本心
タガラシ草は、見た目のイメージとしては青みがかったホウレン草だ。僕も、1回しか使った事は無いけれど。ストレスで、胃にきた時に少々………
まぁ、便利だしあの男を例えるには勿体なかったかな?なんて、思いながら小さくため息を吐き出す。
その後、パーティーは終わり寝る事になる。さて、ここで問題が起こった。えっと、どちら様?
「私は、ヴァイス・ローレムと申します。階級は、王宮執事副執事長でベイル様の弟子です。そして、今日から貴方の専属執事をする事になりました。」
え?ん?僕に、執事が何でつくの?しかも、現役副執事長とか……えっと、誰か説明プリーズ。
ユラは、困惑した表情でカリオス達を見る。
「まぁ、当然の対応だな。というわけで、諦めてお世話されてくれ神聖医学術師ユラ殿。」
シアンは、真顔でユラを見ながら言う。
「えっと、これは断れないの?」
「それは、私がクビと言う事でしょうか?」
ヴァイスは、困ったように笑ってユラを見る。
「……………カリオス?」
すると、カリオスが笑っている事に気付く。そしてから、少しだけ躊躇するようにベイルが言う。
「いやはや、ユラ様もそんな表情をするのですね。少しだけ、可愛いと思ってしまいました。」
おい、こらっ!こいつらぁ………。本気で、内心は楽しんでる。さて、それは良いとして世話されるのは嫌なんだけど。何か、雰囲気的に断れる感じでは無いんだよね。何事も、諦めが肝心だよね!
「……分かりました。ヴァイスさん、よろしくお願いします。でも、基本は自分で出来ますよ?」
「ユラ様、ありがとうございます。そのですが、そこは我慢してお世話させてくださいますようお願い申し上げます。それとですが、国王陛下より香水を教皇陛下からは通信用のマジックアイテムをお預かりしています。教皇陛下いわく、国王陛下と自分の魔力は登録してあるそうです。」
ユラは、固まる。国王陛下から渡される香水。つまり、ユラは正真正銘に国から貴族として認められてしまったのだ。しかも、香水の色は青いサファイアのような色。これには、カリオス達も笑みを消す。
青は、レレット王国を示す知恵の色。王宮騎士団長さえ、暗い青である紺色である。つまりは、このままだとユラが国の争いなどに巻き込まれかねない。
「ヴァイス、それをユラに渡すのは待って。」
カリオスの、少しだけ低い声にヴァイスも頷く。そもそも、ヴァイスもユラにこの香水を渡すのは反対だった。別に、相応しくないと言うわけではなくまだ早いと思ったのだ。勿論、将来的には賛成だ。
ユラは、ホッとため息を吐き出している。
それと同時に、疲れが出てしまい座り込みそうになるのを堪えるユラ。ヴァイスは、それを敏感に感じ取りカリオスに視線を送る。カリオスも、頷いてから短く『ユラを、頼んだよ?』と言うと王室に向かって全騎士団長と一緒に歩いて行ってしまった。
「さて、ユラ様。寝るために、寝間着に着替えてしまいましょう。勿論ですが、準備は万端です。」
ユラは、別の意味で固まるのであった。
「えっと、頑張れユラ。」
ゲテルは、苦笑しながら既に寝間着だった。
「……観念する。」
ユラは、心底から嫌そうに渋々そう呟くと羞恥心を殺す事になるのだった。ユラは、顔を赤くしてベッドに潜ってしまい。『もう、嫌だぁー!』と、嘆いて暫くベッドから出てこなかったのは後の笑い話。
朝になり、ユラは目を覚ます。
すると、ヴァイスが少しだけ驚く。まさか、ユラが早起きだとは思わなかったのだ。ヴァイスは、紅茶をいれるべく素早く部屋を離れる。もう既に、全ての執事は起きており主が起きるための準備をしている。ヴァイスも、ユラの為の準備をしていたのだが予想よりユラが早起きだったのだ。
「……っ!?おはようございます、ユラ様。」
ユラは、珍しく寝惚けてるらしくあどけない。ヴァイスは、思わず可愛いくて息を呑む。だがすぐに、持ち直して優しくユラに挨拶をする。
「ヴァイスさん、おはようございます。」
ユラは、ハッとして目を擦りながら言う。思ってた以上に、ユラは王宮の生活にストレスを感じているようだった。ヴァイスは、内心どうするか考えるのだが分からない。後で、師匠であるベイルに聞こうと諦めて心に決めるのであった。
「あの、身体を動かしたいんですけど。どこか、良い場所は無いですか?別に、無理なら良いです。」
ユラは、服を渋々と着替えを手伝って貰いながら言う。ちなみに、ユラには拒否権が無かった。服を手に取り、既にヴァイスさんが待っていてニコッと無言で笑いかけてきた状態だったのだ。
「それなら、第7訓練所が空いている筈ですので聞いて参りますね。では、ごゆるりと。」
ユラは、ヴァイスが見えなくなってから服を見る。
こんな服は、ユラの趣味ではないし勿論だがユラの服では無かった。ユラは、どうして良いのか分からなくなりイラつきと不安を殺した。
ユラは、部屋から出て風にあたる。未だに、冷たい風はユラの心を少しだけ落ち着かせてくれた。
「ユラ?」
カリオスが、キョトンとしてユラを呼ぶ。ユラは、表情を隠して暢気にカリオスを見る。
「おはようございます、カリオス様。」
「………ユラ、隠さなくても良いよ。見てたから。」
カリオスは、優しい声音で少し困ったように言う。
「カリオス、早く帰りたい………。」
それは、ユラの隠していた本心。声は、少し震えて瞳はせつなく揺れる。ユラは、貴族になりたい訳では無い。むしろ、凄くなりたくない。ユラが求めるのは、だだ1つ………平和な生活だけだ。
「さて、少しだけ話そうか。ヴァイス、君も来てくれるよね?ユラの本音は、一応は聞けた事だし。」
「はい、勿論です。」
ユラは、複雑な表情で疲れた瞳をしている。
「本当に、こんなになるまで我慢するなんて。」
しかし、近くで聞いていたシアンは真剣に言う。
「カリオス、ユラは見た目は子供だが中身は大人なんだ。お前も、少しは分かるだろ?」
「うん、まぁね……。」
ユラは、深呼吸をしてから3人を見て言う。
「それで、何をはなすの?」
「君の、此れからについて。具体的には、君の立場と国との関係。そして、香水の件。それと、将来的な事を少し話そうと思う。良いかな?」
ユラは、目で分かる程に動揺した。普段のユラならば、ポーカーフェイスを貫いただろう。
つまり、それだけ精神的に疲れていたのだろう。
「……分かった。」
ユラは、真剣な表情で呟くように言うのだった。




