亜人
<アカネ>
色んな意味でセルミッタの人気者になってしまったため、社会見学を急きょ取り止め、再び魔の森の奥深くの実家に引き篭もることになったアタシたちは、それぞれが興味のある分野に打ち込んだり、結界の周辺をウロチョロする魔物をしばいたり、サバイバルゲームで訓練したりと、それなりに充実した平穏な日常を過ごしていた。
そんなある日のこと、珍しくアルファがアタシに何やら話があるということで、屋敷の会議室に呼び出された。
もしかして今までの労働賃金を払えとか、勤務時間や待遇に不満があるのではと、ビクビクしながら呼び出しに応じると、アタシだけでなく、五人の子供たちも既に立派な長机の近くに配置された木の椅子に腰かけて待っていた。
「ご主人様、どうぞお座りください」
アルファに一番奥の席に案内され、取りあえず話を聞かなければとゆっくり腰かける。アタシが座ったのを確認すると、敏腕筆頭メイドが魔法を使い、会議室の中央に3D映像を映し出す。最初は何かわからなかったけど、何度か視点が代わり、どうやら実家の敷地を上から見た映像だと思い至る。
「こちらが魔の森の中央にある我が家です。そして、そこから真っ直ぐ南に進みます」
3Dの地図がスライドしていく。とは言え、見た感じは鬱蒼と茂る木しか映らないので、今がどの辺りなのか、アタシにはまるでわからない。
「問題はこちらです。魔の森の南の端に、多数の獣人及びエルフやドワーフの存在を確認しました」
よく見ると掘っ立て小屋に近い簡素な作りながらも建物がいくつも建っており、四角ではないものの畑や井戸もある。合計百人前後の亜人たちが魔の森から少し入った場所に周囲を簡単な柵で覆い、小さな村らしきものを作っていた。
「ご主人様、いかがしましょうか」
「えっ? 別に放置でいいんじゃないの? アタシの家とは離れてるし、結界の近くまで来たら考えるけど、魔の森に住むなら好きにすればいいんじゃないの?」
我関せず的な思考で即決で放置を選択する。引き篭もり生活に影響を及ぼしそうなら、その時また考えるよ。すると、アルファがそう答えると思ってましたとばかりに、会話を続ける。
「ご主人様、そう遠くないうちに、あの亜人たちは森の奥に来ます」
「いやいや、せっかく魔の森の入り口に村を作ったのに、何でそこを捨てて、危険な奥地に来る必要があるの? おかしいよね?」
目の前で右手を団扇のようにブンブンと振り、いやいやアルファ、それはないわーっと、意思表示を行うアタシに、彼女は冷静に答えを返す。
「各国の情報ネットワークから聞きましたが、あの獣人やエルフ…そうですね。面倒ですので今回は亜人と呼称させてもらいますが、その亜人たちは、どうやら聖王国より追放されて来たようです」
アタシは黙ってアルファの話を聞いていると、3D地図はより上空に視点が移り、魔の森の周囲の国の国境線を色分けして表示される。世界地図はオーストラリア大陸をそのまま大きくした感じだ。ちょうど中央に位置するのが、魔の森で我が家という感じだろうか。
魔法や魔物や人間の他に亜人が存在する以外は、太陽と月も故郷の星と色々な部分が近しいここは、もしかしたら平行世界なのかな? となると、今いる大陸も形こそ違うが、この大きさならパンゲア大陸に近いかもしれない。しかしそれがわかったところで今さらどうもこうもするつもりはない。アタシはすぐに思考から完全放棄を決定する。
「広大な魔の森を囲むように、南が先程言った聖王国、東が連合都市、こちらは先日のセルミッタがそうですね。さらに西が帝国、北が魔王国となります」
ふむふむと、アルファの説明を聞いて頷いておく。それが何を意味するのかは、まるでわかっていないのだけど。
