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屠畜場の職員

 屠畜場というのは食肉用に飼われた牛や豚の命を奪い、枝肉にする場所だ。俺の勤める屠畜場では毎日牛が600頭、豚が1200頭関東各地から運び込まれてくる。


 そして、俺はその運び込まれてきた牛や豚の命を奪う作業をしている。


 今日もその一日が始まる。


 「おはよう。今日は牛が620頭、豚が1160頭だ。さぁ、今日も手際よく頼むぞ。」


 チーフリーダーが元気よく今日のターゲットを伝えてくる。


 「へーい。」


 俺は普段通りの気のない返事をする。別にやる気がないわけなない。俺は与えられた仕事を確実にするだけだ。この仕事を任されてから早5年。その期間を通して培ってきた俺なりの仕事に対するスタイル。


 「佐久間。今日もしっかり頼むぞ? この職場のエース。」


 「分かってますよ。いつも通りです。」


 そう、何もかもがいつも通り。この仕事に就いた初期の頃は、そりゃ精神的に参った時もあったさ。人間と近い哺乳類を殺す仕事なんだ。人間じゃないとは言ったって気が動転する。あいつらだって人間と同じように痛みを感じるし、赤い血が出るんだ。


 だが、それを克服した後は問題なく仕事をこなしている。そして俺はこの仕事に誇りを持っている。俺たちが毎日おいしくいただく動物の肉は俺達の仕事によって支えられているという誇りだ。


 ちなみに、この職業は離職率が非常に高い。やはり、精神的に参ってしまうことが多いんだろう。実際に牛や豚に手をかける作業に携わる職員は特にそうだ。だから通常ローテーションされる。俺みたいに5年間もこのポジションにいるのはものすごくレアなのだそうだ。


 そして、俺は牛や豚に手をかける時、いつもこう心の中でつぶやいている。「いただきます」と。それが俺達の糧となる牛や豚に対するせめてもの償いだ。



 ◇◆◇


 俺は所定の位置についた。ここに消毒を終えた牛たちが運び込まれてくる。それを、俺が手にした電気ショックガンで気絶させる。どうやるかって? 電気ショックガンを牛の頭に押し当ててスイッチを押すのさ。そうすればこの通り……


 ドスン……


 400キロもある牛は途端に意識を失う。


 そして、勿論これでは仕事は終わらない。この後こそが本番だ。俺は手にしたナイフで手際よく牛の頸動脈を切断し命を絶つ。気絶した牛は恐らく痛みを感じることなく天に召される。


 その後は、後続の職員が皮を剥ぎ、足を切り落とし、枝肉にしていく。それをコンベアで次から次へと運んでいくんだ。


 すると、妙な出来事が起こった。



 《経験値を獲得。レベルが上がりました。》



 何だこれは? 妙な声が聞こえる。


 俺は周囲を見渡したが、周りには俺の同僚以外誰もいない。


 気のせいか?


 俺は気にせず仕事に邁進する。この仕事はリズムが大事だ。リズムを崩すと後続の仕事に支障が出てコンベアの流れるスピードに合わなくなってしまう。


 だから、俺は謎の声のことはさておき、仕事に邁進するしかない。次から次へと運ばれてくる牛に電気ショックガンを押し当て、首を掻き切り命を奪う。



 《経験値を獲得。レベルが上がりました。》



 まただ……だが、手を止めるわけにはいかない。

 この後も次々と仕事を続けるが、この声はその後も頭に鳴り響いた。


 仕事を終えて、あの声は一体何だったんだろう? と思っても確かめる術もなく……

 こんな状況が1週間続いた。


 そう、あの夢の声が告げた「1週間後」というやつだ。

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