謎の鈴
ギルドカードを貰って、あれから忙しくてギルドに行く暇さえなかった。ため息をついて、王宮から外に出て訓練場で軽く体を動かして頷く。
体は、もう大丈夫かな。
城下町の、あの喫茶店に入る。
「いらっしゃいませ。」
「あの、愛のクッキーセットください。」
すると、若い女の子は赤い顔で言う。
「かっ、畏まりました。」
「あらあら、青春してるじゃない。」
あの、おかまさんがこちらに来る。
「何がですか?」
「貴方は、実らせる積もりはないのね?」
「はてはて、何をおっしゃっているのか。」
すると、13歳くらいの少年が目の前に座る。
「よぉ、おらはパゴン。」
「ん?僕は、ユラだよ。でっ、どうしたの?」
「知ってるか?カリオス様、結婚の話が今すごいらしいぜ。本人は、嫌がってるみたいだけどお家の方が無理矢理に進めてるらしい。カリオス様が、お家を捨てて長くたつのに今更でしゃばって何を考えてるのやら。なぁ、お前さんはどう思うよ?」
ユラは、運ばれた紅茶を飲み真剣に言う。
「僕に、貴族のあれやこれやは分からない。けど、かんがえられるのは3つかな。1つは、自分より功績を上げたカリオス様を疎ましいと思っての行動。まぁ、この中には政略結婚も含まれて家からすれば得するようになってたりするかも。2つは、カリオスを殺すため。3つは、寝返りの生け贄かな。あの家は、王家裏切りの過去があるからね。」
「お前さん、おらより詳しいのな。」
ユラは、苦笑して秘密のジェスチャーをする。
「わかった、深くは追及しないよ。」
「ありがとう……。」
すると、話を聞いてたおかまさんが言う。
「私は、リエール・ケスメルよ。」
「どうも、ユラです。さて、そろそろギルドに行こうかな。クッキー、美味しかったです。」
立ち上がり、ニコッと笑って言う。
「あら、貴方のランクは?」
「一応、Aランク冒険者ですけど。」
すると、リエールは壁に掛けられた鈴を手に取る。そして、その鈴をユラに渡す。
「これは、冒険者の安全を守るお守りよ。」
「えっ、あの……。」
「良いから、貰ってちょーだい。貴方は、まだ冒険の途中でしょ?だから、若い貴方にあげるわぁ。」
ユラは、少し迷って受け取る事にした。
「ありがとうございます。」
この鈴が、何を意味するのかを知らずに………。パゴンは、驚いて目を丸くして見守っている。リエールは、パゴンに内緒とばかりにウインクする。
さてさて、依頼ボードを見て考える。コリアは、ユラの腰に鈴がついてるのを見て納得する。
すると、気配を消して女性がユラに近づいてくる。
ユラは、言葉が届く範囲に女性が来ると振り向く事なく言葉を放つ。その声に、緊張は無い。
「僕に、何かご用件ですか?」
すると、女性は驚いてから笑う。
「私は、アリス・マヤルーン。商人をしてるわ。」
「そのわりに、かなりの凄腕の動きですよね?」
振り向くと、暢気に笑ってまた依頼ボードを見る。
「ねぇ、貴方は何て名前なの?」
「あっ、すみません。私は、ユラと言います。」
ふーん、敬語をペラペラと言うことは育ちは良いのね。すぐに、謝る姿勢も嫌いではないわ。それに、あの鈴はリエールの。面白いわ、彼を今回は指名依頼をしてみようかしら?うん、そうしましょう。
「ねぇ、貴方に指名依頼を出して良いかしら?」
「それは、内容と報酬しだいですね。」
うん、正解。無条件に、了承すれば割りに合わない仕事を押し付けられるしね。さすが、Aランクね。
「内容は、商人の護衛よ。隣国まで、紅茶を売りに行く予定なのよ。報酬は、金貨13枚ね。」
「多すぎです。せめて、金貨5枚に押さえてください。金で雇った、冒険者に限って裏切る時は早いですからね。まぁ、言うまでも無いと思いますが。」
真剣に、此方を気づかうように言う。あら、黙ってれば貰えたのに。でも、1つだけ分かったわ。この子なら、命を預けても構わないと思える。
依頼者を思い、注意して安全な人選を誘導させる話し方は間違いなく優秀だわ。話術は、完璧ね。
「依頼は引き受けますが、詳細はどうしますか?」