「聖王国は王や貴族や司教が上位に立つ宗教国家で、神に生み出された人間こそが至上という主義主張を掲げ、亜人の奴隷制度を導入しています」
思った以上にやべー国だった。聖王国怖い。戸締まりしとこう。
「そして連合都市は、大小ありますが様々な都市が集まり、一つの国家となったものです。帝国はトップに立つ人物が中心となり国や物を動かす国家です。なお、その二国は人間も亜人も平等を掲げており、表向きは奴隷制度は存在しませんが、どの国も人間が重要な立場を占めています」
やっぱり裏ではあるようだね。どんな綺麗な国でも一枚めくった裏側は汚いというのはよくあることなのだろう。
「最後は魔王国ですが、こちらは表向きは魔族及び亜人至上主義を推し進めており、トップには魔王が立ち、国を動かしています。人間の奴隷制度を導入しています」
「表向きということは違うの? でも、人間以外の亜人か魔族がトップに立ってるんでしょう?」
何となく腑に落ちないものを感じたアタシは、アルファに質問すると、彼女からすぐに答えが返ってきた。
「魔王国では強さと魔力が優れている者こそ上に立つべき、それ以外の弱者は生きる価値なしとまで言われる国家です。人間の中にも能力の高いものは生まれてはきますが、基本は数と知識、または技術で優位に立つ種族です。魔族と呼ばれる種族が魔王を務めるのが恒例となっています。亜人は可もなく不可もなくです」
「なるほど、ようは人間は魔王国ではトップに立てないんだね」
「いえ、立てますよ」
「えっ?」
「人間はトップに立てます。かつて二百年程前に一度だけ、歴代最強の魔王として頂点に立った人間がいました」
「えっ? えっ?」
意外にも魔王国でも人間はトップに立てるらしい。びっくりだよ。そしてアルファは少し呆れたような表情でアタシを見ながら続けて説明する。
「ご主人様は忘れているようですが。かつてはほんの三日間だけでしたが、魔王アカネとして魔王国のトップに立っていましたよ」
「あーあー! 思い出したよ。確かにそんなこともあったね」
故郷の手がかりを探すために世界中を旅して回っていたときに、突然大勢の部下を引き連れてアタシに喧嘩を売ってきた奴がいたので、その場で速攻ボコボコにしてやった。何で襲ってきたのかは覚えていないし興味もないけど、それが当時の魔王国の魔王本人だったというのは驚きだ。
「はい。ご主人様の魔王名は確か、ドールマスターでしたね」
「あの頃は常にメイドさんたちを引き連れて、あちこち旅してたからね。一緒にいるという点では、今も変わってないけど。でも魔王名とか、何だか源氏名みたいだね」
本当に懐かしい思い出だ。アタシはアルファや周りのメイドさんたちと、あの頃は楽しかったねーと、ほんわかした雰囲気で話していると、席に座っていたアレク君がそっと手をあげて、質問をしてくる。
「あの、少しいいですか? アカネさんが三日で魔王を辞めたのは何故です?」
「ああそれは、当時の魔王国で新しく部下になった人たちが、あんまりにもアルファやメイドさんたちのことを馬鹿にするから、ついカッとなって。もういい! アタシ魔王辞める! …って感じで」
「えっ? そうなんですか?」
「うん、そうなんです。人形は黙って命令を聞いていればいいーとか、たかが人形が魔王様に意見するなーとか、散々言われたからね。アルファたちメイドさんたちは、アタシにとってかけがえのない大切な家族なんだよ。もう怒っちゃうよね! マジでふざけるなって話だよ!」
思い出したら腹が立ってきた。しかし何故かアルファやメイドさんたちだけでなく、五人の子供たちも、一人憤慨しているアタシに注目し、皆眩しそうに目を細めながらニコニコと微笑みかけてくる。何で? ここは怒るところだよ?
