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待ち合わせ



ユラは、儀式の間の隅で静かに勇者を見守る。それにしても、さっきから視線を感じて落ち着かない。敵意なら、いくらでも受け流せるのだが好奇心や尊敬などの視線を感じると対処に困る。


すると、勇者の大沢 圭吾が来る。


「ユラ……、いや、榊……ごめんな………。」


「それは、何に対する謝罪ですか?」


ユラは、困ったように首を傾げる。


「俺が、お前を殺した事への謝罪だ。」


すると、凄まじい殺気か大沢に突き刺さり会場が殺伐とした雰囲気になる。ユラは、頭が痛そうにため息を吐き出す。そして、苦笑しながら言う。


「それで?僕に、許してもらいたいの?」


「いや、俺を許さないでくれ。」


ユラは、思わず小さく笑ってしまう。大沢は、困ったようにこちらを見る。駄目な男だ………。


「それは、ただの自己満足だよ。大沢、お前は僕が恨む事を心の支えにしようとしてる。残念だけど、それは謝罪とは言わないよ。言葉ばかりの謝罪は、受け入れるつもりなんてない。今のお前は、僕を利用しようとしている。わかるよね?」


「おっ、俺は………ごめん……ごめんな……。」


ユラは、小さく息を吐き出して言う。


「そう思うなら、僕の事は忘れなよ。」


「それは、嫌だ!絶対に、忘れない!」


ユラは、黄金の瞳になり記憶を消してしまう。


「え?あの、何で俺は此処に?」


「此方に、来る際に迷子になられたのでは?彼方に、お仲間の皆さんがお待ちしてますよ。」


ユラは、優しく明るい声音で言う。周りは、驚いてユラを見る。ユラは、無視をして勇者達を見る。


彼らを、仕事仲間だった時と同じ様に優しく、そして少し寂しそうな表情でこっそりと。


………皆、お疲れ様。君らの未来に、多くの幸があらんことを………我、心より我が神に祈ってます。


それに気付いて、勇者達は何か言おうとしたがその言葉がユラに届く事はなかった。


………さようなら


ユラは、苦笑してから会場を出る。


「ユラ、お出掛けしよう。」


「え?本当に、今から行くの?」


カリオスは、周りを見てからユラを見る。


「うん、場違いなお誘いをしているのは理解してるよ。でも、このままだとユラは囲まれちゃうよ?」


「よし、今すぐ行こう!」


ユラは、即答して頷く。ここで、囲まれる訳にはいかないのだ。それに、気力の限界も近い。


「カリオス、1度家に帰って着替えて来るよ。」


「じゃあ、噴水広場で待ち合わせしよう。」


カリオスも、頷くと歩き去る。不味い、囲まれる前にあの人を呼ばないと。うわぁ…、ぞろぞろ来た!


「ヴァイス、帰るから転移をよろしく。」


「御意に……。」


次の瞬間には、お屋敷の中でホッとする。素早く上着を脱ぐと、ヴァイスがそれを慣れた動作で受け取る。ユラは、ハンガーに掛けとくだけじゃ駄目?と思ったが、ヴァイスに怒られる気がして言わない。


「ユラ様、お洋服なのですが………。」


ヴァイスは、少し悩むような仕草をする。


「ん?」


「その……、僭越せんえつながら私が選ばせて頂きました。気に入らぬ物も、あると思います。」


ユラは、ヴァイスの手にある服を見る。装飾が少なく、シンプルでカジュアルなデザインで気軽な外出に向いている服装だ。そして、そんな服なのに素材が良いものなのか清楚で品がある。


うん、完璧にヴァイスは気付いてる。僕が、着飾る事が嫌いな性格だって。そして、服のサイズとかは何処から漏れたのだろうか?少し、怖いんだけど。


「良く、僕の好みが分かったね。ありがとう。」


「そっ、そうですか。ふぅ、良かったです。実は、ベイル様に頼んでカリオス様から色々と………」


ユラは、服の脱ぎ途中で一瞬だけ止まる。そして、服を着替えてからヴァイスを見ると言う。


「カリオスは、余計な事を言ってないよね?」


「はい?私が聞いたのは、ユラ様の服の好みや食べ物の好き嫌いアレルギーなどですが。あっ、ですが甘いもの大好きだとか。それに、可愛い生き物が大好きで擽りにかなり弱いとか。ちなみに、性格も特殊だと伺っております。ゆっ、ユラ様!?おっ、落ち着きましょうユラ様!」


ユラは、拳を握りしめワナワナと震える。


カリオスの、お馬鹿!大馬鹿!人でなしぃー!許さん!うわぁーん、この状況どうしろとぉ!


