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碧玉の瞳  作者: ふとん
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 火の暦二百五年。ある一人の少女が発見された。

 彼女は巳の下級層に住む平民で、親はすでに無く、孤児院で育つ。発見の翌年、上級層に移され、巫女職を与えられる。火の暦二百七年に勃発したマテイの反乱の際にはミカエル派に付いてその力を発揮した。土の暦三年、功績を湛えられ、後に女神の称号を受けるが、翌年に起こったラキアのクーデターにより、死亡。

彼女が生前作成したとされるエメラルド・タブレットは彼女の意思によって暗号化されているため、何人も触れることができなくなった。

「エメラルド・タブレット。それは世界最大の秘密とまで言われた謎の碑文だ。伝え聞くところによると、あらゆる過去を関知し、未来を完全に予知する機械的言語系列だと言われている。これは彼女、ソフィアの先天的能力を言語化した代物だという」

「ソフィア……私につけられた名前…」

 エメラルド・タブレットの暗号には幾人もの魔術師が解読を試みているが、倒置も韻文も受け付けない碑文は今世紀最大の謎とされている。

エメラルド・タブレットとは一人の少女が先天的に持っていた視覚能力を分析、研究した結果を人為的に機械化した機械的言語系列である。パスワードとなる碑文は

「これは嘘偽りなく真実、確実にして、このうえなく真正である。一つのものの驚異を成し遂げるにあたっては、下にあるものは上にあるものに似ており、上にあるものは下にあるものに似ている。

そして万物は、一つのものの仲立ちによって、一つものから成ったように、万物は順応によって、この一つのものから生まれた。

このものの父は太陽で、母は月である、風はこのものをその胎内に持ち、その乳母は大地である。

このものは全世界いっさいの仕上げの父である。その力は、もし大地に向けられれば、完全無欠である。 

汝は、土を火から、精妙なものを粗雑なものから、円滑に、極めて巧妙に分離するがよい。それは大地から天へ上昇し、再び大地へ下降して、優れたものと劣れるものの力を受け取る。かくて汝は、全世界の栄光を手に入れ、一切の不明瞭は汝から去るであろう。

このものは、すべての剛毅のうちでも、いやがうえに剛毅である。なぜなら、それはあらゆる精妙なものに打ち勝ち、あらゆる個体に浸透するから。

かくて大地は想像された。したがって、このものを手段として、驚異すべき順応がなされるであろう。このため私は、全世界の哲学の三部をもつ三重に偉大なる者と呼ばれる。私が太陽の働きについて述べたことは以上で終わる」

「それが……碑文?」

「そうだよ。難しいだろう? 何人もの先達は何度も碑文を分解し、ソフィアの嗜好まで調べ上げたけれど解読できなかった。ただ、碑文を解くには三つの要素が必要だということだけは解明した」

 碑文解析の重要な鍵は三つある。一つは、彼女が覚えた文字はヘブンの古語であるサンクだということである。サンクは三千世界以前に使用されていた文字であり、主に聖書に使われている。二つ目は彼女に機械的言語系列を処理する能力はなかったことである。エメラルド・タブレットは元来、彼女の能力を研究対象とした論文である。その研究の結果、予知と知識の蓄積を言語化させたのだ。エメラルド・タブレットを作り出した研究者がいるのである。研究者は二人居た。ミカエル派筆頭のラファエルとその部下だったアズラエルである。彼等は良き友人であり、彼女の良き理解者だった。三つ目は、彼女の能力の根源である瞳である。原文が記してあるのはエメラルド・タブレット第一表層部、タブレットにある目次を引用するならば、“真実の部屋 ”である。それはサンク語を用いた機械言語で、彼女の網膜型を暗号化して構成されている。エメラルド・タブレット解読における最大にして最重要な関門は、この網膜である。彼女と同じ網膜を持つ者が現れない限り、偽造品も碑文は受け付けない。恐らくは

「同じ網膜、同じ能力を持った瞳しか、エメラルド・タブレットは受け付けない……」

「……何が言いたいの?」

「君が考えている通りだよ。言いたくないようだから、僕から言おうか」

「聞きたくないわ」

「エメラルドはソフィアの瞳の色から付けられた名称なんだ。君と同じ、美しい碧色のね」

「嫌よ! 聞きたくない!」

「君が、エメラルド・タブレットの継承者だよ。ソフィア」



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