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エリスとヴォルフ

「……まさかお前だったとはな。久しぶりだな、エリス」

 ヴォルフは早紀の事をエリスと呼んだ。

「質問に答えなさい、ヴォルフ。どうして……」

 早紀は毅然とした態度でヴォルフに言った。その表情は、普段の温和な表情とは一変して険しく、ヴォルフを睨みつけていた。

「答えて欲しいのは、こっちの方だが……とりあえず、俺の銃を返してくれ。大事な相棒だ」

 ヴォルフが言うと、早紀は、バッグに入れあった、ヴォルフの拳銃「ワルサーP99」を前方のヴォルフに向かって軽く放り投げた。

 ヴォルフはそれを素早くキャッチし、そのまま早紀に銃口を向けた。

「……さすがだな。エリス」

 ヴォルフが向けた銃口の先には、すでに早紀が自分の拳銃を構えて、ヴォルフを狙っていた。ヴォルフは一瞬だけ小さく笑うと、拳銃を下ろしてホルスターに収めた。

「冗談だ。すまん」

 ヴォルフはふたたび少し笑うと、

「……まあ、わかってはいる。弾は全て抜き取ってあるな。そっちも返してくれないか? この国じゃあ弾を手に入れるのも簡単じゃない」

 と言った。

 ヴォルフの言葉に、早紀も拳銃をバッグの中にしまった。そして、今度は弾丸の入った袋を取り出すと、ヴォルフの方へ近づいていった。


「――しかし、どういう事なんだ? まさかお前から邪魔されるとは思わなかった」

 ヴォルフは昼間、自分の任務を本来は仲間のはずの早紀から邪魔された事を非難した。

 ヴォルフは一応、早紀が調査の為にすでに日本に来ていて、その後、そのまま任務解除となり、お役御免となっている事は聞いていた。まさか岡山にいるとは思っていなかった様だ。

「それよりも、由衣を拉致しようとした。どういう事? どうして由衣が」

「どうしても、こうしてもない。テロの首謀者だろうが」

 ヴォルフは、なにを言っているんだ? と言わんばかりに反論した。しかし、任務を解除されてから、情報がはいっていない可能性が高いと考えて、少し納得した。

「どうして? 由衣がテロと関わり合いがあるとは到底思えない」

「そうは言うが、テロの首謀者は『性転換』の<発症者>だと聞いている。あのガキはユイ・ハヤカワというのだろう。ならば間違いない」

「そもそも『性転換』って……一体どういう話になっているの?」

 ヴォルフは、自分の聞いている話を早紀にした。


「中性子爆弾……そんな話になっていたとは……」

 早紀は驚愕した。ここしばらく連絡がない為、状況が全くわかっていなかった。前には<ニュクス>内にて親しい捜査官が、一応情報をくれていた。が、その捜査官も別の事件などで忙しいのか、最近は連絡がなかった。

 ただ、それにしても――由衣がテロの首謀者だというのが、未だに信じられなかった。

「それはそうとして、何かの間違いとしか考えられないわ。由衣は確かに『性転換』の<発症者>かもしれないけど、テロに関わっているのとはとても思えない」

 早紀の見る限り、由衣にはテロを思わせる要素は皆無といってよかった。『性転換』については一応聞いた事があり、知識としては知ってはいたが、まさかそれが由衣の事だとは……しかし、それでテロと関わっているとは到底思えない。だとしても、由衣はあまりにも無警戒すぎた。

「確かに、あまりにも警戒がなさすぎるとは思っていた。あちこちから追われているはずなのにな」

 ヴォルフは早紀の言う事に、それなりの説得力がある事を認めた。

「何かが違う。それは、『性転換』なのか、テロなのか。……ヴォルフ、少し時間が欲しい」

「しかし、一刻を争う様な事態だ」

「もし由衣が違ったら? 結局は同じ事よ」

「確かにそうだが……まあいいだろう。俺ももう一度調べる」

「ええ、お願い。由衣に関しては私の方で証明してみせるわ」



 由衣は昼間の出来事を思い出していた。

 ――あれはいったい……何者だったんだろう。どうしてわたしがあんな目に? でも、あの後いったいどうやって助かったんだろう?

 由衣には謎だらけだった。

 突然、捕まえられて茂みの中へ連れ込まれると、ドイツ語で話しかけられた。そして何かを吹きかけられて、気を失った。それから先は覚えていない。気が付いたら、人気のない建物の陰で横たわっているところを、早紀に介抱されていたのだ。

 早紀に聞いても、あの近くで倒れていたとしか言わない。本当に知らないのかもしれない。

 一応、警察に通報はした。しかし早紀は見ておらず、由衣の言い分でしかない為、警察が本気で捜査なりするかわからない。実際、話を聞いていた警察官も、あまり間に受けた様子ではない様に感じられ、所詮は子供の妄想だと思われているのではないかと予想している。

 それと、あの後、医者に診てもらったが、特に悪いところはなかった。何かのスプレーの様なものをかけられたが、特に健康被害の心配はなさそうだった。

 その後は結局、早紀にマンションまで送ってもらった。それからベッドに寝かせてもらい、水をもらった。しばらくして気分が良くなると、もう大丈夫だから、と早紀に言った。

 今日は泊まると言ったが、昼間、夜に仕事がある事を言っていた為、大丈夫だから、と言って帰ってもらった。

 早紀は最後まで心配そうにしていた。由衣も見た目は子供ではあるけど、実際は大人である。そこまで早紀に甘えるわけにもいかない。

 ――それにしても最初のあの怖い男、かなり危険な雰囲気の男だった。また現れたら……。

 ――しかし、あの男は……いったい何がしたかったのか? 気を失わせておいて、どこかに連れさるでもなく放置。しかも、何をされた風でもない。

 由衣は不思議に思ってあれこれ考えるが、再び恐怖が蘇り、緊張して目が冴えてしまい眠れなくなった。今夜は一晩中起きている羽目になりそうだ。

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