偽りの形2
楓の秘めた想い。
決意を知っている者がいる。
アキラと同じバスケ部の坂下速人。
彼はアキラの友達。
学年でもトップクラスの頭脳を誇る速人は洞察力にも優れている。
それが買いかぶりではないことを、楓はすでに知っていた。
彼と出会ってすぐに、身をもって体験させられたから。
速人との出会いは、楓にとって『アキラの友達を紹介してもらう』。
それ以上でも以下でもなかった。
アキラの友達だからといっても、別に楓の友達になるわけでもないし、ただ顔見知りが1人増えるだけ。
出会う前の速人の位置づけは、『親友の友達』。
それがどうだろう。
今では彼もなくてはならないと思えてしまう。
アキラとは違うけれど、でも、速人も楓にとって必要な人。
あの出会いはとても印象的で、今も色濃く記憶に残っている。
何事もなかった1度目の出会いとは違い、本当ならあったのかさえもわからない2度目の出会いは唐突にやってきた。
最初は気に食わない男だと憤りさえ感じていたというのに。
その感情はいったいどこへ行ったのやら。
180度変えられた。
アキラが楓を紹介した時、彼はどうしてか気付いたらしい。
楓がアキラに対して抱いている感情に。
その証拠に、楓の秘めた想いを速人は見事に言い当ててみせた。
初めて2人で話した時、速人から受けとったものは衝撃だった。
『アンタ、アキのこと好きだろ?』
まったく笑ってしまう。
笑うしかない。
初対面に近い、たいして親しくもない人間にいきなりバレるとは思ってもみなかった。
もう、アキラと一緒にはいられない。
あの笑顔がもらえない。
速人の言葉を聞いた時、楓の頭に真っ先に浮かんだのはそれだった。
きっと彼はアキラに話してしまうだろう。
お前が言う親友はお前のことを友達だなんて思ってない。
本当はお前のことが好きなんだよ。
とんだ偽りだ。
嘘をつかれていたなんて知ったら、アキラは傷つく。
友達だと思っていた人間が自分に恋愛感情を持っていたなんて、ショックを受けるに決まっている。
騙されていたことの事実をアキラがどう受け止めるのかはわからないけれど、これまでの関係ではいられない。
だって『親友』だなんて本当は思っていないから。
例え、嘘なんてついてないと楓が否定出来たとして、疑惑を持ったアキラが、俺のことが好きなのかと一言とそう問えば、違うと楓は口にすることが出来ないだろう。
好きかと問われて、否と答えられるほど、楓には上手くこの感情をコントロール出来る自信が持てなかったから。
今でさえ胸を突き破ろうとしている想いを掌で包み込むことは大変なのに、アキラがわざわざ緩めてくれた掌をきつく結ぶことなんて、楓に出来るわけがない。
終わりは簡単に訪れる。
全ては速人の手の中。
だから楓に残された手段は、開き直るしかなかった。
『そうよ、悪い?』
どうせなら最後は潔いまでに認めてやろう。
それはかなりの覚悟を持ってした言葉だったはず。
だけど、結局待っていたのは思っても見ない結末だった。
真剣な楓を前にして、あろうことか速人は笑っていた。
もちろん、その笑みは楓を馬鹿にした訳じゃない。
からかった訳でもない。
速人はただ純粋に笑っていた。
『いや悪くない。アンタはアキのことちゃんと見ているみたいだからな。表面だけじゃなくて内面を。
大切に思っているのが伝わってくるよ』
あの日、あの瞬間から、速人は『親友の友達』ではなくなった。
楓の友達になっていた。
楓の想いを知り、楓が唯一弱音を吐ける人。
それが、楓にとっての坂下速人。