prologue
自室の窓から覗く満月をふと見ながら、僕は思うのだ。みんなに秘めてるコトって、誰もが必ず一つは持っているのだろう、と。それを、僕には思い当たるもので一つ持っている。それは、日曜の夜に、自室のネットブックで気まぐれに、つまみ食い的に書きたい小説を書くという趣味だ。ただし、それによって生成されるドキュメントはあくまで、個人のメモリにだけ保存しておく「自己満足」であって、決してネットで共有したりはしないし、友達に無理やり読ませて感想を求めるようなものでもない。つまり、単なる誰にも干渉されない自分だけの空間が欲しいというだけだ。
ある休日の夜11時、僕は自室の机上にて、父親譲りの15年近く型落ちしているネットブックを使い、例によって執筆の作業に覆われていた。ドアにかかっている日めくりカレンダー「念のため」確認すると、示していたのは2011年の7月17日であった(理由が有るが、読者諸君には後に説明する)。
ところで、最近になって毎回このひとときを邪魔してくる者がいる。そいつはペンたてぐらいの身長で、見た目は15歳ぐらい(顔は割と美人な方、かな?)で、蛍光色の緑の束ねてない長い髪、そして変わってると思うが白っぽい黄色のスカーフのようなもので肩より下の身体をまとっている少女だった。(筋金入りのロリコンはこういうのを好むかもしれないけど僕は一切違う。)背中についている小さい羽根で僕の周りを飛び回っては、自分のことを「妖精」だと詠っている。彼女自身がそれしか言わないので、僕はこいつを一応「妖精」として認識しているが、見た目はそれっぽくても、どうにも腑に落ちないでいるのだ。
「ねぇミマ君、ちょっとくらい何してるのか私に教えてよー」
半透明より少し濃い色で浮かぶ小さい妖精はしつこく、僕の鼻先の上に乗って視界を埋め尽くして、忙しくキーを打っている僕にせがんできた。あいにくこの妖精とやらは日本語が読めないらしい。実際、僕は官能小説を書いているわけではなかったとはいえ、書いたものを人に知られるのは本当に不愉快に思う体質だった。また、必要以上に馴れ馴れしくしてくるような奴を、僕は昔から苦手としていた。僕は、この妖精のことを「中身は本当に可愛くない奴」だと思い、そしてより一層彼女に対する謎が深まっていくのだった。
僕はあえて冷たく応えるのだった。
「悪いけどおとなしくなしくしとけよ。執拗に自分に付け込まれるの、おまえも嫌いだろ。」
彼女は言った。
「おまえって呼ぶのやめてよ、ほんと。一緒に暮らす以上、せめてレノってさ、ちゃんと名前で呼んで!他ならぬ私が言うのよ。あっ、そっかミマ君ていかにも、女の子に『下の名前で呼んで!』なんて言われたことなさそーだもんね。そりゃ、そーゆーのやっぱ慣れてないよねー当然。」
この妖精はつくづく癇に障ることを言ってくるのだが、僕はこういうのを無視する術は何年も前に習得済みだ。そして僕は言った。
「あのな、君はいつまで僕の部屋に居候する気?ていうか一緒に暮らすってさ、誰が決めたんだ?勝手に誰かに住み込まれるのが許されるのはSFぐらいだ。あと、これだけは言っとくが、僕はまたあの日みたいな目は本気で見たかぁないから。」
そう、こいつは約2日前、突然僕の前に現れて、勝手に僕をある場所へ『派遣』して、良くも悪くも忘れられない記憶を僕に焼き付けていったのだ。僕が放った言葉に、妖精は気持ちしょぼんとした反応を一瞬見せた数秒後、「きみ冷たいね。思った以上に。」と囁くぐらいの声量でこぼし、部屋の窓から飛んで行ってしまった。どうせ1時間くらいしたら再びこの部屋に帰ってくるだろうな、などと僕は勝手に賭けながら、執筆作業を再開して、打ち始めるのであった。
書き溜めているので、不定期に上げます。どうか長い目で見てやってください(__)!!