夢
これは、ある男が見た夢。
ただその夢の中で、彼は何か大切なものを見失い、
どうしようもない怒りと寂しさに飲まれていた。
現実か、幻想か。
その境界のあわいに浮かぶ、忘れられた心の記録。
広くて、無機質な明るさに包まれたショッピングモール。
なぜそこにいたのか、何をしていたのかは思い出せない。
ただ、気がついたときには、両親がどこかへ行こうとしていた。
母親が父親と並んで映画館の方へ歩いていく。
俺のことなんて見向きもしないで。
追いかけようとしたけれど、足が重くて、うまく動かない。
叫んだ気がしたけれど、声は届かなかった。
ただ、俺は置いていかれた。
腹が立った。異常なほどに。
なぜ? どうして俺を置いていく?
なのに、俺の足は動かない。
しばらくして、モールの片隅をフラフラと歩いていた。
店も、人も、すべてが現実のようで現実じゃない。
気がつくと、母親がいた。映画館とは反対の方向から、
少し寂しそうな顔をして、出口の方へ歩いていた。
すれ違いざま、誰かが言った。
「母親は、父親に『息子のそばにいてあげて』って言ったらしい」
「父親は、『邪魔しないでくれ』って返したらしい」
それが本当にあった会話なのか、ただの夢の中の幻かはわからない。
でも、胸がざわついた。なにか、大事なものが遠ざかっていく感じがした。
俺は母の車に乗った。
向かう先は、どこかの大きな家。
けれど道中、不思議と心が不安に染まっていった。
このままどこに連れていかれるんだろう。
ここは、自分の居場所なんだろうか。
これは、実際に自分が見た夢を元に書いたものです。
起きたとき、なぜか強烈に印象に残っていて、
感情だけが先に立つような、不思議な感覚がありました。
物語として意味があるのかはわかりませんが、
忘れてしまうのが惜しくて、こうして文字に残しました。