2話
登校先に憂いが出来た。坂井が青空高校へ登校することがほぼ決まったことだ。
蔵元のせいで情報が漏れてしまった。
面識のあるものがいれば、俺の計画を妨害する可能性がある。
しかし過ぎたことに考え過ぎても仕方ない。
考えていることをリセットし、学校を登校し「透さん! え?」
「無視してないで下さい!」
面識の覚えが無いので、別の人を呼び止めたに決まっている。
無視ではなく、赤の他人と思い素通りしたら、裾を掴んできた。
「誰?」
「そんな。小学生の時助けてくれたじゃないですか」
本当に誰だこの女?生憎小学生の名前を逐一覚えていない。
中学校の生徒は便宜上覚えていたが、小学校でそのような労力を費やす必要性は感じなかったため記憶しなかった。
というか、生徒も先生のせの字も覚えていない。
助けた…?…助けた。…助けた。…………!
「ああ芋か」
「もう酷い。その呼び方止めてくださいよ」
「そうそう。酷い奴だからもう関わらない方がいい」
「あ、いや、まだ話終わってません」
裾を離そうとしない。面倒事はごめんだ。
無理やり離そうと思えば離せるが、どうしたものか。
「なぁ。今の状態を端から見たら俺らをどう思う?」
「また話をはぐらかすんですか?」
「痴話喧嘩って思われても仕方ないぞ」
羞恥心から顔が真っ赤になるのと同時に裾からの手が離れた。
顔を隠したくて、衝動的に手を動かしたようだ。
もう追いかけは来ないだろう。
「じゃっ」「あっま…って。…う~~~う゛。あ~あもう。
学校へ入り、これからの事を考える。
…こうなったら。
面識のある同級生が皆無であるのが理想では有ったが、仕方ない。
計画を実行するために、ここでの俺の印象を崩さないように、しなければいけない。
とりあえず教室に行
はーっ私は!!向井間透さんとつ・き・あっ・てっまーす! ! !」
は? …? は?
「だ・か・ら他の女の子は告白しないでくださ「おい。待てふざけんな! !」
衝動的に芋の口元を隠す。止められたことを確認して手を離す。
「はぁはぁ…。やっと…戻ってくれましたね」
「あんなテロ行為されたら、誰だって止める」
「あーでもしないと話聞いてくれないじゃないですか」
「だからって、よくも恥知らずなことが出来るな。小学生の頃で、そんなことする覚えは無かったぞ」
「凄く恥ずかしかったですよ。けど、ここで拒み続けられたら、ここに来た意味がありません」
「で、話って何?」
「それは「あ、言わなくていい。だいたい検討がつく。あれだろ?小学生の頃のいじめを助けたのに、恩でも感じてるんだろ?」
「は…はい」
「そういうのいらないから」
「そんな。納得出来ないです」
きりがない。
「じゃあ、今から遊園地行くぞ」
「へっえ?」
すっとんきょうな顔しているのも無理は無いが、だだテーマパークを楽しむ為では無い。
それなりの訳がある。
「嫌なら、今すぐに拒め」
「…ごめんなさい。放課後に出来ませんか?今だとその…恥ずかしいので」
融通が効かないな。
とりあえず、学校に入る。ついてくるかと思ったが、登校する者に挨拶したいと言われ、学校祭玄関に止まっていた。
小学校の頃はもっと内気な性格だった気がするが。
まぁ、大々的に告白するやつだし、変わったのだろう。
教室に入り着席し、一時限目。
普通に授業をしていた。何故か玉川が隣の席だ。幸先悪いな。
そこで、玉川が消しゴムを落とす。
「…っ」
「…」
気づいていないのか。早く消しゴム取れよ。
「ぉぃ」「あ、すみません」
たく、どんくさいのは変わってなさそうだな。小学生の頃でもそう印象に残っているのだから尚更か。
一時間目終了後、休憩時間にうつつを抜かす暇もなく、中学の因縁が関わりたくもないのに、勝手に話しかけられる。
「透君。中学校ぶりだね」
「…」
坂井と阿多谷。進学校は伏せていたが、蔵元の馬鹿がチクりやがったな。
「すみません。中学校の方とは」
中学校を一緒だったからと、馴れ合う気は無い。
他人行儀を徹底させてもらう。
世間的に見れば、俺は中学校の奴らにいじめられたこととなっている。
そんな奴らと関わりたく無いのは最もだ。
実際、煩わしいから関わりたくない。
「ちょっと待ってよ。僕はそんなんじゃ…」
「…そうですね。傍観者…でしたね。いじめを目の当たりにして何もしてくれなかった人にお話することなんてありませんよ。それに、第一いじめをしてきた張本人も連れて、何の用ですか? 当て付けにも程がある。もう関わらないで下さい」
「だから違っ」「そこまでだよ」
話を制止した男子生徒が話出す。
「僕は戸井満。すまない。見かねて止めに入った。大丈夫かい? えっと君は向井間君だったね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「気にすることは無いよ。それで、話かけた君が坂井君で、隣にいるのは阿多谷君だね。君たちは彼へのいじめをしてきた人物。それに阿多谷君はニュースで報道されていたいじめの張本人だ。わざわざ関わろうとするのは何故だい?」
「違うよ僕はいじめをしていない。ただ普通に会話をしたかっただけで」
「傍観者だったのなら、一緒さ」
「だから違うんだ」
「わかるよ。君達は、彼に罪悪感を感じているんだね? けど、彼の気持ちを考えてくれ。今までいじめてきた者達がまた、高校で一緒になる。耐え難いことだ。どうやって向井間君の学校を知ったかわからないが、彼はほっといて欲しいんだ。見ればわかることだ。現にそういった反応じゃないか。彼から教えたなんてことがあり得ないのなんて、考えるまでもない。それを踏まえて、いきなり関わろうとするのは得策では無いよ。坂井君はまだしも、阿多谷君、君はいじめの張本人だ。関わることさえ拒まれても、おかしくない。坂井君も他中学校の関係者すらそうなっても、変じゃない。それでも尚、関わろうとするのかい? 」
「だから、違うよ。僕は…」「坂井君。戸井君の言っていることは最もだ。ここは日を改めるか関わり方を変えた方がいい」
「阿多谷? いや、僕はただ…」
阿多谷に止められて出かかった、言葉の前に現状を思い出す。
世間的にいじめられていたのは向井間君であることを。
自分がいじめられていることを言って、信じる人がどれ程いるだろうか?
