本当の最終決戦
何が、どうなった?
何故、ゼノスが……?
いや!それは、今はいい!!
「叔父上!!」
「俺は…いい……!余所見するな……!すぐには、死なん……!」
俺はゼノスを睨みつける……!
「ゼノス!!なにを……」
俺は気づいた……奴の気配がすることに……!
「ククク……気づいたか。そう、我だ。保険をかけておいて、正解だったな……」
「ゼノスをどこにやった!?貴様、憑依した……?いや、無理だ、そんなことは」
よく考えてみたら、無理だ。
憑依するにしても、長い時間がかかる。
さらには、下準備もなくできることではない。
「ほう、気づいたか。まあ、冥土の土産だ。教えてやろう。簡単な話だ。こやつは、我の転生体でもあるのだ。魂を2つに分けてな。その片方を、ずっと弟の一族に受け継がれるようにな。それならば、適応もしやすい。先程の身体は歳をとりすぎた……この身体はいいな……!今、強い肉体と最強の魔力を備えた……!あとは、お前を喰らうだけだ……!」
「トライデント王家……そういうことか!だからトライデントは、ウィンドルに攻め込まれないのか!」
「そういうことだ。そして、セントアレイはクローン用の牧場だからな。攻め込んでも意味がない」
「こんの……!」
いや!待て!怒るな……!
コントロールがブレる……!
俺は話しながらも、意識を集中する。
よし!今!
俺は心の中で唱える……フルリカバリー!
「どうした?怒らないのか?……つまらん。む!!」
叔父上の身体を光が包み込む……!
「無詠唱か!いよいよ、力が覚醒しつつあるな……。だが、甘いな。我のつけた傷は、それだけでは治らんぞ?」
「そんなことは、わかっている。細胞まで、傷がついてるからな。だが、これで叔父上が死ぬことはない。叔父上、お待ちください。こいつは、俺が殺す……!」
「ユウマ……すまないな。肝心な時に役に立たん……!そして、余力を残すな……!俺のことを気にして残しやがったら……ただじゃおかねえ……!」
「何をいうのですか!叔父上が庇ってくれなかったら、俺は即死でした!わかりました……あとは、俺に任せてください……!」
「言うようになったな……。あの、俺の足元をウロチョロしてたガキは……もう、俺が守る必要はないか……」
叔父上は、気を失ったようだ。
これで、少しの間は平気なはずだ。
「ん?最後の会話は終わったか?では、頂くとしよう。お前の心臓をな……!」
俺は結界に拒まれ、声も聞こえない仲間に目線だけ送る。
俺は、必ず勝つと……!
奴が俺に迫ってくる……!
「やれるものなら、やってみろ……!こい!」
トライデントとミストルティンが、激突する!
「フハハ!どうした!?リーチが足りないようだな!!」
俺は、伸縮するトライデントに防戦一方になる!
クソ!敵に回すと、こんなに厄介とは……!
奴の持ち前の腕と、ゼノスの身体により、その槍さばきは苛烈を極める……!
「ならば……!魔斬剣!!」
俺は連続して放つ!!
「グッ!!それか!」
奴は、それを避ける……何故避ける?
闇を纏えば避ける必要はない……。
あの威力なら、牽制程度にしかならないはず……。
もしや……まだ、身体を掌握できていない……?
試してみるか……!
俺は転移し、ミストルティンを叩きつける!
「グハッ!!」
「どうした!動きが鈍いぞ?」
「ぐ、おのれ……!邪魔をするな……!」
やはり、そうか!
ゼノスを乗っ取りきれていないな!
「この距離なら、槍はふれまい!!そもそも、弱くなったんじゃないか!?」
「舐めるなよ!我の本領はこちらだ……!」
よし!挑発に乗ったな!
奴の手から魔法が放たれる……!
俺はバッステップをし、迎撃態勢に移行する!
「なにを……?しまった!」
もう、遅い……!
俺はミストルティンで、その魔法を受ける!
よし!絶大な魔力だ!
さらに、これだ……!
「ミストルティン!!俺の魔力を全てもっていけ!!魔光剣!!」
俺は自分の魔力を上乗せして、放つ!!
「その魔力は!父の物!!クッ!!闇を纏え!!」
奴はギリギリで闇を纏う……が、遅い!
光と闇が混ざり合い、強大な力を生み出す!
その魔力の奔流に、奴はのまれる!
「防御がきかん……!お、おのれーー!!」
その魔力の波が過ぎ去ったあとには、全身から血を流す身体が横たわっていた。
「カハッ!……負けたか……だが、まあいい。我は転生できる……!いくらでも、やり直せるのだからな……」
こいつの言う通りだ……。
また、新たな災いが未来に残ってしまう……。
どうすればいい?魂を消すには……!
