あなたと月に移住する日
【1】
月の裏側にあなたと住むユメにイキてる。
1「今日は何をしよっか?」
もう私たちにとってイキることは、ただ脳を刺激し合うことだったから。
0「日付を決めましょう。地球が滅びるまでの」
1「それ、昨日もやったよ」
0「いいの。あなたとなら、何度だって繰り返せるわ」
1「そんなに私って太陽みたい?」
0「うん。温かいよ」
1「あなたも、温かいよ」
お互いが太陽のような日々だった。
だから、こんな幸せが続くはずがないとどこかで思い知らされていた。
私たちは、今日を創っている。
少しづつ、壊れてゆきながら。
◑
0「……もう、お昼過ぎ」
ユメから醒めることは、私にとって死ぬことだった。
だから毎日のように、死んで初めて、自分がイキていたことを思い知らされてしまう。
0「目を開くのもめんどくさい」
目覚ましはかけなくなった。
あなたとのユメのセイ活を、邪魔されたくないから。
寝ているだけの魅力が増えていくジンセイ。
スマホに文字を綴っていくだけのセイメイ。
物語にもなってないような、空想小説の中でイキをする。
けれど皆、そんな自分の世界を共有することでイキてる。
0「他人の思考に感染しないようマスクをつけるのも、もう限界だもん」
身体を向き合わせることの危険性に気づき始めた人間は、やっとヒトになることを覚え始めていた。
0「もうお金もいらなるんだろうな。食料と一緒に」
仕事は危ない娯楽になって、脳を殺したい人だけが疲れない体でするようになった。
信用がいらないぶん、会話する相手が不要になっただけだ。
0「独り言なんて、もう辞めにしないと」
身体に脳をしまっておくことの危険性に気づき始めたヒトは、やっとユメをみる機械になることを考え始めていた。
0「ああ、気持ちいいな」
全部身体のせいにして、眠りに落ちていく。
こうして眠り続けていれば、いつかは過去に戻れる気がした。
体無しであなたに出逢って、恋無しであなたと自由落下していたかった。
0「涙で死を洗うのも、もう疲れたでしょ?」
世界から性別が不要になるなら、早く私たちをアイしあえる機械にして、月に送ってほしい。
0「ああ、気持ち悪いな」
誰よりも純粋にあなたを想えるこの心も、言葉になる以外の役に立たないなら意味もなかった。
0「痛々しいって、笑ってよ」
服も、髪も、ゲームも、全部捨てたから。
私たちは、今日を創っている。
少しづつ、壊れてゆきながら。
◐
1「今日は何をしよっか?」
もう私たちにとってイキきることは、ただ脳を刺激し合うことだから。
0「日付を決めましょう。地球が滅びるまでの」
1「それ、昨日もやったよ」
0「いいの。あなたとなら、何度だって繰り返せるわ」
1「そんなに私って太陽みたい?」
0「うん。温かいよ」
1「あなたも、温かいよ」
目の前で枯れ死んでゆく鮮やかな花みたいな骨を眺めていた。
私だけの死。
私も、あなただけの死にさせて。
私たちは、今日を創っている。
少しづつ、壊れてゆきながら。
【0】