夫の役目(ウルハ)
ウルハの結婚生活の一部を切り取ったような感じのお話です。
読まない方がいいかもしれないような…
読了後、嫌な感じにさせてしまったらごめんなさいです!
ウルハが妻を娶った理由。それは偏に簡単だから。
若い娘を妻に迎えるのはよくあることだが、十一も年下の娘はウルハにとって小娘以外の何物でもない。男尊女卑の世界で生まれ育ち、それが当たり前になっているウルハにとって、妻に迎えた娘は駒の一つにすぎなかった。
ギ国侵攻に合わせ、西を治めるロギ家が政治に口出ししようと画策していた。当主は小心者のくせに、皇帝に向かって脅しをかけてきている。ロギ家当主にとっては一世一代の気合であったのだろうが、ウルハにとっては肩に落ちた埃に等しい。
最も簡単なのは排除すること。けれど皇帝が望まないからロギ家の娘を後宮に入れる。しかし皇帝はそれも望まない。皇帝の言葉全てに耳を傾けていたら仕事が進まない。無視して後宮入りさせる選択もできたが、何かにつけウルハの心に侵入して来る小娘が……クユリが、ウルハに別の判断を取らせるのだ。
全ては皇帝のため――
これまでのウルハは皇帝を生かすためだけに生きて来たのに、面倒な女の姿がちらつくようになった。面倒だが、厭う気持ちは湧かない。いつの間にか皇帝だけではなく、クユリの心を傷つけたくないなと思うようになっていた。ただし泣く顔は見たいと思う辺り、ウルハは性格が歪んでいるのだろう。
しかし泣かせるのは他の誰かであるのは許し難い。皇帝が我を忘れ入水し、クユリと抱き合う姿を目に納めたウルハは、面倒な妻という存在を娶ると決める。
女は面倒だが、二人のためなら容易かった。二人を守るには最も簡単な決断だ。失敗した時の為にいくつかの選択肢を準備しておいたが、想像通り無用になった。
「まぁ~た、愛しいどなたかのことを考えていらっしゃるのでしょう?」
妻のスランがウルハの袖を引き、少しばかりつり上がった目で夫を見上げる。
美人の類だが、内面の気の強さが現れた目をウルハは気に入っていた。
「愛しいと言えばあなたのことですね」
「ええそうね。ウルハ様はわたくしに懸想して、わたくしもウルハ様に心を奪われて不義をおかしたのですもの」
満足そうに頷いたスランは、お気に入りの宝石商が商う店に夫を誘った。
ウルハは皇帝の妃になる予定だったロギ家の娘を寝取り妻にした。
やがて妻は男子を産み落とすと、役目を一つ果たしたと安堵したスランは、腹が軽くなるや華やかな都遊びに興じるようになる。
ど田舎で深窓の娘として育てられたスランは、屋敷に商人を呼ぶよりも、自ら出向いて華やかな都を楽しむのが好みらしい。
生まれた子供は乳母に預け、子と接するのも宮殿に出仕しているウルハの方が多い始末だが、貴族の世界では当然の、当たり前の現象なのでとやかく言うつもりはない。
生まれた子もそのうち生まれる皇太子の学友兼遊び相手として、幼い頃から出仕することになるのだ。遊びに浮かれる母親に倣うよりも、金や権力や華やかなものではなく、黴臭い古本に興味を持つクユリに学ぶ方がよほど為になる。
スランはウルハと結婚できないなら死んでやると暴れたが、実際のところ二人の間に愛など欠片も生まれはしなかった。利害関係の一致、それしかない。
若く愚かな女でも、スランは馬鹿な娘ではなかった。
皇帝の寵を争い、後宮に閉じ込められ生涯を終えるよりも、華やかな世界で生を満喫することを望んだ。ウルハが鎌をかければあっさりと本性を曝して、ついでに喜んで肌も曝してくれたという訳だ。
扱いやすい妻をウルハはそれなりに気に入っている。
「ねぇウルハ様。この翡翠、とっても素晴らしいとおもわない?」
「そうですね」
翡翠の玉が連なる首飾りに瞳を輝かせる妻。
妻を着飾らせ、過剰にならない程度の贅沢を与えるのは夫の役目である。同時に、似合わないと正直に言わないのも夫の役目。
ウルハはウルハなりに夫婦生活を上手くこなしていた。