考えていると、ゼノスの身体から闇の塊が抜け出る。
「ククク……では、さらばだ!お前達の子孫は必ず根絶やしにしてやる……!」
クソ……!このままでは、逃げられる!!
その時だった。
俺の身体から、力と共に何かが抜ける。
そして、それは光の玉となり、闇を包み込む。
「兄貴、もういいだろう。そいつがさっき言った通りだ。父上は、負の連鎖を断ち切りたかったんだ。だから、デュラン師匠に頼んだんだ。兄貴を止めてくれと。自分では、息子は殺せないと」
「貴様……!弟か……!意識のみを受け継がせていたか!なんだその戯言は!我は信じない!!」
「だから、デュラン師匠に頼んだのだろう。兄貴がそう言うのが、わかっていたから……。師匠だって、可愛がっていた兄貴を斬りたくはなかったろうに……。だから、トドメが刺せなかった……人のことは、言えないけどな」
「なんだと……?デュラン兄上が……いや、あのデュランが……?」
「当たり前だろうに……。師匠が本気だったら塵1つ残っていないよ。血の繋がりはないが、自分を慕ってくれていた兄貴を殺せるわけがないじゃないか……」
「そんな……馬鹿な……我は、今まで何を……」
「さて、ユウマ」
「え?は、はい!」
俺は何が何だかわからないが、とりあえず返事をする。
「色々と、すまなかったね。保険として、意識を残しておいたんだ。だが、勘違いしないで欲しい。再生魔法、転移魔法、譲渡魔法以外は君の力だ。魔力の高さも、君本来の力だ。ただ……先程言った3つの魔法は俺がもっていくよ。これらは、本来あってはいけないものだ。君の子孫が善良とは、限らないしね……」
「そうですね……自分で使ってみてわかります。これらは、危険な力だと……ただ、1つだけお願いが……」
「安心してくれ。今やる」
そう言うと、叔父上とゼノスの身体が光りだす……!
俺とは違う……圧倒的な魔力……それに、この人はウィンドルより強い……!
「これで、よしと。では、もう行くよ。本来なら、俺の仕事だったのだが……押し付けてしまい、申し訳ない。俺にも身内だけは殺せなかった……」
「いえ……気持ちはわかります」
俺も結局、親父と兄貴を憎みきれなかったからな……。
「そうだな、君も複雑だったね……。だが、そのおかげで力が目覚めるのだから、皮肉なものだね……」
「あの……俺は俺ですかね?」
「ああ、間違いなく。君は、たしかに俺の生まれ変わりだ。だが、イコール俺ではない。君は君だ」
「……ありがとうございます。胸のつかえがとれた気がします」
「では、行くよ。兄貴、ほら行こう。父上も待っているよ」
「我は……会わす顔が……」
「ちゃんと償おう?俺も一緒に償うから…」
「……すまない、弟よ……」
そうして、闇を包んだ光は消えていった……。
……終わった……。
「団長!!」
「ユウマ!!」
「お兄ちゃん!!」
3人に飛びつかれる!
「おお!危ないな」
「ユウマ……」
「叔父上、良かった……」
「世話をかけたな……」
「いえ、こちらの台詞です」
さて、あいつは平気かな?
俺はゼノスに近づく。
「おい!ユウマ!」
「大丈夫です。もう、奴はいません。おい、ゼノス。寝たふりはよせ。起きているんだろう?」
「……このまま、放っておいてくれよ……。最後の最後で、アホみたいだ……!」
「別にアホでいいじゃないか。俺だってそうだ。ずっと気付かずに、生きてきた。仲良くやろうぜ?兄弟」
俺がゼノスに感じていたシンパシーは、これが原因だったのかもな……。
初めから信用できるというか、警戒心を抱かせなかった。
「ずっと疑問だった……どうして、ユウマ殿に親近感を感じるのか。境遇が似ているからと思っていた。だが、魂同士が兄弟だったからなのか…」
「さあ?それは、知らない。ただ、俺はお前を気に入っている。それでは、ダメか?」
「……敵わんな。意地を張っている俺が、馬鹿みたいだ……」
「まあ、気にするなとは言わない。ただ、お前のせいではない。な、叔父上」
「……チィ、仕方ない。俺を刺したことは、許してやる」
「……感謝する」
俺はゼノスに肩を貸して、歩きだす。
「じゃあ、行こうか。兄貴?」
「………ああ、弟よ」
こうして、最後の戦いが幕を下ろした。
さあ、平和な時代を始めよう。