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波乱の幕開け3

昼休みも半分を過ぎた頃、ようやく落着きを取り戻しつつあった教室にアキラは戻って来た。

教室へのドアが開かれた瞬間、再び教室が騒がしくなった。

アキラの姿を認めた途端に、先ほどこの騒ぎの原因を持ち込んだ張本人、山中が真っ先に突進して行った。

教室にとどまらず、廊下にまで響き渡るような大声を発しながら走る山中の迫力に押されて、アキラは教室に入ったところで立ち止まってしまう。


「アキラ!」


「なんだよ!?」


「お前―――」


「亮!」


事の真相を聞き出そうとした山中の台詞が最後まで続けられることはなかった。

山中の台詞を遮るような絶妙のタイミングで邪魔が入る。

ついさっきアキラが入って来たドアから、今度は隣のクラスの宮田が駆け込んで来た。

背後から聞こえた声に驚いたアキラが振り返ると、目の前には宮田の腕が迫っていた。

宮田は抱きつかんばかりの勢いでアキラの肩を掴み、そのまま前後に激しく揺さぶりながら問いただす。


「おい、聞いたぞ亮!」


「うるさい。とりあえず手を放せ」


アキラは有らん限りの力で肩に回された腕を叩き落とす。

よほど告白の答えが気になるのだろう、邪険に扱われたことなど気にも止めずに宮田は遮られた言葉の先を続けた。


「いいか、正直に答えろ。お前、1年の中井愛美に告られたんだって?」


「何で知ってるんだよ」


珍しく真剣な表情の宮田に対して、アキラは面倒くさいという表情を隠すことなく態度に表し、盛大に溜め息をついた。

つい今し方、おそらく起こってから1時間と経っていないの出来事が、すでに当事者以外の耳に入っているという事態に目を覆いたくなる。


「俺だけが知ってるわけじゃなくて、かなりの規模で広まってるぞ」


「はあ!?なんでだよ!」


「なんでって聞かれても、山中が校舎に響き渡るくらいの大声で叫びながら廊下を走って行ったからとしか答えようがないな」


「・・・山中」


地を這うような怒りを含んだ声が静かに教室中に浸透した。

アキラが怒るのも当然だと思ったのだろう誰も止めようとしなかった。


「悪いアキラ!」


言い終わるより早く、山中は入ってきた時と同じか、それ以上のスピードで教室から姿を消していた。

アキラからのきつい視線に耐え切れずに逃げ出したのだ。

その姿をもちろんアキラは追いかけようとしたが、欲しい答えを未だ貰えずにいる状態でのアキラの逃亡を宮田が許すわけもなく、後ろからしっかりと押さえ込まれる。


「まあまあ、山中のことは放っておいていいから」


「よくないから放せ!」


「ダメ。山中なんかより先に俺の質問に答えてくれよ」


「お前なんか後回しだ」


「はいはい、それで中井愛美とはどうなったんだ?」


「人の話を聞けよ!」


ニヤニヤと意地の悪い顔をしながらアキラに詰め寄る。

アキラを見逃す気など宮田の中にはみじんも存在しないのだろう。

後ずさるアキラに対して容赦がない。


「だいたい、なんでそんなにむきになるんだよ。別にお前には関係ないだろう」


「それが関係あるんだよ。お前に告白した相手はファンクラブまである、あの中井愛美だぜ。お前には報告の義務があるの。

それにな、なにも俺は自分の好奇心を満たすために聞いてるわけじゃない。

ここにいるクラスメイト、いや、事の真相を知りたがっている全校生徒のために聞いてるんだ。

俺は皆の言葉を代弁しているだけにすぎない」


まさに宮田の言う通りだった。

その証拠に、教室中どこを見てもみんながアキラと宮田の会話に耳を傾けている。

さらに、廊下にも騒ぎを聞きつけた生徒がちらほらと見受けられる。

廊下側の窓から身を乗り出している姿は、いっそのこと清々しいくらいに好奇心丸だしだ。

この場は事の真相を知りたい野次馬であふれている。

向けられる目はどれも輝いていて、とてもじゃないが彼らと視線を合わせることなどアキラにはできそうもない。

周囲を見回していたアキラの耳には彼らの声が届いていた。

もちろん、その声は楓の耳にもしっかりと否応なく入って来る。


羨ましい。

1年のくせに生意気。

相手があの子なら仕方ない。

お似合いの二人。


アキラと宮田のやり取りを遠巻きに見ながらささやかれる野次馬の言葉を楓の耳は次々と拾っていく。

羨望と嫉妬の入り混じった言葉はごく少数で、大半はあの二人ならばお似合いだと納得する言葉ばかりが交わされていた。

なんだかんだ言っても結局のところ、アキラと中井愛美は隣に並んでも遜色しない文句のつけようのない組み合わせなのだ。

周囲の反応がそれを物語っている。


できることなら聞きたくなかった。

カッコ良くて優しいアキラには、中井愛美のように可愛い女の子でなければ釣り合わない。

そんなこと私が1番わかっている。

誰よりも近くでアキラを見てきたのだから。

言葉を1つ拾うごとに楓の心が悲鳴を上げる。

まるで、お前などアキラには相応しくないと言われているように思えて、耳をふさいでしまいたいという誘惑に駆られた。

そうすればアキラの口から真実を聞くこともないだろう。

しかし、拒絶しろと訴える気持ちに素直に従うことを楓はできずにいた。

聞きたくないと駄々をこねるという行動は、親友という立場の楓には許されないものだったからだ。

親友の恋路を邪魔する人間などどこにいるというのか。

そんなことをすればすぐにばれてしまう。

秘める想いを悟られてはいけないというのに。

これ以上この場にとどまり続ければ余計なことを口走ってしまいそうだ。


己の恐ろしい考えに楓の顔色は一気に悪くなる。


「ちょっと保健室に行って来る」


考えるよりも早く楓は立ち上がっていた。

求めることも拒絶することすら選べない楓には、この場から逃げるという選択肢しか残されていなかった。


「ついて行こうか?」


突然立ち上がった楓の様子に、二人は顔を見合せて声をかけてきた。


「ううん、平気」


1人で大丈夫だと答えるが、それでも顔色が悪いと言って付き添うために二人は席を立とうとした。

その行動を見越して、楓は足早に歩き出す。

背中を向けて、後ろから聞こえてくる声を振り切った。

ただただ足を動かして、アキラの声が聞こえる場所から逃げ出してしまいたかった。


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