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【第4話】猫のような大天使

カーテンの隙間から初夏の眩しい日差しが差し込む。

僕の平和ないつもの朝だ。


「ふぁぁ~…ねむい…」


そろそろ起きる時間にも関わらず目を開けることができないのは、日差しが眩しいだけではない。

昨晩はほとんど寝る時間がなかったため、強烈な睡魔あくまが僕を襲う。

神様がいるなら、悪魔がいても不思議じゃないのかもしれない…。

こんなことを考えてしまうのも、やはり昨晩の非日常的な出来事のせいに違いない。


でも昨日のことは本当に現実だったのかな…。

一度眠りにつくと、すべて夢の中の出来事だったのではないか、と思えてくる。


僕は朝からそんな意味のない思考を巡らせつつ、ゆっくりと眼を開けると、そこには見慣れぬ金色なにかが広がっていた。


「うああ!?」


僕は驚愕し、ベッドのヘッドボードに勢いよく頭をぶつけた。


「いっつぅ…」


頭を両手で抑え痛みに悶えつつも、ベッドから急いで降りた。


「おはよう…れーた」


白にも見える美しい金髪の少女がむくりと起き上がり、目をこすりながらそう言った。


「…エール!?なんで僕のベッドにいるの!?」


『エール』それが昨夜出会った神様を名乗るこの少女の名前だ。


「れーたが昨日…よかったらうちにって」


確かに言った。

寝床に困ってるんじゃないかと思い、咄嗟に出た言葉だった。


「でも『気が向いたらね』って言ってどこか行っちゃったじゃないか!」


「気が向いたの」


僕はさらに頭を抱えた。


「家に来るのはいいけど…なんで僕の隣で寝てるの!?」


「気持ちよさそうだったから」


「ちょっと理由!僕だって健全な男子高生なんだからね!?」


僕は力強くそう叫んだ。

そんなやりとりをしていると、部屋の外から声が聞こえてきた。


「ちょっと怜太、朝から何をバタバタして―――」


「…!?あ、母さ…待っ―――!」


扉に駆けつけるも間に合わず、ガチャリと部屋の扉が開くと、母さんはエールを見て口を開けたまま硬直していた。

一方のエールといえば、特に驚く様子もなく、きょとんとしていた。


「…」


僕は言い訳しようのないこの状況に言葉も出ず、俯いた。

母さんは僕の方に目をやり、手を口元に持っていくと、にんまりと笑った。


「ごゆっくり~」


そう言って扉をぱたりと閉めた。


「…ん…ぐ……最悪だ…………」



「うるさい奴だなぁ」


エールのかぶるブランケットの中から、新しい声が聞こえてきた。


もそもそとピンク色のなにかが現れ、エールの身体を登り、肩に乗った。

それはピンク色の毛をした、耳の長い猫のような生き物だった。


「ゆっくりと眠れないじゃないか」


謎の生き物は後ろ足で耳を掻きながらそう言った。


「ね、猫…?」


「猫じゃなーーい!!」


キシャー、とエールの肩から毛を逆立て威嚇してくる。


「僕はエール様の御言葉みことばを人間共に伝える大天使ジブリール様だぞっ!」


「ジブ、怒らないの」


エールはジブリールの背中を撫でながら、なだめた。


「ご、ごめんなさいぃ…」


ジブリールは身体を伏せて萎縮した。


「大天使?猫なのに…?」


僕は唖然とした顔で、ジブリールに向けて指を差し、そう言った。


「猫って言うなーー!!」


ジブリールはエールの肩から飛び、僕の指に思い切り噛み付いた。


「痛ああああああ!!」


ジブリールを振い落そうと腕を振り回したが、噛みつかれた指から離れる様子は全くなかった。


「ごめん!僕が悪かった!悪かったって!!」


僕が必死にそう言うと、ベッドの上に飛び乗り、ふふんと満足げな顔をしていた。


「分かればいいんだっ」


「それで君は一体何者なんだい…?」


「さっきも言ったぞ!!」


ぷいっとジブリールは顔を背けた。


「えーと、エールの言葉を伝える…役だっけ?」


「そうさ、他の神殺し(ゴッドスレイヤー)達に色々教えてあげてるのも僕ってわけさ」


「あれ、僕には昨日なんの説明もなかったけど…」


「覚醒してすぐ戦闘するバカなんてお前くらいだよ!僕だって忙しいんだ!」


あはは、と僕は苦笑いをしながら頭を掻いた。


「じゃぁ見てやるからちょっと神力しんりきを解放してみてよ」


神力しんりきを解放?」


「なんだ~?昨日のはたまたまただったってことか~?」


「昨日って、君も見てたの?」


あたかも昨日の出来事を見ていたように話すジブリールに疑問を感じ、そう聞いた。


「僕は共感覚でエール様の感じたものを離れていても感じることができるんだ。まぁ昨日のお前の凄まじい神力しんりきは共感覚じゃなくても感じ取れるレベルだったけどな」


「僕ってそんなすごい神殺し(ゴッドスレイヤー)なの…?」


「調子乗んなー!ちょ~っとエール様が特別扱いしてるからっていい気になるんじゃねーー!」


「特別扱い…されてるのか」


僕はエールを一瞥すると、目が合ってしまい、照れくさくなって下を向いた。

エールはそれを見て不思議そうに首を傾げた。


「あーもう!いいから神力しんりきを解放しろよ!」


神力しんりき…解放…」


僕は分からないながらも、眼を瞑り、精神を集中させた。

しばらく沈黙が流れる。


「なにやってんだ?」


神力しんりき…解放…だけど…」


「へたっぴだなぁ。いいか」


そう言うと、ジブリールはベッドから身軽に僕の肩に飛び乗った。


「躰の中心に向かって、ゆっくりと螺旋状に力が集まってくるのを感じるんだ」


僕は言われた通り、螺旋状に力を集めるイメージをした。


「躰の芯が熱くなってくるのを感じるだろ~?それが神力さ」


「いや、全然…」


「へたくそか!」


「昨晩はうまくできたのになぁ」


と鼻を掻きながらジブリールを見ていると、後ろの目覚まし時計が横目に入った。


「うおおあああ!?学校!学校!!」


僕は急いで身支度をし、部屋を出た。



「騒がしいやつだなぁ」


「がっこうってなに?ジブ」


「人間達が教育を受けるところですよ、エール様」


「がっこう…」


エールは下を向いて、そう呟いた。


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