訪れぬ平和
ユラは、無表情で大きな扉を見つめる。本来なら、ここには天使が待機しているはず。だが、1人も出てくる様子が無い。この向こうが、天界なのでユラは扉を開けて歩き出した。カリオスも、静かに後を追いかける。ユラは、神装に素早くなる。
「何か、静かだね。」
「うん、天使の姿も見えない。とにかく、ヴァイスでも召喚して扉を守ってもらおうかな。」
すたすたと、建物を目指して歩き出す。
ドォカーン!ガラガラガ…………
建物が、盛大に吹き飛んだ。どうやら、話し合いをしているらしい。カリオスは、苦笑している。
ユラは、言葉に魔力を込めて放つ。
「静かに、話し合いすら出来ないのかな?」
沈黙して、全員の視線がユラをみる。
「ハイリヒ、何故おまえが?」
「主神様、それを貴方が問いますか。」
ユラは、主神の傷を癒してから怒ったように言う。
「えーと、落ち着けハイリヒ。」
「それより、人間を連れてくるとは……」
他の神々は、ざわざわと文句を言っている。
「天界の門に、天使が居なかった。だから、出入り自由にどうぞって事だよね?君達の、部下は仕事放棄してるんだしこっちを攻めないで欲しいな。」
ユラは、満面の笑みで言う。ごもっともな、話なので神々は黙るしか選択しようがない。
「それに、我が主を愚弄するのか?」
すると、全員が恐怖に首を振る。
「さて、提案なんだけど。別に、今すぐ主神が変わる必要はないよね。だから、ギリギリまでユニバース様には天界で活躍して貰いましょう。下界は、私が見守ろうと思います。下界に居れば、手助けもしやすいでしょ?ちなみに、拒否する?」
全員は、思ってしまった。起こしては、ならない虎の子を起こしてしまったと。
「さて老骨ども、話し合いとお仕置きしようか。」
逃げ場は、なかった。若者に捕まり、ハイリヒの前に連れられる。ハイリヒは、若者に笑顔でお礼。
そのあと、老骨どもの悲鳴が聞こえたとか………
「ユニバース様、お話があります。」
「えっと、何だハイリヒ?」
「例え、貴方が縁を切ろうと、私は貴方が作った子です。この世界では、貴方も父親なんです。それだけは、忘れないでください。では、失礼します。」
そう言うと、カリオスと笑いながら下界に向かう。
「これは、1本取られたな。」
主神は、嬉しげに呟くのであった。
さて、平和な日常を取り戻し、ユラは今日もお仕事を頑張る。周りを無視して、真剣にデータをまとめる。そして、小さなため息を吐き出した。
「ユラ君、どうかしたの?」
「どぉわっ、ユリスさん!?」
ユラは、珍しく驚いた表情をする。カリオスも、キョトンとしている。シアンは、横からユラの資料をかっさらい見てから苦笑する。
「あー、これな。確かに、手詰まるよな。」
「うん、どうやっても無理だった。」
ユラは、ため息を吐き出し考える。
「まぁ、一息つけば?この頃、お茶しに来ないから来ちゃった。休憩室を、借りるよシアン。」
「おう、俺も後で来るよ。さて、行ってこい。」
ユラは、頷いてから休憩室に向かった。
バンッ!勢いよく、扉が開いて青年がくる。
「たっ、大変だ!レオさんが!」
「カリオス、シアンと来て今度はレオさんか。」
ユラは、元勇者の青年を見てから言う。
「あんたが、ユラさんか。それより、助けてくれ!レオさんが、貴族の護衛を殺したって!」
「それは、間違いだよ。レオさんは、護衛に成り済ました敵を排除しただけ。冬馬さんだよね?良ければ、死体を燃やされないように回収を急いで。」
冬馬は、頷くと全力で走り去った。
「ふふっ、僕の身内を次々に襲うだなんて…………。もう、手加減なんてしないよ?仏の顔も3度まで、3回目だからざっくり消し灰にしてやろうかな。」
カリオス達は、青ざめている。
「えっと、建物は壊すなよ?」
取り敢えず、シアンが青ざめつつも釘を刺す。
ユラは、立ち上がると歩き出す。途中で、クルトとオズそしてパゴンと合流しながら部屋に入る。
「何事だ!勝手に、乱入す………」
ユラを見て、固まる貴族達。
「黙れ、狸ども………。」
ユラは、神装になると冷たく告げる。
「ユラ?どうして、ここに?」
レオは、驚いてから戸惑いの表情を浮かべる。
「この国の、守護神として告げる。現団長達が、1人でも欠ければ国は滅ぶ。レオ・バーデは、護衛に成り済ました敵を排除しただけだ。もし、処罰すれば私だって考えがある。恩を仇で返す愚か者には、天罰を与えても誰も文句は言うまい。そうだろ?」
ユラは、国王であるルピア陛下を見る。ルピアは、満面の笑みでgoサインをだした。
「うむ、文句はない。」
「さて、関係者の全てに禍あれ。」
神装を解除して、白衣姿でレオの治療をする。
「レオさん、立てますか?肩を貸すので、ゆっくり立ってください。大丈夫です、ちゃんと支えてますから。うん、大丈夫そうですね。」
ユラは、優しく笑いながら言う。
「済まない………」
「悪いのは、狸どもですから。団長クラスは、もう狙われないでしょう。次は、副団長を狙うかな?」
ユラは、苦笑してため息を吐き出した。