まず、普通に信じて貰えない。
向井間君のおかげでいじめられなくなったのも事実。
それでも、今までの事がなかった事にされたようで、心が引き裂かれる思いにもなる。
けれど、今重要なのはそこじゃない。
これから向井間君が良からぬ事をしないかを見続けなければいけない。
それが僕なりのけじめでもあり、向井間君の恩返しだ。
当人にとってはいい迷惑かもしれないが、向井間君はきっかけさえあれば、ちゃんとした人になれるはずだ。
「いや、何でも無い。ここから離れるよ」
そうして、向井間君と話すのは一旦諦めた。
頼んではいないが、面倒な奴らを追っ払ってくれたので形だけでも、お礼を言おう。
「ありがとうございました。助かりました。えっと、戸井さん」
「戸井でいいよ。それにお礼を言われるような事はしてないよ。僕はただ、自分にとって当たり前のことをしているだけさ」
正義感か。それもあるだろうが、今の俺は弱々しく見えているということか。
蔵元からは、卒業式の件で凄い演技力だと大げさに言われたが、少しは信じてもいいのかもしれないな。
小学生の奴らを騙すのは容易いだろうが、世間の目からいじめられている人物として俺は存在している。
少なくとも、戸井に庇われた所から疑いの目は感じられない。
いじめられているという信用を利用させてもらおう。
「すみません今から急には呼び捨ては出来ないです。今までの事が…ありましたから」
「大丈夫。自分のペースでいいよ。しかし意外だなぁ。テレビのニュースでは毅然と振る舞っていたけど、校長にすら媚びない態度は痛快だったよ。まぁそれも当然のことではあるから誰も責められないよ」
「あ、あの時は…。色々とたまっていて、夢中での事だったので…。」
「それでも、あれは凄い事だよ。僕も見習わないと。ってそれじゃあいじめられることになるか。冗談なので気分を害さないで欲しい。まぁこの学校では、まずあり得ないけどさ」
「はは、そうですね」
世間話を建前に特定の委員会に立候補するかそれとなく確認する。
「戸坂さんはどうしてこの学校に? 」
「いじめを許さない学校の心意気に非常に共感した。そして何よりいじめ撲滅委員会という独自の委員会があること。僕も立候補するつもりだ」
「戸井さんは立派ですね。自分はもういじめられたくないというだけで、入りましたから。結局、進学先がバレて、二人について来られましたけど。復讐のつもりなんでしょうかね。いじめの無いこの学校で考えたくは無いですが」
「大丈夫だよ。この学校に限って、そんな事は無い。もしも困ったら、遠慮せずに、僕に頼ってよ。力になるからさ」
「ありがとうございます」
戸井という男は、いじめ撲滅委員会に立候補するようだ。
俺もいじめ撲滅委員会という存在があるからこの学校に登校する事を決めたのだ。
いじめ撲滅委員会については以下の通りだ。
1,他の委員会とは、隔絶された権力をもっている。
生徒会長の比ではない。
2,その権力の強さの都合上、一年生までしか任されな
い。
3,1ヶ月ごとに続けても良いか否か生徒内の投票で判断
することとなっている。
4,二、三年生はその際に禍根をうませないために学年
ごどに、教室は別館となっている。
…。
それで、俺は戸井のように積極的に立候補するつもりは無い。
選任されれば、その立場を利用して、いじめを促進させるつもりだ。
しかしどちらかと言えば、素質のある奴に票を誘導する方がこれからのストーリー的に都合が良い。
戸井は素質がある。正義感の塊は扱い易い。