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堕落はだめ



 ウルハの謹慎は二か月に及び、クユリは忙しい毎日を送っている。

 上司ウルハの指示はリンが届けてくれるが、全てが円滑なわけではない。やはりウルハの抜けた穴は大きく、皇帝は徹夜続きの毎日を送っていた。

 季節は秋を迎え、レイカン国は今年も多くの実りがあり豊かな一年を過ごせそうだが、穀物やら何やらの取れ高に関する最終的な報告が、ウルハの検閲なしで皇帝の手元に届いてしまうのだ。

 クユリも手伝ったが、一つ一つに目を通して、昨年との取れ高の差や計算の間違い等、おかしな箇所を見つけると下に差し戻して確認させる。これまでウルハが全てを担っていたお陰でずいぶん楽をしていたのもあるし、ウルハの不在のせいで下がぬるくなっているのもある。

 とにかく目の回るような忙しさだ。

 

「陛下がお怒りです」


 と言えば、書類を戻された者は震えあがって次は間違いなく提出してくれるが、ウルハがいないだけでこれとは――官職に堕落した人間がいるのは分かっていたが、手違いの多さにさすがのクユリもむっとしていた。


「なんというか。ウルハ様の偉大さを思い知った感じです」


 皇帝が入れてくれたお茶をすすりながら愚痴るクユリに、「そうだねぇ」と皇帝も同意する。


「鬼とか鉄仮面とか血が通ってないとか緑の血とか……色々言われているみたいですが、毒舌で威圧的で冷酷なウルハ様って存在があったからこそ、仕事が円滑に進んでいたというのがよく分かりました。ウルハ様にチクチク言われるのは心を抉られるし、言われている人を見たら可哀想に思っていましたが、必要なことだったのだと実感しています」

「そうだねぇ。クユリが怒っても可愛いだけだし」

「――陛下。真面目な話ですよ?」

「私は真面目だよ。ウルハが偉大であることを思い知った。私は血筋のせいで帝位に就いているが、実際にはウルハと二人合わせて皇帝という感じであるしね」


 ウルハは有能な補佐官だが、皇帝ではない。しかし皇帝として君臨するには頭が切れて容赦のないウルハの方が似合っている感じもあるが、民が望んだのは敵国から国を守ってくれる強い皇帝だ。

 しかしながら、武に長ける皇帝も平和な世の中では必要とされなくなる。次に重宝されるのは国を豊かにしてくれる皇帝だ。


「ウルハもロギ家から妻も迎えて落ち着いた頃だろう。謹慎もまもなく解ける。出仕したウルハに冷たい目を向けられない為にも、もうひと頑張りしておこう。クユリはお茶を飲み終わったら後宮に戻りなさい」

「わたしも手伝いますよ。指示書を書くにしても陛下の字は汚いので、わたしが書いた方が読めなかったとの言い訳をさせずにすみます」

「確かに私の字は汚いが……まぁそうだけど。ずっと深夜業務が続いているから、読書の時間も取れていないだろう。ウルハが戻ってくる前にゆっくりしてはどうだい?」

「ウルハ様が戻ってきたらゆっくりしますよ?」

「あのウルハだよ。私達が完璧にやってのけたと思った仕事もあらを見つけてくれるウルハだ。私はともかく、有能なクユリは暫く手放してもらえないだろう。机が枕になりかねない」


 皇帝の指摘に確かにそうだとクユリは苦笑いした。


「だから今日は早く上がりなさい」

「そうですね。分かりました。でも――もう少しだけ一緒にいさせてください」

「一緒に?」

「陛下はお忙しすぎて後宮に通う暇もありませんから。一緒に過ごせるのは陛下の執務室(ここ)だけですし」


 ウルハが謹慎してからは忙しすぎて、皇帝が後宮に通う暇はなくなっていた。もともと後宮に通う習慣のなかった皇帝なので元の生活に戻ったとも言えるが、後宮の妃たちはクユリが愛想を尽かされたと喜んでいる。

 誰か一人だけが寵愛されるよりは、全員が放っておかれる方が嬉しいようで、近頃はめっきり嫌がらせがなくなった。

 最後の嫌がらせは、クユリの居住区の池に大量のボウフラが投入されたことだろうか。お陰で蚊が大発生したので、虫よけの草を大量に燻したら、干した衣に嫌な臭いがついたとの苦情が殺到してしまい、申し訳なかったと思っている。

 

 そんなことを思い出していると、皇帝が目の前に立っており、瞳を濡らして「クユリ」と名前を呼ばれた。

 あれ、なんだろう。何かスイッチ押したのか?

 

「そなたは私と一緒にいたいのだね?」

「あー、はい。そうですね……」


 夜のお渡りがなくて寂しいとか、そんな意味で言ったのではないのだが、皇帝にはそのように伝わってしまったらしい。それでも一緒にいたいとの気持ちは本物なので、間違って取られてもいいのだが、こんな所で盛られるのはご勘弁願いたい。

 クユリは皇帝の手が伸びる前に、墨を含んだ筆を皇帝の目の前に差し出した。


「ウルハ様が謹慎なんて二度とないかもしれませんが、またあるかもしれません。その時に備えて、陛下には字の練習をもっとやってもらいましょう。そうしたら読み間違いや、読めなかったとの言い訳ができなくなります」

「ああ、うん。そうだね。少しは上達したかと思ったけど。美しい字を書くクユリからすると、私の字は手習いを始めた子供の文字のようなのだろうか……」


 差し出した筆を受け取った皇帝は、しゅんと項垂れて、ぶつぶつ言いながら席に戻っていく。ちょっと可哀想かなとは思ったが、いつ誰が来るか分からない仕事部屋で夫婦に戻るつもりはクユリにはない。

 仕事は仕事。

 きっちり節度を持たないと人は堕落するものだ。

 




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― 新着の感想 ―
[一言] >いつ誰が来るか分からない仕事部屋で夫婦に戻るつもりはクユリにはない ・仕事部屋で夫婦生活実施 ・見つかる ・皇帝陛下男色説 ・クユリへの風当たりが減る 完璧じゃあないですか・・・ 皇帝…
[一言] 上げて落とす。 いや、これは勘違いした皇帝が悪いな。
[一言] 陛下には容赦無しですね(笑) それが出来るからクユリなんすけどww
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