協力者
さて、書類も終わったし部屋の掃除をしようかな。窓を開けて、掃除道具を出して白衣を自分のディスクの椅子にかける。そして、掃除を開始する。
何と言うか、掃除をされてなく所々に埃が貯まって不衛生だ。ユラは、小さくため息を吐き出す。
「えっと、ハイリヒ?何で、掃除しているの?」
「少し不衛生なので、書類も終わった事ですし皆さんが、不健康にならないよう掃除をしています。」
ベガさんは、納得すると優しく笑って礼を言う。
ユラは、椅子にかけていた白衣が無い事に気づく。すぐに見つけ、見てみると靴で踏んだ後が有り所々わざと破った後がある。ユラは、苦笑して魔法で汚れを落とすと、針と糸を出して縫い直す。
しかし、ベガは激怒して馬鹿達に食って掛かる。
ユラは、少し困った表情でチクチクと縫っていく。すると、ヘルズが反対側から手伝うように縫う。
「すみません、ヘルズ先輩。ありがとう、ございました。とても、助かりました。」
「いいや、俺も済まなかった。あいつらを、止められなかった。本当に、申し訳ない………。」
ヘルズは、本心から謝罪しておりユラは思わず素で笑いそうになる。実は、こうなるのは想定内だ。
それに、同盟の頃に受けたいじめからしたら子供のお遊び程度だし。なので、ユラは微塵も動揺せずに笑うのだった。そもそも、想定内でなければ針と糸を持っているはずがないのだから。
「さて、お礼にお茶でも入れますね。」
ユラは、立ち上がり慣れた手つきで紅茶を入れる。
「お前、手慣れているいるんだな?」
「実は、5年ぶりに紅茶を入れました。腕が、落ちていなければ良いのですが。はい、どうぞ。」
ティーカップを渡し、ベガを呼んでティーカップを渡す。勿論、彼らが罪を認めないのも想定内だ。
「これは、うまいな………。うん、うまい。」
「ハイリヒ君、明日も紅茶を入れて欲しいな。」
すると、後からシアンが暢気に言う。
「あっ、俺にも紅茶くれ。そして、明日もよろしくな。それで、俺が居ない間に何が起きた?」
ユラは、紅茶をシアンの机に運びながら言う。その間に、足を出して転ばそうとする馬鹿どもを回避。
「少し、お掃除をしたくらいですが。」
「……ハイリヒ、お仕事は楽しいか?」
シアンにも、その光景は見えており心配そうだ。
「はい、ベガ先輩やヘルズ先輩のおかげで。」
その言葉に、シアンは興味深い視線を二人に向けている。そして、少し考えてからユラを見て言う。
「なら、副団長にベガを推薦してヘルズには補佐をしてもらうか。ハイリヒは、1人の医学術師としての活動を許可する。勿論、単独行動も認める。」
すると、全員が驚いてユラを見る。ユラは、好都合なので頷いてから、思わず癒されるような笑みを浮かべる。シアンは、ユラが白衣を着ていないのに気づく。そして、思わず聞いてしまった。
「ハイリヒ、何で白衣を着ていない?」
ピシッと、空気が凍った。馬鹿達は、ニヤニヤしながらユラを見ている。規則として、城にいる場合は白衣を着用する義務が有るからである。
「掃除で、汚れてしまったので。ロッカーから、新しい白衣を持って来ますね。それでは、失礼。」
ユラが、去り沈黙がその場を支配する。シアンは、知っている。掃除をする際、ユラは決まって白衣を脱ぐ。白いので、汚れが目立つと言うのも理由だ。
だが、本当の理由は衛生的では無いから。
シアンは、ゆっくり立ち上がりユラのディスクの引き出しを開ける。そして、目を鋭くさせる。
なるほど………、ここまで腐っていたか。
引き出しを閉め、自分のディスクに戻り座る。そして、ため息を吐き出して疲れたように言う。
「お前ら、新人を虐めて楽しいか?」
沈黙する周りに、シアンは頭が痛そうに表情をしかめる。まずい、後でユラと話す必要が有りそうだ。
「因果応報………。後で、後悔する事になるぞ。」
シアンは、そう言うと視線を外して書類確認をしだす。足音がして、ユラがヒョコッと顔をだし、癒しの笑みを浮かべる。ベガは、思わず優しく笑う。
「あれ、どうかしました?」
「別に、何もないよ。それより、紅茶のお代わりをいただけないかな?そろそろ、僕も仕事しないと。そうだ、ハイリヒ君は甘いの好き?」
ユラは、キョトンとして首を傾げる。
「はい、大好きですけど。」
「なら、今週は僕とヘルズとハイリヒの休みが重なるんだけど。最近、美味しいって有名なスイーツショップに行かない?えっと、仲良くなりたいし。」
最後に、恥ずかしそうに言うベガ。ユラは、少しだけ考えてカレンダーを確認する。そして、少し迷いながらも頷いてから暢気に笑う。
「はい、僕でよろしければ。」
すると、シアンは驚いた表情をする。
「ベガ、俺も一緒に行って良い?先輩として、ハイリヒについて説明して欲しいし。ここでは、ゆっくり話も出来ないだろ?世間話も、たまにはしたいしさ。あっ、勿論だが邪魔はしないぞ。」
「えっ、シアン団長もですか?と言うか、よろしいんですか?やったー、嬉しいです。」
ヘルズも、思わず嬉しそうな笑みを浮かべる。ユラは、シアンと一瞬だけアイコンタクトして僅かに頷いてため息を吐き出す。まぁ、良いか。
ユラは、内心は苦笑して紅茶を飲む。うん、美味しい。うん、腕は落ちてないなぁー。
ユラは、休日に変装せずに待ち合わせ場所に行く。
「おはよう、ユラ。」
「シアンも、早かったね。」
ユラが、敬語を使っていない事に気づいて、嬉しそうなシアン。約束なので、ユラは敬語を使わない。
「2人は、既に店の中だ。きっと、驚くぞ。」
シアンは、ニヤニヤしながら言う。
「まぁ、そうだろうね。」
ユラは、苦笑しながらお店に入った。
「シアン団長、もしやその方は……」
「僕は、ユラだ。よろしく、先輩。」
すると、2人は目を丸くして驚愕する。
「あははっ、すげぇーリアクション。」
「シアン、何を頼むの?」
「俺は、アイスコーヒーとチーズスフレ。」
「僕は、アイスティーとアップパイかな。」
すると、後からカリオス達が来る。
「僕らも、混ぜてくれる?」
「おう、大歓迎だ。ユラも、別に良いだろ?」
ユラは、暢気に笑って頷いた。2人は、感動している。まず、部署の違う団長にお目にかかれる事が無いのだ。それなのに、休日に出会える幸運。
「にしても、ユラが虐められるとか。」
「僕からしたら、あれは子供のお遊び程度だよ。まぁ、許してやるほど寛大では無いけどね。」
ユラは、隠していた冷たい笑みで言う。2人は、敵対しなくて良かったと思った。そして、視察がもう始まっていた事に凄く驚いていた。
こうして、協力者を2人得たのだった。




