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破壊された護り

カリオスは、真剣な表情でこう言った。


「君の、此れからについて。具体的には、君の立場と国との関係。そして、香水の件。それと、将来的な事を少し話そうと思う。良いかな?」


ユラは、ソファーに座り紅茶を飲んでいる。


「ユラは、まだ成人じゃない。だから、お家として王家が取り込む事は出来ない。それを、前提として話すからな。大丈夫、悪いようにはしないぜ。」


シアンは、優しく笑うと気づかう仕草をする。すると、レオやユリスやベイルも入って来る。


「まず、君の立場と国の関係から。君は、色んな顔を持つよね。辞めたとはいえ、神聖賢者に森の賢者それと現役の神聖医学術師でもある。」


「別に、好きでその地位に要る訳じゃない。」


ユラは、無表情に呟く。


「知ってる。かなり、手間がかかったけど調べられたよ。医療国ザラは、君を鳥籠の鳥にしようとして失敗した事とかね。本当に、苦労が絶えないね。」


カリオスは、苦笑してユラの頭を優しく撫でる。


「医療国ザラは、森から近いから薬を良く売りに行っていたんだよ。でも、あの神の本が僕を選んでしまった。それからは、ザラには行ってない。」


ユラは、ムスッとした表情で紅茶を飲む。カリオスは、頷くと話題を変えるように言う。


「でっ、だけど。将来的に、君を国は雇う予定だけど君が20歳になるまでは放置する。中等部を卒業して、外に出るなり働くなり自由にして良いよ。でも出来れば、20歳になったら王宮医術師になって欲しいかな。勿論、これは強制ではないよ。」


「でも、たくさんの医術師が居るのに何故?」


ユラは、キョトンとしてシアンを見る。


「実は、年々だが医術師の腕が落ちていてな。だから、腕に信頼できるユラは是非ともスカウトしたいんだよ。と言うか、将来的には王宮医術師長になって貰いたい。というのが、俺の本音だけどな。」


すると、カリオス達も同意するように頷く。


「ちなみに、王宮魔法騎士団長の候補にはクルト。そして、王宮執事長の候補にはオズが予定しているよ。その表情、オズ君の件は知らなかった?」


ユラは、少しだけ驚き首を傾げる。


「王宮暗部長の候補には、パゴンだ。ユラは、知ってるだろ?君の監視を、頼んでたからね。」


ユリスは、ニコッと笑いながら言う。一方、ユラは何か納得したように頷いて小さく笑う。


「王宮騎士団長の候補は、元異世界人の勇者である男を入れる予定だ。お茶会で、会えなかったがそのうちユラにも紹介したいと思う。良いか?」


「勿論、喜んで。」


ユラは、暢気に笑ってからティーカップを置く。


「後は、王宮医術師長だけなんだよ。まぁ、考えといてな。まだ、早いだろうけどさ。」


「まぁ、考えときます。」


ユラが、頷いたのを見てカリオスは言う。


「さて、香水だけど。君は今現在、公爵家と並ぶ有力貴族だって事になってる。つまり、僕らより権力者だって事さ。勿論、他国には極秘だけど。けど、ばれるのも時間の問題だと思う。だから、成人の15歳になったら香水を受け取って貰う。そして、身に危険が迫ったらその権力を使っても構わない。」


「ちょっ……、待ってカリオス!」


ユラは、青ざめてカリオスを見る。カリオスは、少しだけ苦々しい表情をする。それで、ユラは悟る。


カリオスは、頑張ったと思う。だが、世の中は権力が全て。そして、格上の者の判断は簡単には覆せない。ユラは、これ以上はカリオスに何も言う事が出来なかった。カリオスは、弱々しく謝る。


「ユラ、ごめんね……。」


ユラは、ため息をついて苦笑する。


「まぁ、仕方ないよ。カリオスも、気にしないで良いよ。うん、なるようになる。」


「ユラ……」


ユラは、ニコッと笑うとカリオスに問う。


「だって、王家に忠誠心を捧げなくて良いし自由にしてても良いんだよね?なら、大丈夫かな。」


すると、レオが困ったように言う。


「実は、ユラには王都に屋敷が用意されてる。家の管理とかは、ヴァイスがしているが。それと、国の膿を出してくれた礼金と被害を受けたから謝礼金がユラの口座に大量に振り込まれているはずだ。」


