姫武者夜半ノ討入 四ノ幕
現れたのは鎧をまとった巨大な軍馬、雷電。
まるで丸太のような脚は、難なく泥の壁を破壊し、その向こうに居た敵兵の背中を踏み倒し貫き、血や内臓を辺りにぶちまける。
騎乗するのはアップル。手綱を取らぬ両手には、2丁のマイクロUZI。
馬上から飛び降りるなり、冴と敵兵の間に割って入り、魂喰を奪った者の顔面に9ミリパラペラム弾を叩き込み肉塊と血煙に変える。
手落とされた魂喰を素早く奪い返すと、冴は振り返り背後の2人を切りつける。
腕とAK47と同時に叩き切られ、己の切り株の様になった両の腕から、吹きあがる血しぶきに驚愕している所を、二太刀目で首を刎ねられる。
そのままの太刀筋で、隣の男は逆袈裟でわき腹を切り裂かれ、腸を噴出しつつその場にしゃがみ込む。
完全に背を向けた冴に、至近距離での7.62ミリ弾が殺到する。
が、全弾、具足に触れる寸前で威力を失い、冴の足元に、まるで木の実が熟れて落ちるように転がってゆく。
振り返りざまに手近な一人を横殴りの一閃で胴を断ち臓物を溢れ出させる。56式のスパイク型銃剣を展開させ突進してくる者には、半身を逸らせ、間一髪で交わすと、その素早く背中に回り込み一太刀浴びせ、肩甲骨、肋骨、脊椎を断絶させ、大動脈を引き千切る。AK47Sを捨て、マチェットで切り付けてくる者には、その刃を弓手の手甲で受け止め、魂喰を胸に突き立て心臓を貫く。
その間、雷電は、反対側の壁も敵兵一人と共に蹴り倒し、小屋の外へ。残ったアップルは、両手のマイクロUZIで、冴に近づく者、逃げる者を区別なくなぎ倒し、血祭りにあげる。
白いLEDの灯の下。生きている者は冴とアップル、そして片隅でうずくまる、顔面を仲間の血、股間を己の小便で濡らしたジミー・チュンバの3人だけ。
「コイツがスパイだったって訳か、REIMEIの社員なんて、チョーエリートなのに、カルトにハマると人生おしまいだね。冴姉ぇ」
少女の言葉に対しサエは、チュンバに歩み寄りつつ。
「私の居た世でも、邪宗に入れ込んだ者の末路は常に哀れなモノだった。実におぞましきは、神を名乗る人間。そう思わぬか?」
「そうだね、マッタク」
アップルがそう応じたころ、小屋の外でもけたたましい銃声が鳴り響き、それに和すように男どもの怒号が聞こえてきた。
重苦しい連射はサーバル・ワンのDShK38重機関銃。軽く弾けるような銃声はサーバル・ツーのAGS-17自動擲弾銃。
木場達がやって来たのだ。
「さて、迎えが来たぞ、この下郎が。お前たちが我が輩が潜んでいると履んだ場所には、代わりに共和国親衛隊が手ぐすね引いて待っていたと言う訳よ。さて、お前には聞かねばならぬことが山ほどあるが」
冴は、血と涙でドロドロになったチュンバの頬を、それ以上に血まみれの切っ先で、軽くたたく。
「先ずは、お前と共に連れ去られた残りの2人の居場所だ。今何処?」
実を硬直させ、情けない悲鳴を上げると。
「わ、私がここに来たと同時に引き離されて、拠点の外に連れだされた。あとは、知らん」
雷電が明けた新しい入り口から、AK47を構えた木場と、端正な顔立ちの東洋人男性が侵入してきた。台湾人、楊 志偉。
素早い動きで、冴の足元にうずくまるチュンバに駆け寄ると彼は、華奢な体躯に似合わぬ力強さでその襟首を引っ掴み、土間に叩きつけ、瞬く間に結束バンドで手足を縛る。
「さぁ、課長補佐、こんなところで何さぼってるんですか?会社に帰りますよ」
と、女性的な優しい声で、冷笑を浴びせながら引きずり起し、自殺防止の猿轡をはめる。
「木場殿、あとの二人は、おそらく・・・・・・」
伏し目がちでつぶやくサエに木場は。
「用のない者はサッサと処分と言う事でしょう。償いはこの課長補佐にしてもらいましょうか」
「宴もたけなわの所ではありましょうが、そろそろずらかりませんと、囲まれてしまいますよ、ファング!」
木場のイヤーマフ型ヘッドセットから聞こえたのは、サーバル・ワンのドライバー、インド人、ルドラ・シェカールの声。
「では、引き上げましょうか、冴さん」
「わかり申した」
マイクロUZIを撃ちまくり、敵の銃撃をけん制するアップルを先頭に、AK47から、セカンダリーアームのS&K USPに持ち替え、闇夜に紛れ撃ち込んでくる敵に銃撃を加えつつ、ヌゴーベと共にチュンバを引きずる木場、その後ろから魂喰を振るい、血を弾き鞘に収めつつ、小走りで雷電に駆け寄る冴。
チーム一番の偉丈夫、ズール族出身のマイク・リランガが、長大なPKMマシンガンを、まるで小銃の様に軽々と乱射しつつ、雷電と共に冴を待っていた。
