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ある日、僕らの落ちこぼれクラスに『世界最強』がやってきた  作者: 動物園と海
1.ある日、僕らの落ちこぼれクラスに『世界最強』がやってきた
10/19

6 本番前の暗い舞台裏で小さくMCが聞こえて来た時のあの感じ



『さて注目選手はやはり辰巳選手と戌亥選手の二大巨頭!!しかし今回は、異例の二人の転校生からも目が離せない!!この防衛戦、チーム人数は上限の8人、少なくとも7人や6人での参戦が普通です!しかしこの転校生たちは異例中の異例!癸亥選手は四人、一条選手は――まさかの一人での参戦!!!まさかチーム人数が集められなかったわけでもないでしょう!何を考えているのか――私、気になります!!』



 暗く広い、仮想世界の待機室の中。コントローラーパネルを操作してぷつりと実況の声を遮断した海和の耳に、静寂の音が飛び込んできた。

 鼻腔に感じる薄ら寒い空気と、高い天井につけられた光源から降り注ぐわずかな光の感触。半年前に経験した待機室と景色は似ていながら、しかし海和はそれが全くの別物であるかのように感じていた。



「……本当に大丈夫だよね」



 不安から、呟くように発された海和の言葉に、近くに座る明星が反応した。



「うんにゃ、昨日三画面三キャラ操作の練習したし、君らの動かし方はもう大丈夫」


「え?私たちゲームのキャラじゃないんだけど!」


「似たようなもんだろ」



 本気か冗談か、柊の言葉に沿う反応する明星の頭には、見たことのないゴーグルが付けらえていた。標準装備に付けられている映像共有システムを用いて海和たち三人の視覚を共有しつつ、拠点のマップホログラムと統合できる簡易指揮システム。

 明星はこれを使い、三人の視覚を把握しつつリアルタイムで作戦の立案を行う――そんな、常人では困難な指揮を行う予定だった。なるほど、ゲームのキャラ操作と言うのも案外的外れではない。



「……緊張してるのか?」


「うん。てか、ここに来て緊張してない人なんて明星ぐらいじゃないかな」



 これから自らの経験したことのない試験が始まるという状況で、その待合室がここなのだ。大なり小なり緊張はするものだ。

 足の上で組んだ海和の両手が小刻みに震える――そんな様子を見た明星は「ふーん、そんなもんか」と呟いて、



「……ま、俺が操作するんだから駆け引きレベルの不利はない。あとは一対一の戦闘で君たちが勝利するだけだ」


「言ってくれるなぁ。……戦略レベルでは不利もいいところなのに」


「不利……と言うか負けてるだろ、とうに。そもそも防衛捨ててるんだから」



 そう、今回は別に戦略レベルの勝ち――つまり、評定戦における順位は目指していない。はなから勝ち目がないからだ。

 しかし、わざわざそんなわかりきったことを尋ねた海和に、明星はその言葉に込められた不安を一周するかのように「フン」と息をした。



「大丈夫だよ。この一週間君らはよくやった。彼らよりも強くなったとは思わないが――少なくとも彼らに抗し得る武器を手に入れ、対等に戦えるレベルの連携力も育たれた。うん、だから――後は隠れパラメータの勝負」


「隠れパラメータ?」


「気力、精神力とか、そんな感じのやつ。どんな状況でも、勝てると思い込むことだ。仮に最悪な状況に陥ったとしても、まだ逆転の芽があることを信じて戦うことだ。……ま、それで本当に勝てるかどうかは分からんけどな」


「……そこはふつう、勝てるって言うもんじゃないの?」


「それほど楽観主義者じゃないんでね」



 明星の答えに、海和は小さく笑う。

 なるほどそうだ。確かに思っただけで勝てるのであれば、半年前の評定戦で海和はとうに勝っていただろう。


 だけど――



「うん、なんか勇気出て来た」


「そりゃよかった」



 『世界最強』からのお墨付き。少なくとも茨木達と対等に戦えるとの太鼓判。世界で明星の言葉より信用できるものはないだろう。なんてったって彼は、世界で一番強いのだから。



「お、修樹君元気出て来た?その粋だよ、全員ぶっ飛ばしていこー!ほら、啓君も!」


「……お前は気楽でいいよな。俺は先のことを考えると憂鬱だよ。あぁ――上手く能力発動できるかな……。操ろうとした糸が棒だった時のことを考えると……胃が痛い」


「啓君って意外に心配性なんだね。無用の先案じ、みたいな?」


「どういうことだよ……」


「心配しすぎってこと。大丈夫だって!私たちならやれるよ!」


「……君ら、足して二で割ったらいい感じかもね」



そんないつも通りの柊と折本の様子を見て、海和は緊張がほぐれていくのを感じていた。

この二人となら――勝てるかもしれない、と。



 ブザー音が聞こえ、試合開始まであと10分であるということと、試合会場への転送を開始することを伝えるウィンドウが海和たちの前に現れる。

 数秒後、体が分解されて再構築されるかのような奇妙な感覚と共に海和は試合会場へ転送された。そこは自分たちのチームの防衛拠点となっている一室の中。


椅子と机、棚がいくつか――オフィス然としたその部屋は、白く透明な壁に覆われていた。半年前の接近戦で、あるいは明星と茨木の模擬戦で見たことのある壁と同じ。試合開始までの行動を制限するためのバリアだろう。

