鉄の剣、希望の日々〜裏切りのヴァラス戦役
最初の栄光と転落。
武器屋での日々は只管に退屈であった。
客は冷やかしが大半で、何より店主の親父が良くなかった。
まずやる気がない。そして『見る目』もなかった。
武器とて商品だ。流行や売れ筋というのがある。
にも拘らず、当時いくらで仕入れたかは知らんが、いつまでも古い商品を目立つ位置に置いていた。
一方、いくら野盗の持ち込みとはいえ比較的新しい製品である吾が輩を、ナマクラ共と一纏めに、乱雑に、樽に、
吾が輩は『傘立てにある傘』じゃないんだぞ!
貴様の目は節穴か何かか!!
……吾が輩ともあろう物が、当時を思い出しただけで腹を立ててしまった。
忘れよう。
兎も角、剣として情けなくなってしまうような酷い扱いであった。
そんな日々に、ある時、奴はやってきた。
明るい赤銅色の髪、20代だろうか、顔のつくりは美男と言うべきものだが、研ぎ澄ました剣の如く張り詰め、柔らかさは無い。その若さにも拘わらず足運びの重心移動は熟練者のそれだった。
こんな寂れた店にすごい客が来たものだと少し驚いた。
だが確かに身形は裕福そうではない。
どこかの師に学んだ修行上がりの駆け出しかも知れない。
ならば『お買い得品』の樽に突っ込まれた吾が輩にもチャンスがある!
吾が輩を選べ!!
そう強く念じたのが効いたか、奴は吾が輩を手に取った。
ラーシュ・ハルツバリ。それが奴の名であった。
その時から吾が輩の充実した日々が続いた。
護衛、モンスター狩り、野盗退治……様々な仕事をこなしつつラーシュは腕を磨き、達人の域へと昇っていった。
腕が良い分、吾が輩への負担は少なく、手入れも欠かさなかった。
良い所持者に恵まれたものだ。
これなら吾が輩の夢である『博物館入り』も不可能ではないかも知れない。
……そう思っていた。
6年後に起きた第4次ヴァラス戦役までは。
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【 裏切りのヴァラス戦役 】
専従軍人のみで戦をする帝国とは違い、王国は参加する貴族の私兵と野盗……いや、傭兵の混成である。
それ故、戦の度に王国は広く一般から参加者を募集する。
報酬か、それとも、さらなる功績を求めてか、ラーシュも個人として応募した。
吾輩の期待は大きく膨らむ。
何せ待ちに待った『大戦』だ。
奴の腕前を考えれば、大きな戦果を挙げられるだろう。
もしかしたら『英雄』として讃えられるかも知れん。
そうなれば、吾が輩も……と。
ラーシュが配置されたのは先頭の斬り込み部隊。
コネがない傭兵団や個人は大体ここだ。
要するに使い捨て。
だが奴の腕前なら……
吾が輩は『つまらん感じで死んでくれるなよ?』と祈る。
突撃のラッパが鳴ると、ラーシュは体力を温存するつもりか、周りに合わせて前進する。
……と、同時に何かを探すように視線を巡らす。
肉壁に使えそうな味方の隊でも探しているのか?
専従軍人で構成される帝国軍と違い、王国軍での戦い方などそんなものだ。
ある程度まで前進すると帝国軍から矢が一斉に飛んで来る。
向こうは高度に組織化されているから、飛んで来る矢の並び方まで綺麗に揃っていた。
下心まみれの諸侯が、武功を競って継ぎ接ぎに並ぶ王国軍とは違う。
それでもラーシュは時に斬り払い、時に味方を盾にして生き残り前進、帝国軍が味方への誤射を危惧して矢を射掛けられない範囲内まで到達し、今度は重装歩兵が立ち塞がる。
間合いを見誤れば、たちまち長槍で串刺しだ。
『並の戦士ならば』な。
敵の槍先を次々と剣で往なし、突撃を続行。
単なる捨て石の兵に、ここまでされるとは思わなかったのだろう。
敵は堪らず槍を捨て剣を抜いたが斬り捨てられ、隊列が乱れる。
そこに勝機ありと見た味方が後ろから雪崩れ込んで来る。
乱戦に突入した。
そこから先は、寧ろ今までより楽なくらいだ。
間合いや位置取りに気を付けながら、ひたすら目の前の敵を斬る。
コイツは天才的だからな。
周囲の状況を瞬時に把握、敵や味方の間を風のようにすり抜けつつ、余裕があれば行きがけの駄賃に斬って捨て、常に最良の場所を取りながら戦い続ける。
本当に大した奴だよ。
たった一人で戦況をひっくり返した。
貴族連中も、まさか正面突破するやつがいるとは思わなかったらしく……あぁ、ようやく弓兵を動かしたか。
連中ケチだからなぁ。
捨て駒で敵を釘付けしつつ、ある程度まで距離を詰めてからしか撃たせんのだ。
とはいえ、正面突破してしまった以上、今度は両翼の騎兵を止めねば包囲されたり後方の自分たちが直接やられたりし兼ねない。
精々、景気良く射掛けてくれ。
せっかく我が主人が英雄になろうとしているのだ。
勝ち戦にしてもらわねば困る。
……イケる、これならばイケるぞ。
そして、吾が輩は英雄の剣に……むふははははは!
