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強襲

 気づかれない様に扉の向こうに侵入した早紀は、この部屋の奥に大勢の人間がいるの見た。あまり明るくはないが、照明がつけられている。人数は十数人いる様だ。

 その中には……クリスとジャックがいる。そして……その背後には由衣がいた。

 とりあえず状況を確認した。

 由衣とクリス、ジャックの三人以外は全てジャックの手下の様だ。拳銃なり、ナイフなりで、全員何かしらの武装をしている。

 周囲は機械やらの設備関係や、机やロッカーの様なものなどがあちこちに散乱している。割と隠れる場所が多い。

 早紀は、さらに近づいてみる。大きめの機械の影に体を潜めて、何を話しているのか、聞こうとした。

 そうしていると、ジャックがクリスに銃口を突きつけた。しかし、まだ撃とうとはしていない。相変わらず何かを話しているが、よく聞こえなかった。

 そうしていると、ジャックが銃をしまった。どういう理由かは不明だが、代わりに別の男がクリスに銃を向けた。



「——クリス、何がしてえのか知らねえけどよ。お前のその自信は気になる」

 ジャックはそう言って、自分の銃をしまって、後ろに縛り付けていた由衣のところにいった。そしてナイフで由衣を縛っていた紐を切ると、由衣の腕を強引に引っ張って、クリスのそばに連れてきた。

「な、なんなの?」

 由衣は少し不安を感じた。ジャックはそれを無視した。

「クリス、お前が大層ご執心のこのガキをまずは殺してやろうか? ……お前の絶望的な顔ってどんなだろうなあ?」

 ジャックはニヤニヤとやらしい笑顔を浮かべた。

「……ユイ」

 クリスはそうひと言だけ言うと、ジャックを見た。

「もう一度だけ言う。できるものならやればいい。――そうできるものならね」



 ――これ以上は危険だわ。

 おぼろげながら、クリスとジャックの会話内容を理解した早紀は、本当に撃つ可能性があると判断し、行動に出た。

 早紀は、敵から奪ったサプレッサー付きのグロッグ17で狙いを定めると、クリスに銃口を突きつけている敵を射撃した。

 右肩を撃ち抜かれ、拳銃を落として膝をついた。うずくまる男を見て、ジャックやその手下達が、男を一斉に見た。

「おい! どうした?」

「誰だ!」

 早紀はすぐに二発目、三発目を撃った。すぐにひとり、またひとりと倒れていく。この薄暗い工場建屋の中、早紀の射撃は性格だった。一発撃つと、ひとりの敵が倒れた。

「ち、ちくしょう!」

 男が慌てふためいて、あちこちに向かって拳銃を撃った。

 ――このままじゃ、危ない!

「伏せなさい!」

 早紀は、正面にいたクリスに向かって叫ぶと、そこを飛び出した。すぐに構えた銃を撃つ。胸を打たれた男は、すぐにフロアへ体を横たえる事になった。

「……怖いねえ」

 クリスは体を伏せたまま、頭を抱えて呟いた。

「早紀!」

 由衣が叫んだ。早紀は由衣の方を見ると、ジャックに拘束されたまま、建屋の奥に向かっている。

 十数人いたと思われるジャックの手下はもう二、三人しかいない。

「ち、ちくしょう! どうなってやがるんだ! クソッ!」

 ジャックは焦りと、厳しい状況に顔をこわばらせ、叫んだ。

「ジャック! こっちから出よう」

 仲間が部屋の隅にあるドアを指して言った。ここから外に出られる。

 しかし次の瞬間、その仲間は膝をついて倒れ、そのまま崩れさった。側頭部から血が流れ出していた。撃たれたのだ。

「て、てめえはっ! なんなんだ!」

 ジャックはもう涙目だった。手に持った拳銃をあちこちに乱射した。しかし、襲い掛かってくる敵を撃ち抜く事は叶わず、拳銃のスライドは後退したままロックされた。どうやら弾切れの様だ。

「クソッ! クソッ!」

 焦ってしまい、もうわけがわからなくなっていた。目の前に早紀が現れる。そのまま、顔面を殴打されると、その衝撃に由衣を手放してしまった。

 早紀は由衣を抱きとめた。

「由衣!」

「早紀!」

 ふたりはお互いの手を握りしめ、無事を確かめ合った。嬉しさにふたりとも笑顔になった。

 ジャックはそのまま、とにかく逃げ出そうとした。が、足元の突起につまずいて転倒した。慌てて起き上がろうとしたが、そこに早紀が立ちはだかった。

「もう終わりよ。おとなしくしなさい」

 早紀は静かに宣告した。

 ――何もかも失った。どうしてこうなってしまったんだ! ジャックは心の中で叫んだ。

 ――あの、早紀とかいう女は強い。とてもかなわない。どうして……どうして俺はこんなところにまでやってきて、何をやってたんだ。

 ジャックは調子に乗って、わざわざ日本にやってきたのを後悔していた。

 