取り敢えず、ベッドに座り近くにあった枕に八つ当たりする。ポフポフと、枕を殴る音だけがする。


「ヴァイス、あらかじめ言っておく。僕は、否定はしないよ。けど、余り他には言って欲しくない。」


「はい、畏まりました。」


ヴァイスは、丁寧に礼をして笑う。


「じゃあ、出掛けてくるね。」


ユラは、そう言うと馬車に乗る。噴水広場とは、城下町の名物の1つだ。観光名所にして、有名な彫刻家の素晴らしい1作品でもある。


ヴァイスは、さっきの枕を殴るユラを思い出し思わず口元が緩む。可愛かった……。赤面して、言いようもない恥ずかしさと、ぶつけようのない怒りを枕に八つ当たりする姿は年相応で可愛いとしか………。


こほん、さてユラ様が帰るまで仕事です仕事。


ここに、隠れ変人が誕生した瞬間だった。




ユラは、噴水広場から少し離れた王立図書館に降ろしてもらい歩き出す。ちなみに、王立図書館から噴水広場までは約15分くらい歩く必要がある。


ユラは、眼鏡をかけて伸びてきた髪を後ろに結ぶ。


すると、何故か大人びてみえて別の意味の美しさがきわだつ。いつもの、可愛いげのある聡明な人ではなくなる。本来の性格のように、清楚なクールで聡明な大人っぽい人に変わるのだ。服装が、その雰囲気をさらにきわだてる。


「え?えっと、ユラだよね?」


「僕いがい、誰がいるのさ?」


ユラは、噴水近くのベンチで読書をしていたがカリオスに声をかけられて顔をあげる。


すると、オズやクルトは驚いて2度見している。ベイルとユリスは、何か此方を見てから話込む。カリオスは、驚いてからいつものように笑う。レオは、無表情だが驚いたが故の無表情。シアンは、そんなレオを見て爆笑してからユラを褒める。


「いつもの格好は、正体がばれて囲まれるから。」


ため息を吐き出し、立ち上がると鞄に本を直して立ち上がるユラ。カリオスは、頷いてから歩く。


「でも、この人数だから間違いなくばれるよ。」


「うん、既にもう諦めた。」


そう言うと、眼鏡を外し髪をほどきいつもの雰囲気を纏う。すると、残念そうなカリオス達。


「え?戻しちゃうの!?」


「もっ、勿体ない………。」


ユラは、キョトンとして首を傾げた。


「ん?」


「まぁ、ユラだしね。」


カリオスは、諦めた表情で空を見た。え?え?何なの?えっと、僕は何か悪い事でもした?


「ユラは、そのままで良いぞ。」


解せぬ、言いたい事があるなら言って欲しい。


「ユラは、1度鏡で顔を見た方が良いよ?」


「ん?えっと、鏡は見たことあるけど。」


すると、全員がため息を吐き出した。


なっ、何?確かに、この世界では少しは整ってる方だと思うけど………。醜くは無いよね?


「ユラは、自分には無関心だからな。」


オズが、思わず遠い目で言う。


「ユラは、自分の容姿をどう思ってる?」


カリオスは、少し頭が痛そうに言う。


「ふぇ?うーん、顔は少しだけ整っていて体型は普通かな。うん、それしか思わないよ?」


沈黙………。


「もしかして、感覚が麻痺しているのかも。ほら、毎日のように美形に囲まれているから。」


ユリスは、明るい口調で冷や汗ながら言う。


「ユラ、君の容姿は人間離れした美しさだ。これじゃあ、15歳になった時が大変だろうね。」


カリオスが、何か最近だけどオカンに見えてくる。


「まだ、2年後の話でしょ?」


「残念。もう、2年しか無いんだよ。」


ユラは、キョトンとして答えたシアンを見る。


「人の感覚で、物事を考えたら駄目だぞ。もう、色んな種族がお前を取り込む為に動いてる。」


ユラは、意味を正しく理解して青ざめる。


「でも、成人するまで禁止じゃあ……」


「それを、律儀に守るのは人間だけだ。」


ユラは、思わずゾワッとして震える。


「ですが、それが現実です。」


ベイルも、同意しながら言う。ユラは、苦々しい表情をしてため息を吐き出しす。


「はぁ……、なるほど……。まぁ、強引な奴は蹴散らすのみだけど。僕は、結婚に興味がないし。」


すると、全員が優しく笑った。


「困った時は、いつでも手を貸すからね。」


カリオスは、皆を代表して言うのだった。

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