 白いバリアのその外――部屋に一つだけあった窓の外に、海和は視線を移す。

 庭に生える緑の芝生、庭を囲うそれほど高くないフェンス、そしてその外に見える市街地と、さらに遠く――街の中心部に立ち並ぶビル群。

 一切の音が消えた見慣れない都市の景色に、これから起こるであろう戦いを想像すれば不気味とも思える静けさに、海和は緊張から唾をのむ。嵐の前の静けさってやつだろうか――と、柊譲りの感想を心の中で呟きつつ。



「……さて、これで全員かな」



 いつの間に転送されてきたのか――海和が明星のその声に振り返ると、部屋の中にはもうすでにチームの全員がそろっていた。

 通常軍の重装備とは似ても似つかぬシンプルな装備――柔軟性に優れ、超人の運動性能を阻害しないように作られた特殊装備――を身にまとった柊たち。明星だけは何やら知らない奇妙な武器をいくつか持ち込んでいるようであったが、基本的には全員が同じような格好だった。



「では、作戦のおさらいでもしようか」



 明星がそう言って、それから何度目かの作戦の説明が始まって。

そうして準備も整った頃に、試合開始のブザーが鳴った。





「――初期スキャンに成功しました。可視赤外(VNIR)、熱赤外(TIR)、その他複合スキャン、問題ありません」


「各選手の『首輪』は正常に作動しています。CWC(戦闘警戒態勢)コードは全てレッドに固定されました。生体データに異常ありません」


「各地域に設置された固定カメラ、並びに追跡ドローンの映像に問題ありません。その他計器についても正常です」


「よろしい。ではモニタリングを開始してください」



 アルタレルムの再現する第二の現実の、その外側の仮想世界。観客席と同レイヤーに作られたその一室は、生徒たちの戦いをモニターして評価するための部屋だった。

 生徒一人一人を追跡して映し出すモニターに、仮想世界に取り付けられた固定カメラとこちら側で操作ができるドローンカメラ。生徒たちからは物理的干渉を受けないように設定されたそれらを用いて、今回の評価は行われる。

 一グループに対して複数人つけられた監視員に、それぞれの戦いの戦況の流れ、あるいは全体の流れを分析する解析員たち。もはや今回戦う生徒の数にも迫るのではないかと思われるほどの膨大な数の人員でもって、海和たちの戦いは監視されていた。


 女性の指示で試合が始まり、設置された大きなモニターに動き始めた生徒たちの様子が映りだす。

 問題なく試合が始まった――その安堵からか、女性の隣に立つ新人の監視員がふう、とため息をついた。



「ついに始まりましたね、最後の戦い。や~、三日間きつかった。この試合が終われば終わりですもんね、評定戦」


「そうだけど……あなた、気を抜きすぎ。むしろこれからが本番なんだから、もっとシャントしなさい」


「はーい。……っても最初の方はどこも動きがないし、大丈夫なんじゃないですか?」


「血気盛んなチームなら、開始十分ぐらいで戦い始めるわよ。単に攻撃防御だけじゃなくて攻撃チーム同士の不意遭遇戦なんかもあるわけだし」


「いや、遭遇戦なんてそうそう起こりますかね。どっちのチームも特にうまみがないんだから――」


「あら、昨日の惨事を忘れたのかしら?」



 彼女がそう言うと、新人が「うっ」と苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 昨日の惨事――それは大会最高の撃破ポイントをたたき出した、とある一人の生徒の立ち回りのこと。チームプレイをほとんど無視したような彼女の戦い方に、戦況を解析するシステムがエラーを吐いたのだ。



「……ま、まあ彼女のことは置いといて。さすがに今日は一年生ですし、そんなことにはならないのでは?彼らはこれが初めての実戦。まともに戦えますかね」


「ま、そうね。確かに一年生は、例年消極的な子が多い。そうでない子であっても、初めの撃破までには結構な心理的障害がある」


「ですよねー。だから初めの方は戦いすら起きませんって」


「普通ならね。だけれど――」



 この場を統括する立場の女性――彼女は、手元にあるモニターに映る何人かの生徒たちの姿を眺める。この試合が始まる前に、注目すべき生徒であると判断した彼らの顔を。



「――今年の一年生は、普通じゃない」


「あー、辰巳君ですか?確かに彼は上級生顔負けですけど――」


「それだけじゃないわよ?正体の分からない転校生の二人、それに名門の出の子も今年は多いし、面白い子もちらほらいる。だから――ほら」



 そう言って彼女は、彼女の言葉に訝し気に首を傾ける新人に、顎で上部に設置された大きなモニターを指した。

 試合が開始してから十分程度。僅かそれだけの時間しか経過していないのにもかかわらず、その上部に示される解析結果は、もうすでに戦況が動き始めていることを示していた。そしてその下のモニターには、最も戦況を動かしていると判断された四人の追跡ドローンの映像が。

そこに映るのは――



「おわ、マジっすか」


「ええ、今年の一年生は――ちょっと面白いかも」



 辰巳隆元は笑顔を浮かべながら。

 戌亥風香はどこか苛立ったように。

 一条蓮月は眉一つ動かさずに。

 そして――海和修樹は表情を歪めながら。


 しかしいずれも躊躇なく、初めての撃破ポイントを獲得する様子だった。




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