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現在、青年は新緑の森の中をひたすら歩いて関所を目指していた。
彼にとっての事の起こりは1週間ほど前に遡る。
所属している大教会の重々しい扉の前にいた。
「ジーン カルナです。失礼します。」
許可を得て、扉を開けた。彼の上司である男性が、にこやかに応対する。
「入りなさい。よく来てくれたね」
「ゼルファ大神官長様、何かお呼びでしょうか?」
どう切り出したらいいか、困った表情で口を開いた。
「急に決まったのだが、家格に見合う若者がいないかと思っていたんだ。なんといっても山を越えて行ってもらうことになるし」
いつもにもまして前置きが多いし、何を言いたいのかわからない。
「ああ、そうそう、大変申し訳ないのだが、シオラオース君が例のごとく行方不明でね…。それでだ、代わりに行ってくれないかなって?」
ゼルファは、人に良さそうな笑みを浮かべる。
「どちらに?」
ジーンは無表情に聞き、その内容に絶句した。
「王の使者として、リクカス王国へ一人で行ってもらえないだろうか?皆んなには内緒だよ。」
「みんなには内緒だよって、かるく言いやがって!」
要領の得ない上司より、命令した張本人に聞くしかなかった。