「相棒が寂しがってたよ」
マズルフラッシュで照らされた彼の顔が、そう言って不器用に微笑むのを見届けつつ、軽々と巨大な愛馬の背中に飛び乗ると。
「タイタン殿、かたじけない!」
と、彼を愛称で呼び礼を言い、続いて愛馬の耳元にそっと口を寄せ。
「待たせたな、雷電、さて、ひと暴れしようぞ」
鞍に取り付けた愛用の薙刀、名工キゼン・ムネザエの作、号『鋼融』を弓手に取ると、風切り音も勇ましく、満天の星空に刃を閃かせ、速足で既に木場らが乗り込んだサーバル・ワンの前に出つつ。
「木場殿、私が先鋒を仕ります!」
「了解した!冴さん」
木場の言葉と共に、雷電の腹を蹴り駈足を命じる。
薙刀を閃かせつつ、豪然と突き進み、立ち塞がろうとする敵に向かい大音声で名乗りを上げた。
「サジタリウス社召し抱え、由江ノ国、国主、早馬定蒙が一女、冴!押して参る!!」
途端に吹き荒れる7.62ミリ弾の嵐。
だが、左右上下に弾き飛ばされ、ただの一発も的を得ることは敵わない。
途端に射手たちは冴に肉薄され、馬上から振り下ろされるヒヒイロカネの刃に脳天を割られ、首を刎ねられ、肩口を裂かれ、両の腕を腕を飛ばされる。
それを逃れた者も、サーバル・ワンから放たれる銃火に撃ちぬかれ、粉砕される。
小屋の陰に潜み、RPG-7で、サーバル・ワンを狙う敵兵。
それを目ざとく見つけたアップルが、マルチカム柄のショルダーバッグから、自分のあだ名の由来に成ったM67手榴弾を引っ張り出すと、安全ピンを抜き、一呼吸置いて、SOVの車上から、綺麗な投擲フォームで陰めがけ投げ込む。その距離60メートル。
爆音が鳴り響き、血まみれの2人がよろめきながら出てくると、リランガが止めの一連射を加えた。
混乱から抜け出した二人の聖霊軍団兵士が、拠点の真ん中に据えられ、UNHCR印のシートに隠されたそれに辿り着く、一気にシートを引きはがすと現れたのはロシア製の対空機関砲ZU-23-2。
一人がハンドルを回し、冴とサーバルワンを追い、もう一人が照準器を狙う。
23ミリ弾の威力は、ヒヒロイカネを貫けずとも、その衝撃で冴や雷電を打倒すことは出来る。無論、軽微な装甲しか持たないサーバル・ワンには致命傷を与える。
射手が、雷電に狙いを定め、発射ペダルにを踏んだ右足に力を籠める。
発射音が鳴り響く前に、射手の頭は闇夜から飛来した7.62ミリNATO弾に粉砕され、真っ赤な霧に変わった。
照準手が、頭が消えた射手を退かせようと、身を乗り出した瞬間、もう一発が飛来。左肩を撃ち貫かれ、衝撃で背中を晒した途端に次の一撃で心臓が叩き壊され完全に生命機能が停止する。
そして仕上げにサーバル・ツーのAGS-17から放たれた30ミリ榴弾。
無数の小爆発を繰り返し、ZU-23-2の機能は永遠に失われた。
「毎度お見事、リコ」
AGS-17の射手、ズール族のジョージ・ビゴから賞賛されたのは、グワテマラ人のリカルド・マリゲーラ。
「この闇夜で、おまけに立射の姿勢でスナイプを決めるとは、さすが『オホ・デ・ディオス(神の目)』の異名も伊達じゃないな?」
肉薄してこうとする敵に向かい、AK47Sで的確な銃撃を加えつつ、ヌゴーベ。
愛銃、レミントンM24のボルトを引き、排莢させると、次弾を送り込みながら。
「300メートルなんぞ、狙撃のうちに入らねぇっすよ」
とつぶやき、長髪をなびかせてサーバル・ツーに乗り込んだ。
ゲートまでの直線路を駆ける1頭と2台。その行く手に現れたのはハイラックサーフを改造したテクニカル。カーゴスペースには、SPG9無反動砲。
装填手はすでに砲弾を籠めており、狙いはサエを越えてサーバル・ワン。
冴は、雷電の腹を蹴り、襲歩を命じるとテクニカルめがけ突進する。
発射される75ミリ有翼弾、その射線上に冴は我が身を晒し、猿叫もけたたましく、鋼融を振りかぶる。
砲弾とすれ違いざまに、刃を振り下ろす。ヒヒイロカネの鋭い刃は、信管と弾頭を切り離し、叩き切られた砲弾は、バランスを失いあらぬ方向に飛び去る。
目の前で起こった事を理解できぬまま、SPG9の装填手は次弾に手を触れるが、その時はすでに運転手の上半身が、鋼融の刃を喰らい、宙に舞っている所だった。
そして同じ刃が、射手の首を刎ね飛ばし、装填手はサーバル・ワンから放たれた、DShK38重機関銃弾に文字通り粉砕される。
仕上げにサーバル・ツーが30ミリ榴弾を打ち込み、テクニカルは爆炎に包まれ、吹き飛ぶ。
燃え盛る炎に照らされ、サエと11人はゲートをくぐり、暁の中、地平線を目指し走りぬけて行った。