「コホン! 少し横道にそれましたが、各国の情勢はこのようなところです。大国と呼べるのはそれだけで、あとは小国ですのでこちらは問題にはなりません」
アタシが落ち着いたのを見計らって、アルファが話を強引に軌道修正する。
彼女の説明から判断すると、四つの国とも見事にバラバラである。わかりやすいと言えばそうなんだけど。それが結局今回の話と何の関係があるのだろうか。
「今回は聖王国の奴隷狩りから逃げてきた亜人が、魔の森の入り口に村を作ったということです。そしてそう遠くないうちに、また村が見つかる可能性が高いです」
そこまで聞けばアタシにだってわかる。つまり亜人の皆さんは既に進退窮まっており、追われるたびに魔の森の奥へ逃げ続けるしかないのだ。
「どうすればいいと思う?」
「ご主人様はどうされたいですか? 私たちはご主人様の意思に従います」
質問を質問で返されてしまった。腕を組んで椅子で船を漕ぎながら、ウンウンと考える。出来れば関わり合いになりたくはないけど、かと言って目の前で全滅するまで放って置くのもちょっとね。まあ、アタシの答えなんて最初から決まってるようなものだけど。五人の子供たちを気まぐれで拾ったようにね。
「じゃあ亜人たちを助けたいんだけど、出来る?」
「可能です。手段はいかが致しましょうか」
「アタシに聞かれても困るし。悪いけどいつも通り、メイドさんたちにお任せでお願い」
「かしこまりました」
何故かアタシの毎度の丸投げに、アルファはにこやかな笑顔で満足そうに一礼を返す。何も出来ないご主人様でごめんね。さっそく他のメイドたちに指示を出そうとする彼女を見て、あることを思い出して急いで止める。
「あっ、ちょっと待ってアルファ。この間のセルミッタの社会見学は中止になっちゃったから、今回の件に子供たち五人も参加して、経験を積んでもらおうと思うんだけど」
アルファがアレク君たちを順番に眺め、少し思案したあと、こう答えた。
「問題ありません。それでは、今回は私たちメイドではなく、彼らに計画を練ってもらいましょう。こちらはサポートに徹することに致します」
「それでいいよ。でも、子供たちが困るようならすぐに助けてあげてよ」
「はい、かしこまりました。それでは、早速救出計画を作成しますので、これで失礼します」
そう言いアルファたちメイド衆は、それぞれ左右二人で五人の子供たちの両手を掴んで、引きずるように会議室をあとにする。某国の捜査官が白い宇宙人をぶら下げている姿によく似ていた。
これで亜人たちは大丈夫かな。アタシが出ることがなければいいけど、しかし万一子供たちに何かあれば、いつでも助けに行けるように心構えだけはしておこう。
<亜人の村長のエルフ>
聖王国の奴隷狩りから逃れて、魔の森までやってきた私たちは、村を作ることに決めた。ここまで付いて来たのは、エルフ族、ダークエルフ族、ドワーフ族、ホビット族、狼族、犬族、猫族、妖精族、精霊族等という、多くの種族だ。当初は三百人近くもいたのだが、ここまで逃げる途中で多くの仲間が捕まり、たどり着く頃にはおおよそ百人と少しまで減ってしまっていた。
とはいえ、ここまでたどり着けたのだ。しばらくの間は大丈夫だろう。幸いなことに、森の入口は外からは見えづらく、森の魔物も殆ど現われない。この村ならば平和に暮らせることだろう。…そう思っていたのだが。
「見ろよ! こんな所に村があるぜ! 獣人たちの村だ!」
「へへへっ! こんな所にいやがったのか! 今度こそ全員捕まえてやるぜ!」
村の生活がようやく安定しはじめた頃、聖王国の奴隷狩りに見つかったのだ。私たちは女子供を魔の森の奥へと逃し、戦える者は武器を手に取り、時間を稼ぐことを選択した。
魔法があるからと言っても、今この場にいる相手は騎士風な男たちが三十人と数が多い、一度でも魔力を切らしたら、たちまちのうちに押し切られてしまうだろう。今は女子供が無事に逃げ延びることを祈るだけだ。
「くそっ! コイツ魔法使いだ! 蔦で動きを封じられるぞ! 囲んで一気に倒せ!」
「おうよ! エルフは美形揃いだからな! 捕まえれば高く売れるぜ!」