 ——ジャックはもともと、反政府の小さな犯罪者集団のボスでしかなかった。それが、ごく小規模のテロ事件を何度かやって調子にのると、大きい事がしたくなった。

 そして大規模なテロを計画した途端、危機に直面した。ジョージ・ブライアン率いる「反アメリカ同盟」が約三年前に計画していた、カリフォルニアでの爆弾テロの首謀者と誤認され、FBIに逮捕されたのだ。

 厳しい取り調べの中、去年ようやく「反アメリカ同盟」が首謀者だと判明し、ジャックは無関係として釈放された。実はこれは「反アメリカ同盟」による策略だと後で知った。これを聞いたジャックは、相当に恨みを募らせていた。

 そんな時に現れたのがクリス・ハワードだった。彼はジャックには到底考えも及ばないほどの頭脳の持ち主で、銀行強盗など幾つかの犯罪計画をクリスの計画に沿って実行したところ、どれも完璧に成功して現在でも未解決だ。

 正直なところ怖いくらいだった。そうした中、クリスが突如として提案したのが、今回のテロ計画だった。

 中性子爆弾を奪って、どこかの都市で使うという、そのテロ計画は、かなり大掛かりで危険のともなう計画だった。ジャックはこれをいざ実行に移す際、密かに震えが止まらなかったという。

 だが――計画はあまりにも完璧で、全てが全てがうまく進んでいた。しかし……ジャックはクリスが疎ましかった。理由は簡単だ。あらゆる計画が成功しているクリスは組織の者達にとっては頼もしい存在だからだ。

 しかし、この組織のボスは自分なのだ。いくらクリスが優れているとはいえ、奴に指図されるのは気に入らない。ジャックは密かに、クリスには秘密にして自分に従う連中を使って、別の計画も進行させていた。これは、今回の計画の最中にクリスを殺して、すべての責任をクリスに負わせる為のものだった。

 クリスは会いたい人物がいると言い、日本に向かった。そしてテロ計画を進めつつ、ジャック自身も日本にやってきて、この日本で殺害するつもりだった。その為に、クリスが会うつもりの女性、由衣を拉致して、いざというときには由衣を人質に殺そうとしていた。


 ……だが、それも失敗した。

 ジャックの額を汗が伝う。どうしたらいいんだ? どうやったらこの場からにげられるんだ? そんな事を必死で考えた。

 ——しかし何をするにも、あの女——早紀とかいう女が強すぎる。どうにもならない。

 ジャックは、両手を広げて天を仰いだ。そして、大声で笑い出した。狂った様に笑い続けるジャック。打つ手も全て失って、とうとう気が触れたか……。由衣達がそう考えた時、突然ジャックは真顔になった。

 そして大声で叫んだ。

「――て、てめえらっ! みんな道連れだ!」

 ジャックは何やら言っている。

「こいつを見ろ!」

 そう言って、上着のボケットから、小さなスプレー缶の様な金属製の物体を取り出した。

「あれは?」

 由衣は、それを見て言った。嫌な予感がした。

「あれは……まさか小型の爆弾?」

 早紀が言った。

「そうだ! でもこいつはタダの爆弾じゃねえ。中性子爆弾だ!」

「ええ! あんなに小型なの?」

 由衣は驚いた。

「……いや、あれは中性子爆弾と言っても、少し違う」

 クリスは言った。

「どういう事?」

 早紀がクリスを見て言った。

「あれは爆発はしないんだ。ただ中性子を直径十キロ範囲に撒き散らすだけの……そう中性子拡散装置と言ったところかな」

 近年、アメリカにて開発されたものだ。通常の中性子爆弾と違って爆発はしない。運搬生の良い小型の本体と、建物などを一切破壊せずに敵だけを殺す事ができる為、作戦によっては有効だとされ開発されたが、コストが問題で結局は試作で終わったものだった。

「そ、そんなものが……」

「そうだ! てめえらだけじゃねえ、ここいらに住んでいる人間まで道連れにしてやる!」

 しかし、クリスはジャックを見て微笑すると言い放った。

「フフフ、そんな事をしても無駄だよ――ジャック」

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