みんなの憧れのひと
この女子校は幼稚園から大学まであるんだけれど、中高一貫教育のために高校から入学する人は少ない。今現在、中学校にいる人がほぼ全員、高校卒業まで一緒になる。
だから、中学から入学した私たちは、一応、「内部生」と呼ばれるんだけど、本当の「内部生」は幼稚園からずっとこの学校に通っている人たち。
その人たちは、やっぱりどこか違ってる。みんな家族みたいに仲が良くて、上品で、明るくて、伝統の制服がしっくりと馴染んでいた。
その中でも陽子ちゃんは特別だった。誰よりもこの学校にふさわしい。出会ったときに天使みたいに見えたのは幻なんかじゃなかった。陽子ちゃんは本当に天使が生まれ変わったみたいな人だった。
幼稚園の頃から誰よりも優秀だったそうだ。
学級委員長は毎年、当たり前のように陽子ちゃんが務めたし、体育祭とか文化祭とか、そういう行事もまとめるのは陽子ちゃんだったそうだ。
そんな話を聞くたびに、私はなんで幼稚園からここに通っていなかったんだろうって後悔する。
それになにより、陽子ちゃんはとっても優しい。誰にでも分け隔てなく微笑むことが出来る。陽子ちゃんを知っている人は誰も、陽子ちゃんが怒ったところを見たことがなかった。
中学一年のクラスでも、陽子ちゃんはクラス委員に指名されていて、入学式の後、姿が見えなくなった私を探しに来てくれたのだ。
二人きりで廊下を歩いている時、陽子ちゃんの美しさに見とれていた私に気付くと、陽子ちゃんはじっと私の目を見つめ返してきた。恥ずかしくて目をそらした私に、陽子ちゃんはそっと言ったのだ。
「あなたの目、とてもきれいね」
「え、そんなことないです! 神崎さんの方がずっときれいです!」
私は褒められたことと、思わず陽子ちゃんに面と向かってきれいだと言ってしまった恥ずかしさで真っ赤になった。
「よかったら」
陽子ちゃんは繋いだままだった手にきゅっと力を込めた。ふわりとした優しさが手のひらから伝わって来た。
「名前で呼んでくれたらうれしいな」
「なまえ……、いいんですか?」
「うん。それと、敬語もいらないわ。私も、まいちゃんって呼んでもいい?」
私の顔はますます赤くなったと思う。
「もちろんです、あ……。もちろん、いいよ。……陽子ちゃん」
陽子ちゃんは、ほっと息を吐いた。
「よかった。これからよろしくね、まいちゃん」
その時の微笑みは、私だけのものだった。私は、陽子ちゃんになら、なにもかも話せる、そう思った。