「そうね、暫くは商品の仕入れで動かないわ。そうね、2週間後はどうかしら?貴方も、長期休みに入るし良いでしょ?場所は、ここに6時の鐘がなる頃に来てちょうだい。じゃあ、指名依頼を出してくるわね。後から、断ったら駄目だからね?」
そう言うと、アリスは鈴を鞄から出す。
「これは、魔除けの鈴よ。その鈴と、一緒につけといてね。その鈴は、使用者の強さによって効果の強弱が変わるから外しちゃ駄目だからね?」
そう言うと、手を振って受け付けに向かった。
「これって、偶然なのかな?」
ユラは、ポツリと呟くとギルドを出てカリオスに暫く国を出るため一言を言うために王宮へ向かう。
魔法騎士団団長室……
「だから!僕は、結婚はしないってば!」
カリオスは、珍しく声を荒げていた。目の前には、執事服の男が立っている。クルトは、無言で紅茶を飲み他の騎士団長は静かに見ている。
「ですが、ヘボーヌ女王は本気ですよ。」
「知るか!だいたい、化け物だと僕を追い出しておいて価値が出たら道具として使うのかい?余りに、自分勝手すぎる!失せろ、二度と来るな!」
カリオスは、怒りに息を荒げている。
「カリオス、はい紅茶。」
ユラは、暢気に紅茶をいれて置く。
「うぇっ!?ごっ、ごめん気付かなかった。」
ユラは、優しく笑うと言う。
「カリオス、まずは深呼吸して落ち着きなよ。」
「え?」
「魔力のコントロールが、甘くなってる。シアンさんが、少し苦しそうだから押さえて。」
「あっ、ごめんシアン!」
深呼吸をして、紅茶を飲みホッと息をつく。
「もう、大丈夫そうだね。」
「うん、ありがとうユラ。」
カリオスは、苦笑して疲れたように目を閉じる。
「ヘボーヌ女王か、悪い噂しか聞かないんだよね。顔はオークのように醜く、肥えていて執念深く自分の為なら手段を選ばない悪女。金持ちだけど、その金も後ろめたい金だしね。以前、竜の卵を密猟しようとして竜王が激怒した記憶が新しいかな。」
すると、ユラに視線が集まる。
「それは、本当なの?」
「うん。密猟された、卵8個を高値で取引しようとしたけど。けど、6個は守れたけど2つは……。」
悲しい表情で、俯いて黙り込んでしまう。
『二つは、卵の中で死んでおった。寒さで、殻を破る体力を奪われて殻を破れんかったのだ。』
竜王は、ユラの影から告げる。
「まぁ、結婚する気は無いし良いよ。」
「…………。カリオス、2週間後に依頼で北の隣国ブスデスクに行かないといけない。」
すると、カリオスは驚いてから言う。
「その依頼は、断れないの?」
「うん、断れない。」
「そう、なら早く何とかしないとね。」
カリオスは、辛そうに呟く。
「その前に、君にちゃんとした生活を叩き込む方が先かな。カリオス、ちゃんと寝てないでしょ。」
「坊主、もっと言ってやれ!」
シアンは、心から言う。
「え?」
「カリオス、今すぐ寝てきなさい!」
「でっ、でも……まだ仕事が……。」
「カリオス……。」
ユラは、声を少し低くして言う。
「はい!わっ、分かったから。」
ため息をついて、騎士団長達を見て言う。
「この書類は、僕が見ても大丈夫ですか?」
「ん?国家機密も、少し入ってるけど君なら見ても構わないよ。もしかして、やるの?」
ユラは、頷くと筆をスラスラと動かす。
「よっ、読む速度が早い。」
「もしや、前世では書類仕事を?」
ユラは、書類に目を通しながら言う。
「まぁ、管理や書類チェックも仕事でしたから。」
そう言いながら、ペラペラと確認して別の束を確認していく。ん?ここの数字は……
「ユリスさん、ここの数字はおかしいので確認をお願いします。他も、見つけたら印を付けときます。それと、レオさんはこの経費は本当に必要か話し合ってください。魔法騎士団と、合同と書いてありますがお金の数値が高すぎるので。僕も、後でカリオスに聞いて見ます。余分な経費は、削減して来年に繰り越せば良いことですしね。さて、あらかた終わったかな?あと少しだし、素早く終わらせよう。」
「ユラ君、いっそうの事さ騎士団長にならない?」
ユラは、キョトンとして笑う。
「僕は、自由奔放だから窮屈になると死んでしまいます。だから、無理だと諦めてください。」
そう言って、最後の書類を机に置くのであった。




