プロローグ的なもの
最初の説明となりますことから、少し暗くなってしまっております。この後の話で明るくなっていきますので、ご容赦いただきたくお願い申し上げます。
【プロローグ的なもの:兄の自殺】
年の離れた兄は優しかった。
ゲームが好きで、沢山持っていて、それを小学生の僕や僕の友人達にも遊ばせてくれた。アニメや漫画、カードゲームも詳しく、優しく教えてくれ、時には盛り上げてくれる兄と過ごす時間は、いつも本当に楽しかった。
父親は仕事で忙しかったこともあり、父親にやってもらうような事や教わるような事はすべて兄からだった。母も仕事人間で、家の事はお手伝いさんがやってくれたが、兄がたまに作ってくれる料理が美味しく、母の味とは、僕にとって兄の料理がそれであった。幼き頃の僕にとって兄は、優しい両親であったような気がする。
兄のおかげで小学校時代は友人が多かった。僕の家にはいつも新しいゲームがあり、僕の家は人気の遊びスポットとなった。気が付けば親友ができ、中学以降もその親友達と同じ部活で苦楽をともにしていった。時には笑いあい、ケンカをし、好きな女子を奪い合い…そうやって青春を謳歌することができた。別の高校に進学してもわざわざ時間を作っては一緒に遊んだりもしたし、大学生になった今でも、正月には必ず集まりバカ騒ぎをして幸せを感じている。
あまり両親からの愛情は受けた記憶は無かったが、それらを兄と親友達が埋めてくれた様な気がした。これらの思い出のおかげで僕は、前に進むことができてきたのであろう。しんどかった就職活動も、納得のいく終わりを迎えることができた。
これから希望を持ち社会に飛び立つ、まさにその時・・・
兄が自殺したのだった。
【プロローグ的なもの②:その理由】
僕が小学生の頃、もうすでに兄は就職していた。元々あまり明るいタイプの人では無かったことに加え、仕事後も弟の世話や遊び相手をせねばならず、同僚とのコミュニケーションは皆無だったようだ。そのせいか職場に馴染めず、就職先を転々とし、僕が中学を卒業するころには働かない時期もできていった。幸いにして両親がある程度の稼ぎがあったこともあり、兄が働かなくとも困りはしなかったが、僕がある程度自立できていった事から、兄は人との接点が無くなっていった。
気が付けば兄は独りだった。世話をしていた弟は恩も感じず、兄のおかげで出来た友人と青春を謳歌し、見向きもしなくなっていった。
そして僕が高校1年の頃、兄に追い打ちをかけるように母が交通事故で他界した。
僕は正直、あまり母との思い出が無かった事もあり、あまりショックは感じなかったが、すでに極限状態であった兄はより暗い影を落とし、完全に気が滅入ってしまったように見えた。
僕は、兄から目を背けた。どうしたらいいか分からない。どうする事も出来ないが故、目を背け、自分の未来だけに目を向けてしまった。
なんて酷い弟か…だから兄が自殺したと聞いた時、僕は自分の心に強い痛みを感じたのだった。
【プロローグ的なもの:父親からの珍しい連絡】
自殺の知らせは大学の教授を通じてだった。父から大学事務局へ連絡があり、それを所属するゼミの教授が伝えてくれたのだ。僕は父親がどこで働いているかもよく知らず、また父親も僕個人の連絡先など知らないほど遠い存在だった。そしてそんな父から、僕にあった連絡内容は、”兄が自殺した”という情報と、それが”未遂に終わった”という事。それに加え、”とある研究施設に来てほしい”というものだった。
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【やっと始まる:場所は父の職場】
”とある研究施設”、一命を取りとめた兄はそこにいた。薄い緑色の液体につけられ、酸素マスクのようなものと、ゴーグルをつけられ、頭から足先まで無数の線が張り付いていた。どこかの惑星で戦闘民族が回復するような装置の中に兄がいたのだ。
「ち、父さん、これはどういう状況でしょうか?」
父親を呼び慣れな過ぎて父上と言ってしまいそうだった。
「治療中だ。加えていうなら身体的損傷はもう問題ない。だが、お前の兄さんは・・・」
父上は少し苦しそうに、また涙をこらえるように続けた。
