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危機再び

「その子を放しなさい」

 そう言って現れたのは、美しく長い黒髪に、わずかな憂いの表情を見せる端麗な美女――白鳥早紀だった。

 昼間、穏やかで優しい眼差しの、その瞳は、由衣を取り囲む不審な男達を睨んでいた。一歩、また一歩とゆっくり男達に近づいていく。

「さ、早紀!」

 由衣は早紀の登場に驚く。

『何だお前は?』

 怖い顔つきの男が言った。そして、ニヤニヤしながら、早紀の顔を下品な目つきで見下した。

『――よう、姉ちゃん。見なかった事にして、さっさと消えな。さもないと綺麗な顔が台無しになるぜ……』

 そこまで言った時、早紀は素早く男に組みかかり、凄まじい早業で投げ飛ばした。

 男は訳が分からず、されるがままに投げ飛ばされて地面に叩きつけられた。早紀は、そのまま地面に転がる男の腹に肘を叩き込んだ。男はうめき声をあげると白目をむいて倒れた。 

 誰も動けず、まさに一瞬の出来事だった。

『――てっ、てめえ!』

 すぐ隣にいた牛の様な屈強な男が、怒り狂って突進してきた。

 しかし、険しい表情の早紀は、軽々とかわして後頭部を殴りつけて気絶させた。男はほとんど何もできずに、あっさりと倒れこんだ。そうして、あっという間にふたりの暴漢が地面に横たわる。

 残っているあとふたりの男は、あまりの事に動揺した。

『な、なんだ! この女!』

 うちひとりが拳銃を取り出した。『ぶっ殺してやる!』と、叫んで拳銃を早紀に向けようとすると、その隙に早紀も腰の拳銃を取り出し、男がトリガーを引くより先に撃った。銃声が響く。

「さ、早紀!」

 由衣はあまりの事に、思わず叫んだ。早紀が拳銃を持っていた。しかも、何のためらいもなく撃った……。

 男の右腕に当たり、男は撃つことなく拳銃を落とした。激痛で叫び声をあげる男。そのままうずくまって撃たれた箇所を押さえていた。

 早紀はすぐさま由衣達の方を見ると、由衣を羽交い締めにしている、もうひとりの男に飛びかかり、拳銃のグリップのところで男の頬を殴った。

「ぐ、あ……」

 対抗する間もなく、思い切り殴られた。由衣から無理矢理引きはがされた様になって、数メートル吹き飛んだ。近くの電柱に背中をぶつけて、顔を歪めた。

「由衣!」

 早紀は由衣を抱きとめて、由衣に声をかけた。

『て、てめえ……クソ! に、にげろ!』

 由衣を襲った男達は、慌てて走り去っていった。倒れていた男達も一緒に連れられていった。

 そして、その場に静寂が訪れた。

「由衣! 大丈夫!」

 早紀は再び声をかけた。

「早紀……うん、大丈夫、怪我もないし」

「よかった……」

 早紀は安堵する。

「でも……早紀、さっきのは……なんなの?」

「私にはわからない……どうして由衣を」

 早紀にはまったくの不明であった。どういう意味があっての事が検討もつかない。

「そういえば……早紀、さっき撃ったよね。あれはどういう事なの? 早紀はどうしてそんなものを……」

 由衣は、早紀に対して疑問の目を向けた。先日の件もあって、様々な事に疑心暗鬼になっている部分もある。

 ただ、先ほどの出来事を目の当たりにするに、一般人ではないのは間違いなかった。

「そ、それは……」

「早紀。――早紀っていったい何者? 早紀……わたしは信じられない。本物の銃なんて持っているって、どう考えても普通じゃない。ここ、日本なんだけど」

「ゆ、由衣……」

 早紀は悲しそうな目で、どにか弁明しようとするが、言葉が見つからない。

「――早紀、ごめん。わたし帰る」

「由衣、待って!」

 由衣は構わず、そのまま走り去ってしまった。

「由衣……」

 早紀はしばらく苦悩の表情のまま、その場に立ち尽くしていた。



 由衣は自宅に戻るとソファに座り込み、先ほどの事を考えた。

 ――あれはどう考えても普通じゃない。明らかにわたしを拉致しようとしていた。四人いたが、全員日本人には見えなかった。それに英語を喋っていた。前の、あの怖い男と関係が? あの男の手下達だとかいう可能性もある。

 不明な部分がかなり多いが、とりあえず確実なのは、奴らは一般人ではないという事と、もし拉致されたら不幸な運命が待っているだろうという事だ。

 なぜなのかは不明だが、厄介な連中に目をつけられたのは困った事態だと思った。

 そして、今度は早紀の事について考えた。

 ――それに、早紀もおかしい。普通は拳銃なんて持っていない。そもそも日本では所持しているだけで逮捕されるのに。どうしてそんなものを持っていたのか。そしてためらいもなく発砲している。撃つ事に慣れている様にも感じた。

 ――わたしを助けてくれたのはわかる。それはわかるけど……やはり、まだ不信感はぬぐえない。


 しばらくの間、様々に考えてみたものの、一向に結論は出ないので、風呂に入って寝る事にした。


 脱衣所できていた服を脱ぐ。洗濯カゴに脱いだものを放り込んで全裸になると、バスルームに入った。が、ゆっくりとドアを開け、そっと中を覗き込む。別にこんなところに誰かが潜んでいるわけはない、と思いつつも、心の底ではもしかしたら……なんて考えてしまって、思わず警戒してしまう。もっとも、武器も何も持ってない全裸なのだから、何かあっても対応のしようがないわけなのだが。

