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波乱の幕開け1

放課後にアキラと一緒に帰った次の日、楓は不安な気持ちを拭えないまま登校した。

楓の不安な気持ちとは関係なく、学校には昨日と同じ光景が広がっていた。

同じ制服、同じ校舎、校門をくぐる生徒の姿、交わされるあいさつ。

なに1つ変わったことなんてない。

教室へと続く廊下を歩きながら、ほんの些細な変化さえも見逃すことがないようにと楓はいつも以上に周囲に目を向けていた。

閉じられたドアの取っ手に手をかけてそっと開ける。


目の前にはいつもと変わらないアキラの笑顔が待っていた。


「おはよう」


「おはよう。相変わらず早いね」


「そういうお前は相変わらず遅いんだな」


「朝は苦手なの」


「おこちゃまめ」


昨日と同じ、いつも通りのアキラの軽口に安心している自分がいる。

今日も昨日と変わりない日常がここにはある。

壊してしまわないように楓は普段通り会話を心がける。


「もうすぐそうやってバカにするんだから!」


「バカにしてないだろ?いつまでたっても子どもだって言ってるだけ」


「それをバカにしてるって言うの!」


「だってひとりで起きれないんだろう?」


「起きれるもん」


「毎朝ギリギリの時間にしか登校できないのによく言うよ」


くだらない言い争いを飽きもせずに繰り広げる。

登校してきた速人がいつの間にか2人に合流する。

話の輪はしだいに飛躍していく。

チャイムが鳴ってしばらく経ってから担任が教室に入って来るまで、それは昨日の再現のように続けられていた。





午前の最後の授業、担当の教師が終わりを告げると教室はいっせいに騒がしくなる。

購買に走るもの、食堂に移動するもの、机を動かして友人と昼食を始めるものとみんな我先にと行動に移る。

楓もすぐに、仲のいいと友人2人と一緒に昼食を食べはじめた。

アキラと噂されるくらいにセットで見られがちの楓だが女友達がいないわけではなく、昼食はほとんどこの二人と食べている。

放課後には部活もしているアキラとは一緒に帰ることのほうがまれで、むしろ彼女たちとの時間の方が多いくらいだ。

それにやはり女同士でしか話せないこともあるので、いつもアキラとばかり一緒にいるわけではない。


「やっとご飯が食べられる」


ショートヘアの女の子は弁当箱を開いて真っ先にご飯に手をつける。


「あの先生って時間を気にしないよね」


ロングヘアの女の子がお茶を飲みながら同意を示す。


「本当よ。こっちはご飯前だっていうのに平気で時間オーバーするんだから」


「先生の話なんて誰も聞いてないのにね。昼食前は早めに終わってくださいって言ったら聞いてくれるかな」


唐揚げを箸でつまみあげながら楓もうなずく。


「萌香には無理。理沙が言えばいいよ」


「理沙が言えば先生も反論できないよ」


「なんで?」


「先生の方が迫力負けするから大人しく従うと思う。理沙にびびってこれからは早く授業が終わるかも」


「そんなわけないでしょう。萌香、その毒舌を止めて、楓も隣でうなずかない」


食べ終わった弁当箱を片づけながら理沙が萌香に注意をしているが、萌香は完全に無視して卵焼きを頬張っている。

さっぱりした性格の理沙は凛々しい美人タイプで男子にももてるけど、女子のファンも多い。

アネゴ肌で面倒見がよくとても頼りになる。

天然の萌香はまさにお嬢様で、美人というよりも可愛いタイプの女の子。

もちろん彼女も男子にもてるが、その毒舌で撃退している。

ともに容姿豊かな二人だが周りのミーハーな女の子たちとは全く違っていた。

楓がアキラと一緒にいようと嫉妬もしなければ媚も売ってこない。

なにより、彼女たちは人を見た目で判断したりしない。

彼女たちといるとアキラとはまた違った安心感を得ることができた。

楓にとって最高の女友達だ。


「さあ、デザート食べよう」


「理沙、食べすぎ」


「今日の5限は体育なんだからしっかり食べないと動けなくなる」


「それでも人には限度ってものがあると思うよ」


「萌香に同感」


「私の限界はまだまだ先だからいいんだよ」


日常の1コマ。

友人との穏やかなランチタイム。


その時間は唐突に壊されることとなる。

学校を駆け抜けたあるニュースとともに。


ほとんどの生徒が昼食を済ませて、ひと段落つこうかという頃、壊れるのではないかというくらい勢いよく教室のドアが開かれた。

ドアを力まかせに開いた男子生徒は転がるようにして教室に飛び込んでくる。

息も絶え絶えで苦しそうに肩を揺らしながらも、何か伝えたいことでもあるのだろう、口をパクパクと動かしている。

気遣う声がいくつもかけられているが彼が答えられるはずもなく乱れた息づかいだけが聞こえてくる。

彼は呼吸が楽になるのを待ってから、心配してくれたクラスメイトに向って自分に注目するよう促す。


「これは間違いなく今学期最大のニュースになるぞ」


よほど彼の好奇心を刺激するものがあったらしく誰が見ても明らかに興奮していた。

たいして興味のなかった楓は、傍観者を貫き適当に聞き流していた。

楓にとって無視できない1大ニュースがもたらされるとも知らずに。


「1年の中井愛美がアキラに告ったってよ」


高らかに告げられた知らせは疾風のごとき速さで教室中を駆け抜けた。


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