無職に………
さて、そろそろ夜明け前だ。ユラは、小さくため息をついてから窓の外を見る。どうやら、お迎えが来たらしい。まぁ、ユラは逃げる気は無いのだが。
「ユラ、おはよう。」
「おはよう、ラメル。何か、言いたげだね。」
ユラは、苦笑をしてから歩き始める。
「まぁね。君が、結婚を決めるだなんて………」
「…………………。」
ユラは、無言で神殿に向かう。
「よりによって、ミカヅチと戦うだなんて!」
ラメルは、怒ったようにユラの腕を掴む。
「ラメル、君は周りから何て聞いてる?」
ユラは、静かな口調で問いかける。
「なかなか、結婚をしないハイリヒ様が、ミカヅチの説得で負けたら結婚すると言ったと。そして、君がミカヅチに勝てた事はない。これで、結婚は決まったものだ。後は、誰が嫁に入るかだってさ!」
嗚呼………。とても、痛い………何より心が………痛い。分かってた、本当は知っていたんだ。僕は、何のためにこの世界に呼ばれたの?存在する意味は?本当に、僕は………必要とされているのかな?
そんなの、分かってたよ。
呼ばれた事に、何の意味もなく存在はしてもしなくても構わない。必要だとは、思っている。主に、利用価値が有るし血筋的にも魅力的だから。
もう、全てが醜く見えてしまう。
でも、それでも僕は………レレット王国を守りたい。
僕の、唯一の故郷。リューと過ごした、あの綺麗な森は戦争で燃え焼けてしまった。
だから僕は、沢山の出会いと幸せを貰ったこの国だけは………何が何でも、守りたかったんだ。負けたとしても、傷つくのは僕だけだから。
いいや、僕の本音を聞けば優しいあの人達も…………
きっと、一緒に悲しむんだろうな。
はぁー………、ますます負けられなくなった。
「ユラ、聞いてるの!」
「勿論、聞いてるよ?それ、大切な部分が抜けているけどね。僕が勝てば、ネルンを処刑しない約束が抜けている。もし、約束を違えたら…………」
すると、主神が現れて怖い表情で言う。
「ユラ、安心しろ。今、俺が約束を知ったからな。知らぬ、存ぜぬを申し立てれば関係者を皆殺しにする。それと、後で話があるから。」
「………………嫌です。」
ユラは、苦し気に首を横に振る。
「………ユラ、自分を大切にしろ。もう、自己犠牲はやめてくれ。お前は、気づいてないだろうが………。お前を、必要として待っている人達が居るだろ?だから、勝って帰る心意気で頑張れよ!」
えっと、励まして………くれているのかな?
ラメルは、何かに気づいてユラを見る。
「ユラ、心を閉ざさないで。確かに、周りの神々は良い神々ばかりでは無いよ。けど、君は確かに必要とされているんだ。何も、後ろめたくもなくね。」
ユラは、理解はしたが拒絶した。心の整理が、追いつかなくて混乱してしまい。結局、現実逃避ぎみに戦いに意識を向けたのだった。
「ミカヅチ、これはどう言うことかな?」
「ハイリヒ殿、申し訳ない!私は、ちゃんと知らせたのだが。あの馬鹿神々は、自分の都合の良い解釈をしたようだ。本当に、申し訳ない!」
もう、本当に全てが嫌になる。
僕は、拒絶する。僕は、閉じ籠る。僕は、感情を殺す。
僕は………、全てを受け入れない。
「………ミカヅチ、始めようか。」
ユラの表情から、感情が抜け落ちた。瞳は、酷く殺伐としており………その声は、凍てついたように冷たく醒めていた。まるで、お人形のような無表情。
もう、良いや………壊しちゃおう……。
それこそ、2度と僕の前に現れないよう。僕が、心を守れるように………………消してしまおう。
「ユラ!」
ラメルは、胸騒ぎと激しい寒気を感じて叫ぶ。主神も、青ざめている。【修羅】化……、神が絶望などの負の感情に染められるとなる、最悪な現象である。
これで、最悪な場合は第2の邪神になりかねない。
「ハイリヒ殿………。いや、ハイリヒ様………」
