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修羅場之姫武者  作者: 山極由磨
壱ノ段 餓舎ヶ原ノ合戦
9/11

餓舎ヶ原ノ合戦 弐ノ幕

此処より凄惨な戦闘シーンが始まります。

 払暁。


 乳を流したような濃厚な朝もやが、餓舎ヶ原を覆う。

 その己の指先すらも見えぬ様な白い闇の中を、草を踏みしだき、静々と進むのは、槍の穂先を延々と並べた、大僧将臥雲隷下の戦僧隊。その数五万。

 鉄板を縫い込んだ黒い頭巾で顔を覆い、黙々と列国同盟陣に向かって突き進む。

 幾本もの小川を足を忍ばせ渡渉し、敵陣目前の小高い丘に立つと歩みを止めた。

 騎馬の鑓頭が隊の前面に出でて、様子をうかがう。

 時来たり、と、確信し、馬手を高々と挙げ、振り下ろした。

 その時。


 鬨の声、軍馬のいななき、甲冑の擦れ合う音、無数の蹄が大地を踏みしめる地鳴り。

 白い闇を食い破り、戦僧の眼前に突如現れたのは、鳶色の馬鎧に覆われた巨大な軍馬。それを駆るのは、同じ色の甲冑に身を包み、薙刀を振りかざす小柄な武者。

 背後には、様々な具足の騎馬武者の群れ。列国同盟浪人組一万。


「槍衾!槍衾を成せ!」


 鑓頭の怒号が飛び、戦僧達は己の得物の長槍の石突を地面に斜めに突き刺し、穂先を迫りくる敵に向ける。

 現れたのは寸分の隙も無い槍の森。まっすぐに突っ込めば串刺しの憂き目に遭う。

 それでも、一万の騎馬武者は傲然と突き進む。

 先頭を駆ける騎馬武者。冴が吼えた。


「邪宗徒の槍なぞ、何するものぞ!」


 穂先が、突っ込んでくる彼女の胸元をとらえる。

 が、槍は胴を貫かず、穂先の根本は弾け折れ、槍を構えた戦僧は、凄まじい勢いで真後ろに吹き飛ぶ。

 同じことが、最前列の戦僧達を襲う。


「我らが具足、悉くヒヒイロカネの拵えよ。忘れたか戯け坊主共が」


 二頭立ての馬車を駆る朗豪が叫んで加々と笑い、槍を失い、茫然とへたり込む戦僧の頭を、得物の戦斧で叩き割る。


 ヒヒイロカネ。

 この『ホツマノ界』にて産する金属。

 鎧として拵えれば、あらゆる矢を刃を槍を跳ね返し、剣として鍛えれば、およそ世に切れぬものが無いと思えるほどの業物となる。

 しかし、産する量が非常に少なく、拵え鍛えるのも難渋を極める故に、ヒヒイロカネの武器や武具を持てる武者は、当代一流の武芸者か、国主の地位を持つ者に限られる。

 まさに、誉れ高き武人の証。


 それでも戦僧達は、参を乱すことも無く、槍を振るい、槍を失った者は腰の刀を抜きはらい、怨敵を呪詛する経を唱えつつ、浪人組に挑みかかる。

 それに立ち向かうは冴。

 愛用の薙刀、名工、崎前 宗実の作、号『鋼融』を振りかざし、愛馬、雷電の脇腹を蹴り襲歩を命じる。

 目指すは敵の鑓頭、頭さえもぎ取れば、鉄の結束を誇る戦僧どもも統制を失う。

 阻止せんと達はだがる戦僧達に、冴は馬上から、右に左にとまるで暴風雨の様に、刃を繰り出し、次々と躯に変えてゆく。

 返り血が深紅の花となり咲き乱れ、魂消る悲鳴が耳朶を打ち、切り飛ばされた四肢が宙を舞い、躯が地面を覆ってゆく。

 

「流石姫武者!まるで水車で動く碾臼の様に、敵をひきつぶして行きよるぞ!」


 朗豪は両の手の戦斧で、右から迫る戦僧の胴を、左から迫る戦僧の首を、断ち切り吹き飛ばしつつ、可々と大笑する。

 その右の頬を、一本の矢が掠める。

 的は朗豪の二頭立て馬車に攀じ登らんとする戦僧。眉間に深々と矢を喰らい、そのまま転げ落ちる。

 射手は智導。その後も群がる戦僧たちに、凄まじい速さで矢を撃ち込み、辺りに体に矢を生やした躯を並べてゆく。


「冴殿に見とれておる暇は無いぞ!己が役目を果たされよ、朗豪殿!」


 と、また戦僧の顔面に矢を叩き込みつつ智導。


「そうじゃったわい!わしらの役目は敵の先鋒を打ち砕き、次の動きを誘う事!精々暴れようぞ!」


 槍を突き立て迫る戦僧の、槍を叩き折り、頭を切り落とした後、朗豪はそう智導に応じ、手綱を振るい他の敵の群れめがけ、馬車を突進させる。


 幾十人かの戦僧の返り血を浴びた後、冴はついに鑓頭の姿を認めた。

 馬鎧をまとわせた、巨大な軍馬に騎乗し、黒頭巾に守られたそれは、見事なヒヒイロカネの甲冑に身を固めた武者。戦僧どもを束ねる将僧ではない。

 ついに勧請宗も、浪人を抱えるようになったのか。延々と続いた戦は、敵も疲弊させている。

 冴は雷電に脚を停めさせ、その武者に向かって名乗りを上げた。


「我!由江ノ国の国主、早馬定蒙が娘、冴!そなたを一廉の武人とお見受けした故!一騎打ちを所望する!イザ!尋常に勝負ぅ!勝負!」

次もかなりグロイです。

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