3話
放課後、宣言通り最寄りの遊園地へ向かうこととなった。途中、コンビニで、奴を外に待たせて、必要な物を買った。
遊園地へ着いて、入場料二人分をすぐに支払って、観覧車の方へ向かう。
付いてくる芋、女はなにやら期待しているようだが、サプライズする為に、ここへ来たわけではない。
観覧車へ二人で入る。
端から見れば、カップルのやりとりなのだろうが、そんな事はどうでもいい。
面倒な話を手短に話すのに、誰も聞き耳を立てられない場所に来たまでだ。
勘違いしている奴の目を覚ますため、本来必要の無い対話を始める。
「そういえば芋。お前の名前なんだっけ? 小学生の奴らの名前は全く覚えていない」
「芋って、もう言わなくていいじゃないですか。玉川麻衣です」
「玉川。俺があの学校へ来ることをなぜわかった? いじめの報道で近辺までの目星はできる。だが、たまたま学校が同じというには無理がある。話せ」
「蔵元さんて方から教えてもらったんです」
あの大馬鹿野郎…。
「お前は俺に恩義を感じているんだな?」
「はい。いじめから助けてくれたのは透さんだけですから。私に出来ることなら、何でもします」
「結果的にな。で、それは回数とかあるの?」
「高校生までは、何かさせてください」
「…そうか。じゃあ、おれといじめの現場作ってくれ」
「え? 」
動揺したなら好都合。
「何でもするんじゃなかったのか? 動揺するってことはやりたくないってことだな。大丈夫だ。期待していない。いじめから解き放たれ身のものがいじめに加担なんて、冗談でも笑えないよな。だが、今更動揺するのも可笑しい。考えても見ろ。お前がいじめられた時、俺が何故すぐに助けが来なかった?」
「そ、それは…」
「この際だから言っておこう。いじめを解決するのは儲かると判断したからだ。証拠を徹底的に揃えて被害者になれば、ぶん取れる。これでも尚、協力したいか?」
「…」
ほら見たことか。恩義を感じても、一般的な価値観を持っている者に俺の頼みは勤まらない。
出来ることなら何でもとはいうが、結局の所、やりたいかやりたくないかを無意識に取捨選択しているのだ。
それは自身が可愛いからだ。
ただ、別にそれは大抵の人間、生物ですら備わっている。
言うなれば正気の人間では不可能ということだ。
自分にとっての危機を招くようなことは出来ない。
不要な善意の押し売りにイライラする。
時間の無駄だ。
いらない物を恩着せがましく渡してくるオヤを思い出す。
本当に欲しいものは何一つくれなかったくせに。
「観覧車が一周してから答えが出なかったら、断った扱いにする」
判断を迷っているようだ。それもそうだ。
犯罪を助長する行為といっても過言ではない。
助け船を渡す用で不本意だが、面倒事を避けるために、あえて都合のいいことを言う。
「別に断る事が悪いことではない。今のお前は恩に報いる為に義務感で葛藤している。そもそもその義務感が必要の無いものだ。無茶を振りしていることに、いい加減気づけ。そろそろ天辺だな。答える迄黙る」
「…答え出ました」
「早いな。それで?」
「したいかしたくないかで言えば、したいです。手伝わせて貰いたいです。答えるのに、時間がかかったのは、私のしたいことなのに良いのかな? と思ったからです」
は?
「…わからないな。迷う理由はわかったが、その結論に至った経緯がわからない」
「私はいじめられてきた。透さんの提案は、潜在的にいじめをする人を探すことにも繋がります。そんな人を透さんがまた懲らしめてくれる。それは願っても無いことです」
「そんな話をしたつもりは無い。それはただの飛躍だ。俺を正義の味方と勘違いするな」
「すみません。小学生の様な事を期待していました。ただ、そうでなくても、協力させてください。いじめをする人を探す事が出来れば、私はその人を恨む事ができますから」
「作ると探すを履き違えるな」
「一緒だと思います。いじめを仕立てあげるにしても、素養がなければ、大抵うまくいかないです。そして他の事でも協力させてください」
「何故ここまで俺に固執する。いじめを結果的に解決しても、過剰だ」
「私はそうは思いません。ただ、あれから私は、透さん以外を敵かもしれないと、そう思うようになりました。そう考えたら、一人でも白黒はっきりさせたいです。後、もし他の事でも、物理的に可能で有れば、良いこと悪いこと関係なく、手伝わせて下さい」
「…。その敵かもしれないに、家族も入っているのか?」
「ああ、あれは敵でした。ずっと自分たちの価値観を押し続けてきた。辛い思いを知ろうともしませんでした。今は形の関係と私個人では考えています」
正直ここまで意思の固い人間とは思っていなかった。
いや、私怨と言った方がしっくりくる。
過去が価値観の形成に大きく関わっているのだろう。
いじめをつくるとは言ったが、実際は玉川の言っている通りに、いじめをすると判断した者を探す。
そうでなくては、学校選びを念入りにしない。
玉川のいじめに対する嗅覚は、俺よりも高いと言ってもいいだろう。
協力関係になれば、計画が捗るのは間違いない。
しかし、俺はこいつを見てきていない。
恩があるからといって、そう易々と向かい入れる訳には、いけない。
「俺の協力をしたければ、これで後ろ髪を切れ」
そう言って、俺はハサミとレジ袋を手渡す。
必要ないとは、思っていたが、使えると判断したからには、試さないといけない。
「はい」
そういい終えると、そのまま後ろ髪をバッサリと切った。
「…。よし、協力者として、認める」
「ありがとうございます」
想定外とはいえ、協力者を得る事ができたらのは良いことだ。
しかし従順過ぎて、底が見えない。
使えると言ったが、リスクがあることを忘れてはいけない。
観覧車に出るとすぐ近くの長椅子に校長がいた。
「やぁ。向井間君。それと玉川君、髪を切ったんだね」
「ご用件はなんですか?」
「いや、何私も向井間君と一緒に観覧車が乗りたくてね」
「わかりました。玉川さんそれじゃ悪いけどお願い」
「気をつけてください」
そう言い残し玉川と別れる。
校長とは近い内に自然な流れで接触したので、向こうからの誘いを引き受けた。
校長と観覧車に入り開口一番に校長が話し出す。
「向井間君。君はいじめられていないね?」