ミカヅチは、ユラの異変に気づいた。そして、勝負は一瞬であった。勿論、ユラが勝った。ここで、ユラが我を失わなかったのが良かった。
気づけば、日は登り辺りは騒がしい。
「ユラ、何処に居るの?」
神殿の外から、カリオスの声がしてハッとする。ユラの表情に、戸惑いの表情が浮かぶ。そして、剣をおさめミカヅチを急いで治癒する。もう、先程の殺伐とした雰囲気は無い。そして、人化してから深いため息を吐き出した。そして、ニコッと笑う。
すると、カリオスが入って来る。
「おはよう、カリオス。」
「おはよう、ユラ。勝負は、勝ったみたいだね。」
カリオスは、安心したように優しく笑う。
「ふぅ~、これで結婚回避だ。やったー!」
ユラは、本当に嬉しそうに言う。だが、カリオスにはお見通しである。カリオスは、ため息をつく。
「ユラ、無理に笑わなくても良いよ。本当は、泣きそうな苦し気な表情なのに。まったく………。」
「最近、カリオスには見抜かれてばかりだね。」
ユラは、困ったように笑う。
「………ユラ、シアンには言っておくから休みなよ。今の君は、仕事に集中が出来ないだろうし。」
「うっ………。否定、出来ないのがまた………。」
ユラは、思わず呻いてため息を吐き出した。カリオスは、困ったように苦笑してから言う。
「それと、後で話があるから……」
「え?」
「ユラ、俺からも後で話があるからな。」
主神は、立ち上がると満面の笑み。これは…………
「えっと、怒られる?」
「別に、お前は悪くないだろ?俺が、話したいのはだな……一時的にだが、ユラは全ての神としての仕事をやめてしまえ。他の神々は、愚かな事を考えるほど暇なようだし。お前が、する必要は無いだろ。」
つまり、それは…………神王の役目も!?
本音は、嬉しいけど………。
「ユラ、お前は暫く自由にしてよし!寧ろ、今まで苦労をかけ過ぎて労いたいくらいだ。」
他の神々は、素早く動き出した。早く、仕事に戻らないと信仰などに響くからだ。
ユラは、力が抜けてフラッと膝をつく。
「「「ユラっ!?」」」
「ごめん、荷がおりて力が抜けちゃった。」
カリオスは、ユラの弱々しい笑みを見て心がズキズキした。主神も、自分の判断が間違ってなかったと理解する。ラメルは、顔色の悪いユラを見て言う。
「これは、暫くは寝込むかもね。無理せず、今日は安静にした方が良いよ?それに、修羅化したよね?ヴァイスさん、絶対に3日間はベッドで絶対安静だから。まぁ、抜け出す力すら今の君には無いけど。荒んだ魂は、修羅化すると最悪は堕天するんだ。」
「待って!それは、どう言う事なの……」
カリオスは、驚いた表情でラメルを見る。それにたいして、ラメルは深刻さを現すように真剣な表情である。主神は、「やっぱり、見間違いじゃなかったか………。」と苦々しく呟いた。ユラは、無言だ。
ユラは、泣きそうな表情で俯いていた。
「まぁ、ユラの気持ちは俺も分かる。だから、少しだけでも良いんだ。本当の意味で、お前は休むべきだと思うぞ。お前だって、生きているんだしさ。」
「その、休んでましたよ?」
ユラは、苦笑する。すると、主神とラメルはため息を吐き出した。カリオスは、ジト目である。
「本当の意味で、休んだ日が圧倒的に少ない。」
「もっと、自分の時間を作るべきだよ。」
「そうだよ。研究ばかり、休日は貴族の社交と冒険者活動で忙しいようだったし。とても、休んでいるとは思えないんだけど。まだ、なにか言う?」
これには、さすがに撃沈するユラ。でも、必死に手を上げて質問する。主神は、笑顔で答える。
「でっ、でも………お仕事は?」
「有能な医者を、2~3人くらい代わりに働かせるから。もう、シアンとは話してある。」
思わず、首を傾げて言ってしまうユラ。
「主神様、何か手回しが早くありません?」
「ここ数ヵ月、ずっと考えていた事だからな。」
こうして、ユラは帰宅する事になり無職になった。




