複雑な心
カリオスは、小さくタメ息を吐き出した。その表情は、かなり疲れていて後悔が滲んでいた。貴族にとって、食事の毒味役は普通だ。しかし、ユラには普通じゃない。やらかしてしまった。何を、やってるんだ僕は……。思わず、頭を抱えたくなる。
ユラは、1度死んだ事があるせいか人の生死にとても敏感だ。僕が、毒味役を命じてユラの目の前で人が死んだ。ユラは、あの時に青ざめて心から駄目だと叫んだにもかかわらず……だ。間に合わなかった。
「カリオス、元気を出しなよ。」
「でも、泣いていた。」
カリオスが、そう呟けば全員が沈黙する。
あの日、ユラは泣いていた。青ざめ、体を震わせてながら。何度も、謝りながら。出会ってから、ユラは1度も泣かなかった。毎日、にこにこ優しく笑い頼もしい存在だった。
けど、そんなユラを泣かせてしまった。
カリオスには、その事がかなりショックだった。カリオスにとって、ユラは友人いぜんに家族だった。
だからこそ、毒を入れた奴を見つけないといけないのに……。城の奴らは、口を閉ざしている。それが分かってるから、尚更に腹立たしくてストレスを感じはじめていた。ピリピリした、雰囲気である。
本当なら、今すぐユラの元に行ってフォローすべきなのだろうけど。ユラは現在、国を離れている。
あの日、時間を置いて宿を訪れた。だけど、女将に帰るように言われてユラに会えなかった。
もしも、ユラが帰って来なくても誰もせめないだろう。それだけの心の傷を、ユラに与えてしまったのだから。カリオスは、タメ息をもう一度吐き出すと仕事に取りかかる。でも、集中は出来ていない。
「済まない、お邪魔しても良いだろうか?」
竜王は、ドアから顔だけを覗かせて言う。
「竜王さん、良いですよ。」
「珍しいね?何か、いつもユラ君と居るのに。」
ユリスは、首を傾げる。ちなみに、この2人は同い年で同じ年齢だ。だから、とても仲が良い。
「ユラに、暫くただのユラでいたいと言われた。」
その意味を、素早く理解し悲しげな表情をするカリオスとユリス。レオは、タメ息を吐き出しベイルは目を伏せる。ルシアは、自分の無力さに拳を握る。
そして、ルピア王子はむなしさに俯く。クルトは、胸が締め付けられらる感じがした。オズは、無言で立ち尽くし唇を噛む。
悔しかった。いつも、ユラは助けてくれるのに自分がユラを助けられない事が。悲しかった。あのユラが、泣いたと言うのに何も出来ない現実が。腹が立った、ユラの行動には1つ1つに意味が有るのを忘れていた自分と毒を入れた犯人に。これからは、絶対にもう2度と泣かせない。そう、心に誓った。
「そっか。でも、離れてて良いの?」
「良くはない。だが、ユラの心はまだ不安定だ。」
「なるほど……。」
カリオスは、思わず呟く。
「でっ、そんな状態で依頼して大丈夫なの?」
ユリスは、真剣な表情で竜王に聞く。
誓ったそばから、崩れていく現実。
「大丈夫だ。ユラは、落ち着いてきているからな。だかしかし、ここに来る事は次の依頼でたぶん最後だろうな。そしたら、爵位を捨てて冒険者として生きていくだろう。本当に、残念だがな。」
「そっか、そうなれば………」
ユリスは、チラッとカリオスを見る。カリオスは、真剣な表情で何度目か分からないタメ息つく。
「うん。もう、僕達と会う機会はなくなるね。」
すると、クルトとルピアは息を呑む。オズも、分かっていたのか思わず顔をそむける。
3人は、学園で会えるだろう。しかし、立場上の都合でユラに会える時間はかなり少なくなる。
沈黙が、その場を支配してしまう。
「もう、どうしようもない。」
カリオスは、羽ペンを置いて苦笑する。
「ごめん、少し寝てくるね。」
「おう、お休みカリオス。」
ルシアは、いたわるように言う。
その頃、ユラは見張りの為に座っていた。
「ユラ君、悩み事かしら?」
「そうですね。僕だって、年頃の男の子ですし悩み事の1つや2つはありますよ。あははっ。」
マリアは、目を細めてから怒ったように言う。
「嘘ね。そんな悩みなら、そんな辛そうな表情はしないわよ?少し、顔色も悪いわ。大丈夫?」
「まぁ、寝ればどうにかなります。」
すると、マリアはタメ息を吐き出してから言う。
「貴方は、良くも悪くも真面目で優秀ね。」
ユラは、キョトンとして枝を火の中に放り投げる。
「………褒め言葉ですか?」
「いいえ、全く違うわ。もう少し、肩の力を抜きなさい。貴方は、いつも気を張っていてやすらぎを感じないの。もっと、自分に優しくなさい。もっと、自分をいたわり大切になさい。分かった?」
怒ったように、心配するようにユラを叱るマリア。すると、ユラは思わず本音を溢す。
「敵が多すぎて、全く心身ともに休まらないんですよ。せめて味方が、そばに居てくれたら安心なんですけどね。僕の味方は、高貴で忙しい人ばかりだから。僕に、構ってられないんです。」
「………それは、味方とは言えないわ。」
真剣な表情で、ユラを見てから言う。
「知ってます。ちょっと、強がりを言ってみただけですよ。少しぐらい、許してください。」
少し、茶目っ気な感じで言うと笑う。
「はぁ………。ユラ君、貴方は甘える事と肩の力を抜く事と自分を労る事をなさい。暫く仕事を休んで、お友達とかクラスメイトと遊んだりはしゃぐ事くらいしても誰も文句は言わない筈よ。良いわね?」
「………どっ、努力します?」
すると、マリアは黒い笑みを浮かべる。
「ギルドマスターには、私から言っておくわ。」
「………はい。」
「よろしい!さて、そろそろ皆が起きる頃ね。」
そう言うと、スタスタと何処かへ行ってしまった。
「………朝食でも、作ろう。」
取り敢えず、ユラは現実逃避に走った。
次は、楽しい内容を書く予定です。d(>∇<;)




