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修羅場之姫武者  作者: 山極由磨
零ノ段 姫武者夜半ノ討入
4/11

姫武者夜半ノ討入 参ノ幕

 藪をかき分け、地面を張って進むと、不意に目の前の穴から、星明りに目を輝かせた動物が姿を現した。

 アフリカオニネズミ。

 ネズミと言えども体の長さは有に一尺(38センチ)を超える。

 地を這う人間の姿を見て驚いたのか、一瞬で巣穴に引っ込むが、暫くすると他の穴から這い出て、藪の中に消えて行った。

 その滑稽な姿に一瞬、頬を緩ませ。


「ポンバシ殿が言うた通りだな。ここには地雷が無い。ネズミたち、かたじけない」

  

 と、頭をひょいと下げる。 


 ドローンによる偵察で、敵拠点の北側の一角に、地雷の埋設が為されていない個所が有ることが解っていた。

 アフリカオニネズミの巣が点在していたからだ。

 人間があちこちに埋めた邪魔者を嫌い、持ち前の鋭い嗅覚で、それが少ない場所に巣穴を設けている。

 そこを利用させてもらい、冴は敵の拠点にジリジリと迫りつつあった。

 愛馬『雷電』を灌木に潜ませ、『ヒヒイロカネ』を鍛えた愛刀、号『魂喰タマハミ』を手に藪に紛れ、最初は体を落とし摺り足で、近づくと腹ばいになりにじり寄る。

 その間、身にまとった鎧も兜も、金属を軋ませる音を全く立てることは無い。

 素材である『ヒヒイロカネ』の『一切の衝撃を吸収し打ち消す』と言うの性質がなせる業だ。


 じっくり時間を掛け、ついに敵拠点の門に迫る。

 一応はこの辺りに点在する、粗末な難民キャンプを装ってはいるが、よく観察すれば、灌木の垣根に隠された有刺鉄線や、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のロゴが染め抜かれたシートで偽装され、67式機関銃が据えられた見張り場が、ここが敵『聖霊軍団』の拠点であることを雄弁に語っている。

 

 西洋文明の一切を否定する彼らだが、文明の利器が与える便利さには、遠慮なく浴しており、見張り場には熱赤外線カメラも備えていると言う。

 ヒヒロイカネの具足は、衝撃は吸収し打ち消すが、熱の伝導率は普通の金属と変わらない。したがって、温度差をとらえる目にははっきりと捉えられる。

 熱を見る目に捉えられぬよう、ゆっくりと立ち上がりつつ、『魂喰』を抜刀し、体を落として小走りで門に駆け寄る。

だが、門に歩哨の姿は無く、一旦垣根の陰に身を隠し、辺りを伺うが人影は見えない。

 人質を抱えた砦の割には不用心といぶかしく思いつつも、物陰を巧みに探し、音も無く拠点の中に忍んで行く。

 垣根の内側には、泥や藁、UNHCR印のビニールシートなどで作られた小屋が点在しており、一見は粗末な住居と見えるが、それぞれに、兵舎や武器庫などの役割を持たせてあることは、事前の偵察で把握していた。

 中でも目指す、はほぼ中央に建てられた建物。泥の壁とビニールシートの屋根を持つ小屋。ここに拉致された三人のREIMEI社員が監禁されている。

 見張りが居ないことに呆れつつ、板製のドアの前に潜み、中を伺うとひっそりと静まり返っているが、人の気配は感じる。

 魂喰の切っ先を、巨大な南京錠のツルにあてがい、力を入れて抉ると簡単に壊れた。

 ドアを開け、身を滑り込ませると、突然強烈な光で視界が奪われる。


 暫くして目が見えるようになると、まず見えたのは、日本のNGOが配布した強力なLEDランタンの灯と、身をかがめた彼女に向けられた十二個の銃口。そして、小屋の奥に立つ、武装兵二人を従えた見覚えのある男。

 そう、拉致された社員の一人。たしか品質管理部課長補佐のジミー・チュンバだったか?

 その彼が愉快気に笑いつつ。


「ようこそサムライガール、申し訳ないが君は騙されたんだよ。先ずはそのカタナを捨ててくれ、それから、その恐ろしいマスクも外してくれないか?」


 そっと立ち上がり、自分の動きを正確に追う銃口たちを意識しながら魂喰を地面剥き出しの床に転がす。素早く敵兵の一人が拾い上げた。


「やはり、裏切者が潜んでおったか、我らも脇が甘いな」


 感情を押し殺した冴は応じつつ、面貌を外す。現れた端正な美貌に、男たちは一瞬息を飲み、続いて下劣な笑みに顔をゆがめる。

 同じように下品に笑いつつチュンバは。


「裏切りと言うのはどうかな?私は早くから『聖霊招来運動』に帰依し、その軍事組織、聖霊軍団の工作員として活動してきたからね」


 そこまで彼が言う頃、泥の壁越しに遠くの銃声や砲声が聞こえてきた。


「どうやら、君の仲間が我々の罠にはまった様だ。薄汚い傭兵共には、ズタボロにされ、ハイエナやハゲタカの餌に成る最後がお似合いだ」


 冴の背後にも、追加の敵兵が忍んできており、襟足に殺気とねばついた視線を感じる。


「安心なさい、君は生け捕りにする様にとの、我らが御救い主からのご指示がある。命だけは取らないよ。命だけはね」


 その言葉に和すように、敵兵共の下卑た笑いが小屋に木霊する。


 だが、冴は実に落ち着き払って。


「左様か、そなたらの首魁『ラ・ソヴァール』とやらに会えるのか?それは重畳、私も常々会いたいと思うておったところだ」

「ほう、それは感心な事だ。で、お会いして何をしたい?」

「ラ・ソヴァールとやらが、私の思うておる者ならば、たとえ手足を縛られて居ようとも、そのそっ首、我が歯で掻き切ってくれよう」


 瞬間、小屋の中で聞こえるのは、彼方の銃声だけだったが、すぐさま男どもの馬鹿笑いで満たされた。


「こいつは愉快だ!今から俺たちのオモチャされよっていうのになぁ!」

「その威勢のよさで、しっかり俺たちを喜ばせろよ!」

「教えてやらなきゃ、自分の立場って奴を」


 黙って聞いていた冴だが、突如として腹を抱え、目じりに涙をためて笑い出した。

 敵兵たちがあっけにとられ、黙り込むと、皆を嗤いながら見渡し。


「私にもそなたらに教えてやらねばならぬ事が二つある。まず一つは、そなたらの汚い手は、私に指一本たりとも触れることは無いであろうと言う事と・・・・・」


 その時だ。冴の右手にある泥の壁が、突然吹き飛んだのは。


「もう一つは、謀られたのは、そのたらのほうだと言う事よ。この戯けどもが」

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