お、ラーシュよ、前方に将が見えるぞ。
首級を挙げよ!
……などと、吾が輩が有頂天になっていた、その時だった。
奴が何かを見つけて、全く別の方角へ走り出したのだ。
行く先には、味方の傭兵団が優位に戦っているだけ。
加勢の必要など無いように見えるのだが?
と、吾が輩の胸中が疑問符まみれになる。
ラーシュは、
その傭兵団の背に襲いかかった。
は? 何してくれてんの?
吾が輩、頭の中が真っ白である。頭ないけど。
そのままラーシュは傭兵団を斬り捨て続けた。
……いやいや……いやいやいやいや、英雄伝説は?
吾が輩の博物館入りは?
ラーシュは止まらない。
普段の鉄面皮が嘘のように喜々とした、いや狂気的な表情で斬り続ける。
味方は完全にパニック状態だ。
そりゃあそうだろう。
さっきまで「スゲーやつが現れた! 英雄に続け!」という空気だったのが、コレである。
そして、それを見逃してくれる敵将ではない。
戦線は崩壊した。
結局、ラーシュは敵からも味方からも攻撃されたが意に介さず、傷だらけの血まみれで狂った鬼のように奴等を追い回し、皆殺しにした。
……で、だ。
傭兵団連中の死に顔を見て、思い出したのだ。
こいつら吾が輩を武器屋に売っ払った奴等だ、と。
それと、連中は気付いてなかったようだが、あの日、村を襲って女の背を斬りつけていた時、その様子を隠れて見ていた子供が一人いたのだ。
顔は見えなかったが、髪の色はラーシュに似ていて、斬られた女の髪色にも似ていたなぁ、と。
つまり、奴が力を求めたのも、戦場に来たのも『そういう理由』だったのだろう。
……なんて主人に買われてしまったのか。
吾が輩の期待を返せぇぇぇ!!
腹の立つ事にラーシュの死に顔は、やるべき事を成し遂げたような、とても穏やかなものであった。
……それはそうと、そんな事を仕出かした奴は当然『悪魔憑きではないか』と思われた。
勝利の切っ掛けをもらった相手とはいえ帝国軍も気味悪く思うのは同じである。
故に、その場で荼毘(火炙り)だ。
そして、そんな奴が使っていた剣は、どうなると思う?
「一応、貴重な鉄材であるから」と、ばっちぃものでも扱うように火バサミで摘みあげられ、再び帝国へ。
『生まれ故郷』に帰ってくる事になろうとはな……
工房だよ。
……つまり最終目的地は『熔鉱炉』だな。
……。
ふざっけんなよクソがぁぁぁ!!!
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この時は、まだ『これが複雑怪奇な剣生の始まり』だとは思いもしなかったのだ。
《基本情報が更新されました》
【名称】
ロセウス帝国製 鉄剣→大逆者ラーシュの剣《 now! 》
【カテゴリ】
D→C 《 now!》
【蓄積概念】
裏切り
『裏切り行為に使用する場合、耐久性&持久力up、被ダメージ値&被クリティカル率down、痛覚鈍化』
復讐
『復讐を目的に使用する場合、全ステータス&クリティカル率up』
『目的を達成した場合、所有者は死亡する』