ボロボロの小屋の中から、他の仲間と一緒に弓を撃ったり魔法を飛ばしたりと応戦を行うものの、十分な装備で身を固めた奴隷狩りの集団を相手に、ほぼ丸腰の私たちとでは防衛に徹しても勝負にならず、次第に皆にも疲れが見えはじめ、ジリジリと追い詰められてしまう。
「へへっ、手こずらせやがって。こっちは聖王国の精鋭だぜ。お前たち下等な獣人が勝てるわけねえだろうがよ」
「おい、捕らえるのはいいが、なるべく傷をつけるなよ。奴隷の価値が下がる」
「わかってるぜ。おらっ! 大人しく…し…ろ?」
もはやこれまでかと私たちが覚悟を決めたとき、突然村の上空に光が溢れ、五人の人間の子供が、見たこともないきらびやかな装備で身を固めて、突如として空中に出現したのだ。
その明らかに異様な光景に、ボロ小屋に立てこもる私たちだけでなく奴隷狩りの三十人も皆、呆然と空を見上げてしまう。
「なっなんだ…一体何処から来やがったんだ」
「おい、コイツらおかしいぜ? 何かヤバイ雰囲気だし逃げたほうが…」
燃えるような赤髪の男の子は頭部以外を赤い全身鎧で身を固め、頭から足まで届く長く頑丈そうな大剣を持っていた。
キラキラと輝く銀の髪の男の子は、青い軽鎧を身に着け、腰につけた王族の儀式用ロングソードと、いくつもの魔石で飾りつけられた矢筒のない弓を持っていた。
金の巻き毛の女の子は、まるで姫君が着るような豪華な純白のドレスに身にまとい、装飾の施された白銀の細剣を持っていた。
紫の髪をなびかせる女の子は、複雑な文様が描かれた魔法使いのローブと三角帽子を身に着け、七色に輝く魔石がはめ込まれたロッドを持っていた。
茶の髪をした一番年下の女の子は、もっとも軽装で飾り気が少なく動きやすい服装で、左右とも色が違う魔石のはめ込まれたグローブを両手に持っていた。
五人が現われた瞬間、私はまるで神の奇跡のようだと感じた。やがてしばらく空中に留まっていた子供たちは、ゆっくりと下降を開始し、ちょうど私たちと奴隷狩りの中央へと、埃一つたてずに静かに着地する。
「それで、俺たちはどちらに味方すればいいんだ?」
両陣営のうちの誰一人としてあまりの事態に開いた口が塞がらずに喋れない状況で、赤髪の子供が口を開く。
瞬間、ハッとしたように先程まで動きを止めていた奴隷狩りの一人が、彼に続いて言葉は発する。
「我々は聖王国の騎士だ! 援軍感謝する! 人間に味方し、下等な亜人共を捕らえるのに協力して欲しい!」
そう言い放った奴隷狩りを、赤髪の子供はしばらくじっと見つめ、次に仲間の四人に視線を送ると、金髪の女の子が呆れたように口を開いた。
「アレク、アカネさんの話を聞いていませんでしたの? わたくしたちの任務は、亜人たちの救出ですわよ。捕らえるために森に入った別働隊も、今ごろメイドさんが残らずお掃除していますわ」
「いやいやそれぐらいわかってるって、念の為に両者の立場を明らかにするための確認だ。他意はない」
だと言いですけど…と、金髪の女の子がため息を吐きながら、答えを返した。アレクと呼ばれた赤髪の子供も、再び目の前の奴隷狩りと向かい合う。
「と言うことだから、今から亜人に味方して、お前たちを倒すぜ。そこの小屋の中の人も、話はあとで聞くから、俺たちの邪魔だけはしてくれるなよ」
「なっ…何故だ! お前たちは人間だろ! 何で亜人共の味方をする!」
アレクの宣言で、狼狽する奴隷狩りに、銀髪の男の子が続けて答える。
「同じ人間だから味方? 冗談じゃないですよ。相手が同じ人間でも、時には敵よりも恐ろしいと、身をもって教えてくれたのは人間族ですよ。逆に異なる種族や異能をもっていても、この世の誰よりも心強い味方になるとも、ある方に教えてもらいましたけどね」
そう言って、銀髪の子供は奴隷狩りに向けて弓を構えると、直接矢をつがえてもいないのに青白い矢が現われ、しっかりと弦に引き絞られていた。
「アレク、そろそろいいでしょう。これ以上はお互い時間の無駄のようです」
「そうだなフィー。皆も待ちくたびれたようだし、そろそろいいか。メイドさんとの訓練や、奥地の魔物相手なら数えきれないほどやり合ったが、外の人間とは初の戦闘になる。皆も油断するなよ」
アレクが重そうな大剣を両手でギュッと握り、油断なく目の前の奴隷狩りたちを睨みつける。聖王国の騎士も、彼ら五人との争いはもはや避けられそうにないということで、互いに武器を構えて、応戦の準備を整える。
