白亜幻想
『魔』とは何か。
魔とは人に知覚されながらも近づきがたく、あるいは常世以外に人が求めざる得なくなった何かである。
『魔』という漢字は『鬼』という部首と『麻』という二つの文字から成り立つ。
ここで主となるのは部首である『鬼』である。すなわち『魔』は本来『鬼』の物なのである。
『鬼』とは何か。
鬼とは死者、あるいは失われた魂のことである。
この世には目には見えぬものがある。
霊魂、すなわち魂、人の形をした人の想いである。
人はそれを、『霊』という。
またそれは魂の切り離された、もしくは魂のない肉体も同じである。
しかし、真の鬼とは魂と肉体の区分けが出来なくなってしまった者のことである。
彼らは常世では失われたもの、あるいは無きもの、それが常世ではいかなる手段をもっても手にできぬと知ってしまった時、彼らはそれを求め『鬼』となるのだ。『魔』であればそれを手にできると信じて。
こうして彼らは『魔』を手にし『魔』を行使し、『魔』となりて、常世に『魔』を知覚させるのだ。
その様を、その意思を『鬼』と言わずして何と呼ぶのだ。
―空総一朗 著「異人の書」より―