映画界を席巻する
最新式のAIが搭載された新式マルチメディアバーチャルタレントが発表される。どんどんとリアルさをます、ビジュアルと合成音声に今や伝統芸能を除く芸能分野はヴーチャルにとって変わられている。
クランクインを待つ映画の製作発表に合わせて3Dホログラムで投写されたVactor達が笑顔を浮かべたり、むくれたりと、キャラに応じた個性豊かな表情で意気込みを語っている。
足元の投写機がなければ本当にそこに人物がいるかのような錯覚を覚える。
この日、ネットメディアには多くの抗議があがっていた。
「我々を無視するな~」
「まだまだ私たちも必要だ」
声をあげてネットデモを展開する。
彼らの時代は終わった、すでに過去のものだと、世間は冷たい。
あるニュースサイトが有志による駅前周辺のデモの様子を伝える。
「ご覧下さい。我々にも権利をと主張する。彼らの姿を」
ここでアナウンサーは街頭を行く中、ふと足を止めて寂し気な表情を浮かべた老齢の男性へとインタビューを敢行する。
質のいいジャケットの上からロングコートを羽織り、編み上げの皮のブーツで足元を固める老人は、白髪を丁寧に後ろで纏めて縛り、やや色のはいった細めのレンズの眼鏡を細く鼻筋の通った鼻梁の上に乗せ、その奥の眼光は鋭い。
なんとは無しに話し掛けたアナウンサーは老人の迫力にすこし怖じ気た。
「デモの様子を御覧になっているようでしたが、どう思われますか」
「私も30年も前に同じことをした。足掻いたところで時代の流れさ」
そう、吐き捨てて去って行く老人。
困惑するアナウンサーの背後で、駅前広場に大型投影機を複数設置して写し出される旧型3Dホログラムによる初期型Vactorたちの姿が揺れていた。




