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事件発生

 ――一ヶ月ほど前。まだ寒いサンフランシスコの郊外にある一軒家で、ふたりの男がパソコンの画面の前にいた。

「――やっぱりかあ!」

 クリス・ハワードは、パソコンの画面に表示されている情報を見て笑顔を見せた。まだ十代後半とも思われる、あどけない笑顔である。

「そうか、ふぅん。オカヤマという都市なんだね。フフ」

 クリスは事前に得ていた情報を元に予測していたが、ハッキングして得た情報と予想以上に近かった事に満足している様子だ。彼は、自分にとっての運命の人を探していた。絶対にいるはず。どこかにいるはず。そう予測して、以前から探していた。

「この子供がそうなのか? お前の探しているというのは。――クリス」

 短めの頭髪を綺麗に撫でつけて、やせ細った男は、その気難しそうな表情を一切変える事なく、ぶっきらぼうに言った。

「ふふふ、そうさ、ジェフ。ボクの愛しい恋人さ」

「はあ? お前、頭がおかしいんじゃないのか。何があってこんなガキを? それにお前……」

「いいんだ。そんな事はなにも問題はないし、どうでもいい事なんだ。フフ……」

 クリスは、画面に映る少女の写真を眺めて微笑した。

 ――そこには<YUI HAYAKAWA>の名前と、病室のベッドの上にいる少女の写真が映っていた。



 アリゾナ州南部にある米軍基地に、深夜、ふたりの男が不法に侵入していた。この基地はミサイルや、爆弾の研究なども行なわれている基地で、警備も厳重だった。都市部から離れた荒野にあって、一般的にはほとんど知られていない。

「……おい、本当に大丈夫なのかよ?」

 ふたり組の男の片方が、不安そうに相棒に尋ねた。

「大丈夫なはずだぜ。すでに手はずは整っている」

「で、でもなあ……」

「大丈夫だって。こんだけの基地に、俺達は苦もなく侵入できてんだぜ? 普通なら近づく事も出来ねえよ」

 相棒は、事前の打ち合わせ通りに事が進んでいる事を満足そうに言った。事実、この基地はとても警備が厳重で、このふたりが基地内に潜入できたのも、普通に考えて奇跡と言っていい。

 これはうまくいっている証拠だった。

「まあ、そりゃあそうだけどよ……」

 このふたりは、ある国際テロ組織のナンバー2という、トニーと名乗る男から依頼を受けていた。ベルリンで爆弾テロを起こす為に、ある基地から爆弾を盗み出す実行役を依頼された。

 要するに、ふたりはそのテロ組織に雇われた、下っ端だった。

 ふたりで大きい事をやろうと、田舎からロサンゼルスまで出てきて、様々な仕事をやるがうまくいかず、職を転々とした。そのうち、まともに働く気も失せて、空き巣や窃盗で日銭を稼いでいた。もう数回逮捕歴がある。

 今回のこの仕事は、自分達がそれまでやってきた窃盗程度の犯罪とはスケールの違うもので、正直なところ、ふたりは話を聞かされて震えが止まらなかった。

 しかし、この仕事の報酬はとてつもない金額だった。

 ――二百万ドル。貧しい中で生きてきたふたりには、一体どのくらいの金額なのか想像もつかない。最初は怪しいとも思った。しかし、最近まったくうまくいっていないふたりには、背に腹を変えられなかった。

 それに段取りはすべて組織がやるという。ふたりのバックアップなども組織がやって、実際に盗み出すという部分だけを、このふたりがするという手はずだ。

 結局、ふたりはこの仕事を引き受けた。


 先ほど、組織の手はずで基地内に難なく侵入したふたりは、地図に従って爆弾のある建物まで計画通りの経路で進んでいく。基地内はとても広いが、目的の場所はすでにわかっている。

 緊張感で心臓の鼓動が早くなる。正直逃げたしたい気分でもあった。そんな気分を振り払うかの様に必死になって走った。所々で見かけた武装した兵士に見つかってしまえば、そのまま有無を言わさず射殺されても文句は言えない。額に汗が滲んだ。

 爆弾のある建物の前にやってきた。ここまできたら後もう少しである。逃走も大変ではあるが、安全なルートがあるらしく、ここまでが大変だったのだ。

「——よし、この反対側の通用口から侵入だ」

 地図で確認すると、ここで間違いがない。まるで基地の方が、ふたりに爆弾を盗ませる様に誘導してくれているかの様だった。

「お、おう」

 ふたりは地図を確認したのち、やはり予定の経路通りに建物を回り込んで、目的の通用口を見つけた。


「――動くな!」

 ふいにその言葉が聞こえた途端、ふたりは突然の強烈な照明に照らされた。腕で顔を覆い光から逃れようとするが、同時に絶望が頭の中を駆け巡った。

 自分達の目の前には、ふたりにとって最悪の状態だった。見つかったのだ。あれだけうまくいっていたというのに。

 世の中……うまい話など、なにもないという事なのか。

 ――ああ、映画でこう言う場面は見た事がある……そう思った次の瞬間、数人の武装した兵士に組み伏せられ、なんら抵抗する間もなく簡単に逮捕された。恐怖の色に染まったふたりの顔は、もう抵抗する気力がまったく残っていない事を示していた。

 ふたりの前に綺麗なスーツ姿の男が立っている。ふたりを見下したまま口を開いた。

「CIAだ。後でじっくり話を聞かせてもらう。――連れて行け」

 なす術もなく連れて行かれるふたりの男。CIAの捜査官は、携帯電話を取り出すと、どこかに電話をした。

「……爆弾の強奪犯を逮捕した。これから連れて帰る」



 ……騒動の基地近くの荒野にて、あまり近づきたくない様な、強面の男が数人いる。

「——ジャック。あのふたり、計画通り逮捕されたみたいだな」

「ああ、予定通りだ。まだまだこれからが本番だ。ふふ、面白くなるぜ」

 ジャックは基地の方を見ながらニヤニヤしていた。ポケットに手を突っ込むと、スマートフォンを取り出し、電話をかけた。

「俺だ。ジャックだ。まず第一段階は予定通り事が終わった。次だ」

『――ああ、こちらも問題ない。予定通りに進んでいる』

「よし。俺達は早速第二段階に入る」

『――了解』

 ジャックは電話をきった。そして、仲間から少し離れたところまでやってくると、またすぐに電話をかけた。今度は先ほどとは別の相手の様だった。

「……おい。そっちは大丈夫なんだろうな?」

『手筈通りに進んでいる』

「……頼むぜ、これが成功してくれなきゃあ、俺は破滅だ」

『俺に失敗はない。そっちこそ大丈夫だろうな』

「ああ、大丈夫だ。あんたの出番はまだだが、期待しているぜ。また連絡する」

 ジャックが電話を切ると同時に、仲間が呼んだ。

「……おい、何してんだ。行くぜ」

「ああ、今行く」

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