すると、ユラはポツリと言う。


「……ザラの、二の舞になりたいの?」


その声は、黒々していてカリオス達も密かに冷や汗を流す。ユラは、無表情で目には感情が感じられない。まるで、別人のようだとカリオスは思う。


「ユラ、落ち着いて………。」


「僕は、落ち着いているよ?」


すると、クルトとオズが入って来る。


「「お邪魔します!」」


「カリオスさん、ユラをお借りします!」


「えっと、取り敢えず外に行くぞ!」


ユラは、オズに腕を引かれて外へ行く。


「あっ、危なかった……。カリオスさん、急いでお父様を……国王陛下を呼んでください。あんたは、この国を滅ぼすつもりかって!相手は、この国を守ってる生き神様なんだって理解してないようですし。」


青ざめて、クルトは一気に言葉を吐き出す。その言葉に、カリオスも青ざめる。忘れがちだか、ユラは神様の子で生きた神様なのだ。


王室会議室に、国王とカリオス達と全騎士団長ならびに大臣など国の権力者が集まっている。


「さて、生き神とは大きく嘘をついたな。」


大臣が、馬鹿にしたように笑って言う。青ざめる、カリオス達と国王陛下。ユラは、無表情だがため息を吐き出して誰に言うのでもなく呟く。


「もう、知らない。」


すると、外で異常気象が発生する。国民達は、驚いて慌て悲鳴が響く。ユラは、ゆっくり立ち上がる。


「地位を、返上します。もう、この国なんて知らない。カリオス、僕はもう付き合ってられないよ。」


カリオスは、苦笑して頷く。


「ユラ、我慢しててくれてありがとう。」


「うん。じゃあ、宿の方に帰るね。」


そう言うと、部屋に戻り服を着替えるとスタスタと歩き出す。ゲテル達も、ユラの荒れ狂う怒りを感じ取り普通に見送った。ユラは、いつもの通り笑って城を出る。ユラは、宿に帰るとすぐに眠った。


その間に、国の悪化はますます進んでいった。


主神は、それを静かに見つめる。ある程度の時間がたち、その光景に背を向けゆっくり歩き出す。


なんて、愚かな……。さて、ユラに会わなければ。


ユラは、スッと目を覚まし、頭を少しだけ上げてそのままドアを見つめる。主神が、ゆっくり入って来たのを見て起き上がる。かけていた、薄いかぶり布団がずり落ちる。ユラは、キョトンとして呟く。


「主神様……?」


「ユラ、機嫌を直せよ。お前が、不機嫌だと仕事にも集中が出来ないだろ?国なんか、どうでも良いけどお前の心が荒むのは俺としても困る。」


主神は、苦笑しながらユラを撫でる。


「別に、荒んでないです。僕は、カリオス達が辛くないようにしたいだけで。国は、そのついでに守っていただけですから。とにかく、もう一眠りしても良いですか?疲れてて、とても眠いんです。」


「だろうな。今まで、国を守る規模の力を使い続けていたんだし。守ってないなら、その分の力が帰って来る事になる。その反動で、眠いんだろうよ。俺に構わず、しっかり眠ってしっかり回復しろ。」


主神は、優しく笑うとユラは横になり深く眠ってしまう。主神は、椅子に腰掛けてため息を吐き出す。


「まさか、この国が此処まで腐っていたとはな。」


「そうだな。して、主神よ。これから、どうするつもりだ?まさか、医療国ザラの二の舞にするのか?それならば、我も全力で叩き潰すが?」


竜神は、主神を真剣な表情で見ながら言う。


「………ユラに、任せる。お前には、仕事を任せるけど良いか?今から、王宮の騎士や貴族どもが押し掛けて来る。それを、全て徹底的に追い払え。」


「ふむっ、ユラも眠っておるし出来るだけ静かに追い払うか。うむ、我にまかせろ。」


そう言うと、音をたてずに部屋から出ていった。

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