「それじゃ、戦闘開始だ! 皆! 行くぞ!」
そう開始の合図を言い放ち、アレクは大きく息を吸いながら自らの手に持った大剣を目の前で大きく振りかぶった。その瞬間、突風が吹き荒れ、ちょうど目の前に立っていた奴隷狩り三十人の全員が、重鎧を着込んでいても問答無用で吹き飛ばされてしまう。
「あっ…あれ? もう…終わり?」
アレクが戦闘開始の昂ぶりに任せて、何もない空間で大剣を振り回しただけで、今まで私たちを襲っていた奴隷狩りの全員は、遥か背後に飛ばされてしまい、戦闘不能となってしまったのだ。
あまりの光景に、背後で虹色のロッドを構えて攻撃魔法の準備をしていた紫髪の女の子から、不満気な声がかかる。
「アレクが私の見せ場を取った。これは許されない」
「れっ…レオナ。だってよ。たかが身体強化をかけた素振りだけで、あんなに豪快に吹っ飛ぶとは、普通思わないだろ?」
レオナと言う女の子を相手に、何やらしどろもどろになりながらも言い訳をはじめるアレクに、他の三人の子供たちも、呆れ顔で成り行きを見守っている。
「まっまあ、それはそれとしてだ! 今回は不幸な事故ということで、…な? 仕事の方は無事に達成出来たんだし、いいだろ?」
そう言い訳をして、アレクは奴隷狩りが吹き飛んだ方角を見つめる。よく見ると聖王国の騎士たちだけでなく、森の木や村の建物が、いくつもへし折れたり吹き飛んだしている。これは復旧に相当時間がかかりそうだ。
続いて赤髪の男の子は、私たちが隠れているボロ小屋のほうに視線を向けて、武器を収めて、こちらにゆっくりと歩いて来た。
「ええと、俺はアレク、そしてこちらから順番に、フィー、ロレッタ、レオナ、サンドラと言います。貴方たち亜人を、つまり村の皆さんの支援を行いに来ました」
彼の提案は、とても信じられないようなことだった。聖王国に追われる私たち亜人を、人間のほうから支援したいと言ったのだ。
聖地の入り口へと追われるように逃げて来た異種族の集まりは、やがて自分たちの村を築いたが、そこも奴隷狩りに見つかってしまう。
しかしあと少しで自分たちも捕まってしまうと思った時、天が眩いばかりに光り輝き、女神アカネ様が遣わした五人の使徒が降り立った。
まず使徒アレクが言葉を交わして女神アカネ様の教えを伝えて説得を試みたが、奴隷狩りたちは女神の慈愛に耳を貸さなかっため、神風を巻き起こして恐ろしい奴隷狩りたちを一瞬のうちに吹き飛ばした。
その後使徒たちは、村長のエルフに女神アカネ様の施しを与えると伝える。
アカネ聖国記より抜粋。
一見アレクは風魔法が得意なように見えるが、これ以降に彼が神風を使用した記述はなく、何らかの条件がなければ発動しない特殊な魔法か、もしくは他の使徒がこっそり魔法を唱えて、アレクが風を起こしたように見せかけたのではないかと、今も専門家たちの間で議論が交わされている。
また、各使徒に渡した装備は、今後の戦闘で変更されることはなく、女神アカネが各使徒の特性を理解した上で、それぞれの体格にあつらえて特別に作成された装備品となっているようだ。
さらに特殊な魔石や素材、そして現代の技術でも困難な装飾や加工が幾重にも施されており、年に数回だけアカネ聖国の国際美術館に使徒の装備品が展示されるたびに、一目見ようと各国から大勢の見物客が連日詰めかける程の、大人気となっている。
また技術的だけでなく、美術品としての価値も高く、長い年月が過ぎたにもかかわらず、装備品は傷一つなく、美しい装飾と文様は当時の状態を保っている。おそらく保存状態がよいだけではないだろう。それだけ女神アカネの、魔法技術や加工技術が高かったのではと、現代の歴史学者たちは原因究明に頭を悩ませている。
余談だが、このとき助けた村長のエルフがグリントという名前で、世界でもっとも歴史的価値も高いと言われる書物、アカネ聖国記の作者であることは、あまりにも有名である。
現代でもこのアカネ聖国記を元にしたドラマや映画、またはアニメや漫画や小説等が、毎年いくつも新規作成されており、女神アカネと五人の使徒、そしてそんな彼女を陰日向と支えるメイド衆という魅力的な登場人物たちに、どれだけ時代が変わろうと色あせない人気の高さが伺える。