「この世の中で過ごすことが向いていなかった。だから、私はこいつを別の場所に連れて行こうと思っている」
やはり…この見た目的に緑色の人たちが住む世界に連れていくのか…
「別の場所とはどこでしょうか?」
「仮想世界だ。そこには彼を苦しめるものは何もない。」
アホな僕の想像に似たり寄ったりな回答では無いだろうか…。兄さん、僕らの父親はまぁまぁヤバいやつでした。
「仮想世界とは、その…、どういう意味でしょうか?」
「体験すればお前も分かる。この件について手伝ってもらおうと思い、ここに呼んだのだ」
まじかい…。僕もあの回復装置の中に入るのですか…。なんか電極とかつけられてるし、何より液体の中だし、とても大丈夫とは思えないが…。
「お前の兄さんを救うためだ。やってくれるな?」
この時気づいた、きっとこの人も僕と同じ気持ちなのだと。目を背け続けてきた事にようやく向き合う覚悟ができたような、そんな気持ちが伝わってきた。
「兄さんのためなら」
ようやく向き合う事ができる。遅くなってごめんなさい。頑張るよ兄さん。
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【異世界とは天国(あの世)でした】
竹林の匂い、昔、兄と一緒に自宅の裏にある竹林でタケノコを取りにいったことを思い出すような香りがした。そして自分の頬に土の感触を感じ、今地面に横たわっていることを把握した。
「すごいな・・・」
目を開け、体を起こし、周囲を見渡す。そこにあるのは自宅の裏にある竹林のそれを彷彿とさせるリアルな竹林があった。全くと言っていいほど違和感がない。立ち上がり、袖についた砂をはらおうとした時、
「和服?いや白装束か…」
白い絹の着物を着ている事に気が付いた。肌ざわりが良く、身にまとった事の無い感触がする。
「本当に死んだんかも知れんな…」
多数の電極とゴーグルを付けられ、謎の緑色の液体に漬けられ、意識を失わされ、気が付けば白装束…。何も聞いていなければ確実に死んだと思ってしまう・
「いや、まぁ死後の世界があれば割と嬉しいような気もするな!」
まぁ実際は仮想世界とやら何だろうけど、父親が言っていた通りに話が進まなければまだ信じることもできないかもしれない。
「確か、道が見えるって…あれか」
竹林に光がさす方向に道が見える。その道に出るまでが父親に言われた最初の指示。竹林の間を通り、ガサガサと音を立てながら道にでる。開けたその道には光がさし、少し目がくらむ。そしてその先に…。
「兄さん…」
その先にいた兄さんは驚きながらこちらを向き、そして、さらに驚きながら口を開いた
「どうしてここに…どうして…」
驚く兄さんに向かって、二つ目の父親からの指示を実行する。
「僕もよく分からない。けどもしかしたら…死んじゃったかもしれない(笑)」
いや本当に。
しかし、父親の言っていたことが現実なっている。そして二つ目の指示は、竹林のから出た道に兄さんがいて、自分が死んだかもしれないと告げる。理由は…
「大学からの帰りにバイクで事故った気がするんだ。気が付いたらこんな場所でこんな格好だから…」
我ながらそこそこ。この芝居の目的は兄さんにここを死後の世界だと思ってもらうのが大切…らしい。
「そ、そうか…」
やはり、という兄さんの表情。どうやら信じてもらえたようだ。
「兄さんも心当たりある?」
「俺は…。俺も…。体調が悪かったから、もしかしたら死んでしまったのかも知れない」
そうか、自殺とは言いづらいよな。
「そっか…。でも死んだ後が兄さんと一緒でよかったよ!」
「!」
兄さんの顔が少し驚いたように見えた。そして涙を浮かべながら
「そうか。俺もよかったよ(笑)」
昔の優しい兄さんの笑顔が久しぶりに見れた瞬間だった。
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【父親が地蔵で職業選択:え?RPGだったの!?】
読んでいただきありがとうございます。またこのような仕上がりで大変恐縮です。少しずつ面白くなっていけばと思っております。色々、直しながら頑張っていきますので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。