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雨の日のクランケ

作者: enishi

 

「かおり先生、わたし春まで生きられるのかな?」



 病室のベッドに座りながらすぐそばに立つ女医に向かってあかりは言った。個室のテレビには音楽番組が流れている。

 中学3年生のあかりはこの1年の大半を大学病院で過ごした。回診で病室に来ていたかおり先生はその言葉に驚く。


「どうしたのかな?なんで突然そんなことを言うの?」


「なんてね、びっくりした?ごめんなさい。チョット大人を驚かせたかっただけなんだ。」


 14歳のまだあどけない顔に笑顔を見せる。


「大丈夫だよ!安心してあかりちゃん。悪い病気なんか先生がやっつけちゃうから。春からは元気に高校に通おうね!」



 テレビからは最新のアイドルの曲が流れている。



「元気になったらまず何がしたい?」


「美味しいものをたくさん食べたい。ラーメンに焼き肉に、それに食べ歩きがしたい。それで洋服とか買っておしゃれしてメイクもして、アイドルのライブに絶対に行きたい」


 あかりはそういうとポケットから何やら取り出して、口に頬張る。

 カラコロと、彼女の口の中でレモンキャンディーがこぎみ良く転がる音がする。



「かおり先生にもあげる!」


 あかりの小さな掌に黄色い包み紙にくるまれた小さなレモンキャンディーが2つ。笑顔を返すかおり先生。




 あくる日、外では雨が激しく降っている。



 この日も回診で病室へと入る。病室であかりの姿を探す。しかし電気はつけたままでどこにも居ない。


 ふいに2階の病室の窓から階下の庭へと目をやる。


 大雨の中であかりは一人で傘もささずに庭に出ていた。


 かおり先生はすぐに駆け出して1階の庭へと走る。



「何してるの?あかりちゃん。」



「先生、いま私の体をきれいにしているんだ。」


そう言うとあかりは雨が落ちる空へと両手をかざす。


「この雨が私の中の悪いものとか、嫌な記憶とか全部、ぜ~んぶ洗い流してくれる気がするんだ!それできれいな体になったら、きっと元通りの生活ができるんだ。」


 かおり先生はあかりのもとへ駆けていき傘をさす。ずぶぬれになっている肩を抱いてやる。


 小さな肩が震えているようだ。



「かおり先生!私生きたい!もっともっと生きていたい!


 だって、せっかくお父さんとお母さんにもらった命だもん。こんな病気なんかに負けたくないよ。絶対に負けない。


 お父さん、お母さん、友達、かおり先生たちともっともっといっぱい話したいし遊びたい。みんなの笑った顔が見たい。


 私はまだ生きたいんだ!生きていたいんだ!!」


 騒ぎを聞きつけて女性看護師がタオルを手に2人に駆け寄る。



 どんなに医療が進んでも医者というものは神様ではない。

 救うことができた命と全力を尽くしても救うことができなかった命がある。

 悔しいし悲しい。


 かおり先生は何度もそんな経験をしてきた。

 でも、この子は生きたいと強く思っている。必ず救いたい。





 数か月後、





 この日外来を担当しているかおり先生は次の患者を呼ぶ。


 真新しい制服を着た女子高校生が診察室へと入る。

 彼女のポニーテールが弾むように揺れている。


 その初々しい姿を見て、かおり先生の笑顔がはじけた。


「こんにちは!あかりちゃん」

私も医療には何度も救われてきたし私の身内には医療にかかわる人間が多いことなどがこういう作品を描こうと思った理由の1つです。最後までお読みいただきありがとうございました。リアクションや評価、感想などで応援していただけたら嬉しいです。

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