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第33話 勇者、中断する。


表四剣(ひょうしけん)!」



 ロアは無我夢中で技を繰り出していた。とうとう、四つまでならなんとか合わせられる段階まで可能になってきていた。あと少しというところではあったが……、



「り、裏四剣(りしけん)!」



 最初の表四剣を放ちきったところで、どうしても動きが硬直してしまっていた。そのため、続きがつなげられない。



「だめだ。やっぱり、動きが止まってしまう。」



 この段階に入ってから、体感で丸一日ぐらいは経っているようにも思えた。下手をしたらもっとかかっているかもしれない。



「あと少しじゃ。もう少しというところまできておる。大丈夫じゃ。」



 本当にできるのだろうか?そんな保証がどこにあるというのだろう。あまりの果てしなさに徐々に懐疑的になってきていた。



「まあ、気を落とすな。一旦、ここで一休みしてはどうじゃ?」



 彼女は変身を解き、休憩を挟むことを提案した。その言葉にロアは思い直り、彼女の言うことに従ってみた。足元の草むらの上に思いきり手足を投げ出し、仰向けに寝転がる。その状態の彼の顔をサヨは覗き込む。



「そなたは良く頑張っておる。かつて、がむしゃらに技の鍛練を続けてきたときのようにな。」



 まるで、実際に彼の鍛練の姿を見てきたかのように言う。目で見たのではなく、彼の記憶を覗いたからなのだが。だが、それでも彼は嬉しかった。今まで自分を誉めてくれたのは師父とその娘のレンファぐらいだったからだ。



「自分でも不思議なぐらいだ。ここまで出来たのは、初めてかもしれない。」



 自分の顔を覗き込んでいるサヨの姿を見ていると、あることに気が付いた。彼女の服装に違和感があった。胸元にあんな切れ込みがあっただろうか?よく見ると胸元が露になっているではないか。うっすらと赤い一文字が浮かんでいるのも見えた。



「……!!!!」



 ロアは思わず息を飲んだ。そして、自分の鼻から何か流れ出るのを感じた。



「なんじゃ?鼻血など出しおって!」



 鼻血が出ていた。ロアはたまらず、胸元のことを指摘する。



「サヨちゃん!胸、胸!」


「胸?……おおお!」



 ロアに指摘され、サヨは自分の胸元を確認した。驚きながら胸元を隠す。



「見たな?」


「見ました。」


「左様か。」



 その言葉と同時に頬に衝撃を感じるとともに、視界が自然と横を向いていた。殴られた。やっぱり、当然の報いか。



「人間、正直なのが肝心じゃ。」



 冷静な表情をしてはいるが、内心、怒っているのだろう。



「それにしても、怪我してるけど、大丈夫か?」


「む……、これはもしや?」



 彼女は胸元の傷を見つめながら、しばらく考え込んでいた。



「技の効果ではないか?妾は毎回かわしていたはずじゃ。少しでも技が完成していたということではないかの?」


「きっちり、完成していた訳じゃないのに?」



 彼女の傷跡をまじまじと見つめながら言った。



「何を見ておる?」



 ロアの視線に気付いた彼女はすかさず胸元を隠した。そこで彼はハッとなった。



「ごめんなさい。」


「もうよいわ。妾からのサービスということにしておく。」



 そこで彼女は白けた顔から急に神妙な顔になった。



「もう少しというところまで来たのはよかったのじゃが、残念ながらタイムオーバーになってしまったようじゃ。」


「おい、それってまさか?」


「とりあえず、術を解くぞ!」



 ロアは目を開いた。サヨが目の前にいることは変わりがなかったが、何やら外が騒がしい。緊迫した雰囲気が漂っていた。二人のもとへ誰かが駆け込んできた。クエレ・ブレだった。



「サヨ様!あの男が、ヴァル・ムングが現れました。」



 最悪の事態だった。技の完成を前にして、ヴァル・ムングがやって来てしまった。



「最悪だ。あと少しだってのに!」


「仕方ない。もうあとは運を天に任せるしかないのじゃ!」



 せっかく鍛練をしたというのに、運に頼るしかないのか?



「サヨ様!その傷はどうしたのです?」


「これか?修練の相手をしておったら、うっかり怪我をしてしまったのじゃ。なに、たいしたことは……、」



 彼女は言おうとしていたことを途中で止めてしまった。なにか重大なことに気が付いたかのように。



「どうしたんだ。」


「おかしいぞ、これは!ありえんぞ!」



 なにがあり得ないというのだろう?ただ怪我をしただけだ。



「仮想空間で起きたことは体験として記憶には残っても、現実の体には決して影響を及ぼすはずは無いんじゃ。」


「それって、どういうこと?」


「例え仮想空間で怪我をしたとしても、現実の体には傷は付かないはずなんじゃ。こんなことが起きたということはつまり……、」


「つまり?」


「そなたの技は完成していたのじゃ!時間も空間も越えて、相手を斬ったという事実だけが残ったから、こんなことが起きたのじゃ。」



 信じられなかった。技の形は師父の物にはほど遠いというのに、影響を及ぼしていたのである。



「妾の思った通りじゃ。やはり、物理法則を超越しておるのじゃ!これならばやつに勝てるぞ!」



 ドラゴン・スケイルをも貫くのだろうか?現にサヨの体に傷を付けている。これならば、本当に、



「勝てる、いけるぞ。」



 ロアは剣を手に取り、勢い良く立ち上がった。



「なら、早くあいつのところへ行かねえと!クエレさん、俺を案内してくれ!」



 クエレは無言でうなずき、ロアと共に外へ向かった。



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