 とりあえず、今はシャワーだけにしてすぐに出た。


 下着とTシャツを着ると、バスタオルで髪を拭きながら、リビングに戻ってきた。そういえば、警察には通報しとかないとまずいだろうか? と思って一一〇番しようかと考えたが、一一〇番は今まで一度もした事がないので、どういう感じのものなのか不安になって躊躇してしまった。

 やはりこういうものは事前に一度体験しておかないといけないな、と思った。


 その後、ベッドに入ったが、どうも眠れない。どうしたものかと考えた時、つい、もしかしたら再び奴らが襲ってくるかも、と考えてしまった。そう考えると、どうしても気になってくる。よけいに眠れなくなってしまった。

 少し考えた挙句、どうせ眠れないならと、万が一再び襲いかかってきた時に、一時的にでも迎撃……とまで言わなくても、怯ませられるかもしれないので、引き出しからエアガンを出してきた。

 自衛にはならないかもしれないが、本物と間違えて怯むかもしれない。

 由衣は、二丁用意した。昔から持っていた「グロッグ17」と「スミス&ウエッソンM&P9」である。ともに本物はポリマーフレームの自動拳銃である。このおもちゃは、どちらもガス圧でBB弾を飛ばすガスガンだ。

 昔から持っていたのは「グロッグ17」で、「スミス&ウエッソンM&P9」は、ひとり暮らしを始めて、暇つぶしとストレス解消に撃っていたら楽しくなって、見た目のデザインが気に入った為に購入した。しかし、その程度でしか遊んでいない為、いわゆるサバイバルゲームの様な本格的な遊びはしていない。

 両方に弾を詰め込んでガスを注入、スライドを引いていつでも撃てる様にして枕元に置いた。もう一丁は、予備としてリュックの中に入れておいた。

 さらに外にも出られる様にシャツとジーパンを履いて、長いロープを用意した。こんなものを何に使うんだ、と思うかもしれないが、いろいろ考え出すとキリがない。あれもこれもやっておきたくなるのだ。

 由衣はベランダの手すりに、ロープの片側を縛った。いざとなったらロープを下ろして、ベランダから脱出……なんてありえないけど。ここは三階だから、実際ロープで降りるなんて怖すぎる。

 こんな事をして、少しだけ気分が高鳴っている事に気がついた。少しワクワクしてきたのだ。下手をすれば命に関わりかねない事なのに、のんきなものである。

 しかしすぐに冷静になって、こんなものが役に立つ様な事態にだけはならない様に願いたいものだ、と外の街並みを見ながら思った。。

 その後、さらに他にも幾つかできる事をして、ふたたびベッドに入った。電気を消して、本格的に眠る事にした。


 ――三十分くらい経ったころだろうか、不審な物音がした。本格的に眠ろうとしたにもかかわらず、結局寝られない由衣は、物音にすぐに気がついた。

 緊張感が高まり、冷や汗が出た。しかし心は落ち着かせようと深呼吸する。そして、ゆっくりとベッドから出た。その間、おそらく玄関のドアのロックを外そうとしているのだろう、ドアと何かが当たる音が小さく聞こえている。

 由衣は手袋を着けて、ベッドの脇に置いていたリュックをそっと背負うと、枕元のエアガンを持って寝室のドアを静かに開けた。

 そこで玄関のドアの開いた音がした。

 ――ま、まずい!

 慌てて寝室を出たところで、玄関のドアを突破して入ってきた男が見えた。向こうもこちらを見た。完全に男と目が合った。

『いたぞ!』

 アメリカ人だろうか、英語で叫ぶ男。由衣は慌てて、奥のリビングに走った。リビングに入ると、すぐに入り口の脇にあるルームランプのスイッチを入れた。明るくなるリビング。そして、急いでベランダに出る。

 男達がリビングに入ってくると、由衣は男達に向かってエアガンを向けた。そして英語で、『動くな!』と叫んだ。

 本物と思ったのか、すぐに足を止めて手を挙げる男達。由衣はすぐにロープを空に向かって放り出すと、ベランダの手すりにまたがろうとする。

 男達はその隙をついて駆け寄ろうとした。由衣はすかさず男達に向かってエアガンを撃った。実銃とはまったく違う発射音が鳴り響く。しかし慌ててしゃがみこむ男達。だが、すぐにおもちゃだと気がついて近づこうとすると、由衣はさっきまで撃っていたエアガンを思いっきり投げつけた。

 これが運良く片方の男の頭に当たり、当たったところを押さえて何か言っている。

 由衣はその隙をついて、ロープを持って一気に滑りおちた。もう怖いとか言ってられなかった。逃げなくては、という考えが躊躇を無くさせた。

 ロープを握って、すぐに手を緩めて、また握って……あっという間に地上まで降りた。

 最後は尻餅をついたが、立てない事もなくすぐに起き上がって上を見た。三階のベランダから見下ろす男達。すぐに見えなくなった。おそらくすぐに降りてくるだろう。

 由衣はすぐさま駆け出した。

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