内容はありきたりで、彼のエラーで甲子園を目指していたチームが準決勝で敗退したというものだった。
先輩たちに申し訳ない、最後の夏を台無しにしてしまったと少年は漫画でよく見る台詞を何度も繰り返した。
私はそんなありきたりな彼の話に自分でもびっくりするほど泣いてしまった。
いつもSNSで「たかが部活で必死すぎ」と毒づいてる私はどこにいってしまったんだ。
しまいにゃ自分のことを棚に上げ「しっかりしなよ」と肩なんか叩いてみたりして。
思い出しても恥ずかしい。
少年が坊主頭を下げて去った後も私は夕焼けが星空に変わるまでそこにいた。
それからコンビニでビールを買って帰宅してテレビをつけた。
スポーツニュースは少年の学校が3対4でサヨナラ負けしたことをスコアだけ短く伝えてバレーの話題へ移った。
そこには今日、彼が味わったもの、私が味わったものは欠片も映し出されていなかった。
私は夏が嫌いだ。高校野球が嫌いだ。私をみじめにする全てのキラキラが大嫌いだ。
それでも来年は野球を見に行こう。少年の最後の夏を見に行こう。
きっとそこにはクーラーの効いた部屋では得られない何かがある。