ハイパーパワフルガールこと雷動さんによる前説
『さーあ!皆さん!!今日も今日とて始まりました!!!後期評定戦――その名も「防衛戦!!!実況解説は放送部二年、ハイパーパワフルガールこと――雷動ちゃんです!!皆さん、どうぞよろしくお願いします!!!』
雷動のけたたましい声が仮想世界に作られたアリーナに響き渡ると、それに応じるように大きな歓声が挙げられた。
戦いの舞台に設置されたカメラの映像をどの角度からも見れるように映し出す大きなモニター。中央のそれを取り囲むようにして配置された観客席には大勢の学生たちのアバターが座り、熱気にあふれた視線をモニターに送っていた。手持ちの汎用VR機で仮想空間にアクセスしている学生たちである。
『さて、おととい昨日に引き続きの防衛戦ですが――昨日の私の活躍、見てくれていたでしょうか!?バッタバッタと敵をなぎ倒し、その勢いは留まること知らず!!最大撃破ポイントをたたき出したこの私の活躍を!!――え?お前のチーム、防衛も攻撃も失敗してたじゃないかって?チーム成績は散々じゃなかったって?――いいんです!!敵を一番倒した奴が偉いんです!!!だから私が、一番活躍したんです!!!』
雷動の言葉に会場から笑いの声と呆れの声が半々に上がる。呆れの声――その声の元は、彼女の同級生の二年生たち。チームプレイと言う言葉を知らない彼女に振り回されたチームメイト、あるいは散々に盤面を荒らされて無意味な被害を被った他チームのメンバーたちだった。
台本には存在しない彼女のアドリブ。何やら注意が入ったのか、『あ、はい。すみません――』などと雷動の小さな声が入り――
『さて、防衛戦を見るのもこれで三回目、皆さんそろそろ飽きてきた頃かと思われますが――しかーし!!!今日の防衛戦は一味違う!今日この舞台で戦うのは――初めての実戦を迎える一年生たちです!!!』
――そしてやっと、今日の主役である一年生たちに触れる。
『皆さんは覚えているでしょうか!一年前、あるいは二年前に初めてあの世界に降り立った時の気持ちを!!無機質に我々を向かい入れたビル群、試合開始とともにあちこちから聞こえてきた銃撃の音、そして鼻を突くような――血の匂い!!!今や私たちは慣れっことなってしまったそれですが――一年生たちは今日!!初めてそれらを経験するのです!!』
二年、三年になるにつれアルタレルムを使用した訓練が増えてくる。そのため上級生にとってもはや評定戦は非現実的でもなんでもなく、ただの訓練の延長として考える者が多くなっていく。
『訓練を重ねるごとに、それらは現実味を失っていく!故に今日、この戦いこそが最もリアルな戦闘です!!!準備はいいか、ニュービーども!!!今日君らが経験するそれこそが、私たちが目にできるそれこそが――本物だ!!!』
再びアリーナに歓声が巻き起こり、モニターに防衛戦の舞台が映された。