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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたと月に移住する日

作者: 琴ノ音 純

【1】


 月の裏側にあなたと住むユメにイキてる。


1「今日は何をしよっか?」


 もう私たちにとってイキることは、ただ脳を刺激し合うことだったから。


0「日付を決めましょう。地球が滅びるまでの」

1「それ、昨日もやったよ」

0「いいの。あなたとなら、何度だって繰り返せるわ」

1「そんなに私って太陽みたい?」

0「うん。温かいよ」

1「あなたも、温かいよ」


 お互いが太陽のような日々だった。

 だから、こんな幸せが続くはずがないとどこかで思い知らされていた。


 私たちは、今日を創っている。

 少しづつ、壊れてゆきながら。



0「……もう、お昼過ぎ」


 ユメから醒めることは、私にとって死ぬことだった。

 だから毎日のように、死んで初めて、自分がイキていたことを思い知らされてしまう。


0「目を開くのもめんどくさい」


 目覚ましはかけなくなった。

 あなたとのユメのセイ活を、邪魔されたくないから。

 寝ているだけの魅力が増えていくジンセイ。

 スマホに文字を綴っていくだけのセイメイ。

 物語にもなってないような、空想小説の中でイキをする。

 けれど皆、そんな自分の世界を共有することでイキてる。


0「他人の思考に感染しないようマスクをつけるのも、もう限界だもん」


 身体を向き合わせることの危険性に気づき始めた人間は、やっとヒトになることを覚え始めていた。


0「もうお金もいらなるんだろうな。食料と一緒に」


 仕事は危ない娯楽になって、脳を殺したい人だけが疲れない体でするようになった。

 信用がいらないぶん、会話する相手が不要になっただけだ。


0「独り言なんて、もう辞めにしないと」


 身体に脳をしまっておくことの危険性に気づき始めたヒトは、やっとユメをみる機械になることを考え始めていた。


0「ああ、気持ちいいな」


 全部身体のせいにして、眠りに落ちていく。 

 こうして眠り続けていれば、いつかは過去に戻れる気がした。

 体無しであなたに出逢って、恋無しであなたと自由落下していたかった。


0「涙で死を洗うのも、もう疲れたでしょ?」


 世界から性別が不要になるなら、早く私たちをアイしあえる機械にして、月に送ってほしい。


0「ああ、気持ち悪いな」


 誰よりも純粋にあなたを想えるこの心も、言葉になる以外の役に立たないなら意味もなかった。


0「痛々しいって、笑ってよ」


 服も、髪も、ゲームも、全部捨てたから。


 私たちは、今日を創っている。

 少しづつ、壊れてゆきながら。



1「今日は何をしよっか?」


 もう私たちにとってイキきることは、ただ脳を刺激し合うことだから。


0「日付を決めましょう。地球が滅びるまでの」

1「それ、昨日もやったよ」

0「いいの。あなたとなら、何度だって繰り返せるわ」

1「そんなに私って太陽みたい?」

0「うん。温かいよ」

1「あなたも、温かいよ」


 目の前で枯れ死んでゆく鮮やかな花みたいな骨を眺めていた。

 私だけの死。

 私も、あなただけの死にさせて。


 私たちは、今日を創っている。

 少しづつ、壊れてゆきながら。


【0】

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