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修羅場之姫武者  作者: 山極由磨
零ノ段 姫武者夜半ノ討入
6/11

姫武者夜半ノ討入 終幕

 帰還後。

 他の者はフォート・マンバのカフェテリアで食事を取ると、武器の手入れを済ませ、昨晩の疲れに任せ各々の寝床に潜り込んでいった。

 ただ、冴だけは、気が旗ぶり、結局深夜に成っても床に就けず、得物や具足の手入れで時間を潰し、それも終わると仕方なく、夜の基地内を歩き回り、区画の仕切りとなっているヘスコ防壁に登り、懐から母の形見、風吟と呼ばれる横笛を取り出すと、思いに任せ吹き始める。

 清水の様に澄み切った、高い音色は、昼間の熱気からは想像もつかない肌寒い夜風に乗って、サバンナを渡る。

 ふと、人の気配に気づいて演奏を止めると。木場が彼女を見上げていた。


「申し訳ございませぬ。迷惑でありましたでしょうか?」


 懐に風吟をしまおうとするサエに頭を振って木場は。


「大丈夫ですよ、冴さん。実を言うとあなたの演奏を、皆が楽しみにしている。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「今日の曲は、少し寂しい旋律ですね」


 そう言われ、手の中の風吟を見つめつつ。


「子守歌でございます。母が私に歌ってくれた子守歌」


 いつの間にか冴の横に座った木場は、今にも落ちて着そうな満天の星空を眺めつつ。


「お母さまが、ですか。お侍の家って、てっきり乳母が子供の面倒を見る物と思って居ました」

「木場殿のおっしゃる通り、他の武家では、子の面倒は乳母が見ます。されど、我が早馬家では母上が、乳母に任せず、殆どご自身で私を育ててくれました。父上も、よく私と遊んでいただいたり、武術や馬術の稽古も付けて頂いておりました」

「へぇ、家庭的だなぁ、お父上は、イクメンだったんですね」

「父上も、母上も、優しい方でした・・・・・・」


 そこまで言って、何処ともなく闇の向こうに視線をやり、黙り込む冴。

 風吟の音の代わりに、ブチハイエナが、縄張りを主張する遠吠えが風に乗って来る。

 しばらくして、冴が唇を開いた。


「敵の首魁が、私を殺さず、生け捕りにせよと命じたそうにございます」


 木場は、相変わらず星を見ながら。


「冴さんは有名人ですからね」

「虎の子の間者を使い潰してまで、私を罠に嵌めたのはなぜでございましょう?ラ・ソヴァールは、やはり我が怨敵『慧厳』なのでは?」

「奴が登場したのは今から十年以上も前、貴女が半年ほど前に消えた慧厳を追って、この世界に来て一年ほどだから、八年半のタイムラグがあります」 

「REIMEIの物理学者とやらが、私のいた世と、この世とは、違う時の流れ方をしている可能性があると申しておりましたぞ?それに、ラ・ソヴァールも慧厳も邪宗の首魁。残忍で卑劣な戦い方もよう似ております」

「時間の流れについてはあくまでも『理論的』にその『可能性』がある。と言う話ですからね。あと、この世界では、宗教カルトとテロリズムは切っても切れない間柄です。ウガンダの神の抵抗軍しかり、アルカイーダやISしかり、私の国にもオウム真理教という奴等が居て、大勢の人の命を奪った。そして、そんな奴らのやり口は総じて残忍で卑劣です」


 木場はそこまで言うと、冴に向き直り、その瞳を見つめつつ。


「万が一、ラ・ソヴァールがエゴンで有ったとしても、冴さん、決して、独りで戦おうとはしないでください」

「あい解り申した。ただ」


 冴も木場を見つめ返す。


「そうであったならば、彼奴の首級は、私の物にございます。誰にも渡しませぬ」


 瞳から伺える、覚悟の強さに、木場は息を飲む。

 しばしの沈黙の後、冴は風吟の歌口に唇を付け、演奏を始める。

 見知らぬ世界の子守歌が、また風に乗った。

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