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銀狼

 <ニュクス>の会議室。幹部達が集められ、ある情報について会議を行っていた。

「――それは確かなのか?」

「アパテーのつかんだ情報です。かなり有力な情報筋から出た様です。ほぼ間違いないと見ていいでしょう」

 担当捜査官は、信憑性にかなりの自信を持っている様子だ。アパテーは、例の「反アメリカ同盟」の核爆弾強奪未遂事件の後も、関係する事柄について調査を続けていた。これは、おそらく今後も増えてくるであろう同種の爆弾テロを未然に防ぐ為に、独自に調査を続けさせていたのだ。

「まさかとは思っていたがな」

 幹部のひとりが、神妙な顔つきでつぶやいた。

「次から次へと……どうするつもりだ?」

「しかし……中性子爆弾とは」


 この会議で話し合われているのは、アメリカのどこかにある機密の軍関連施設にて、小型の中性子爆弾が盗まれたという情報だった。

 中性子爆弾、核爆弾の一種である。通常の核爆弾と違い、爆風と熱による破壊力よりも、中性子線の放射割合を高めた爆弾だ。

 その為、物理的な破壊よりも、放射線被曝による生物への殺傷が目的である。都市で爆発させれば、建築物の被害はさほどでもないが、住んでいる市民は被曝によって全滅させられる。

 この中性子爆弾は、小型のスーツケースに収まる程度の大きさにもかかわらず、大都市が丸ごと全滅するくらいの強力なものだった。重量もひとりで持ち運べる程度のものである。


「先日のトリチウムの件……まさか!」

「そのまさかである可能性が高い。中性子爆弾にはトリチウムが必要だからな」

「どこで使うつもりだ? そもそも、どの組織がやったんだ?」

 幹部達は次々に騒ぎ出した。

「……それについても情報が」

「なんだ?」

「どうやら反アメリカ同盟は、前のベルリンの核テロを計画していたとは考えにくいと言う事です」

「どうしてそうなる? 証拠はあったのだろう」

「それが……リーダーのブライアンですが……他殺の疑いです」

 その言葉に幹部全員が驚愕した。

「他殺? 自殺ではなかったのか!」

「その後の調べでは、どうも自殺にしてはおかしいという事が判明しました。現場の状況も調べていくうちに、あちこちに不自然なところが見つかっています。……まるで見つけてくれ、と言わんばかりに」

「馬鹿な。では、もしかして……」

 驚きの表情を隠せない幹部が、その隣の幹部と顔を見合わせて、冷や汗を垂らした。

「ああ。我々の目を欺く為に、別の組織によって濡れ衣を着せられたとみて間違いないだろうな」

「し、信じられん……」

「我々は……まんまと騙されたとでもいうのか?」

「計画はどこまで進んでいる? どこで使うつもりなのか、どの組織だ? 誰が主導しているんだ?」

 幹部のひとりが矢継ぎ早に疑問を口にした。

「まだ不明な点が多すぎる。CIAと協力した方がいい。BNDに連絡をしろ」

「はっ」


 その日の夕方、<ニュクス>の本部にて、ある男が呼ばれていた。

「――よく来てくれた。君の噂はよく聞いている。君ほどの仕事屋はいないという。大したものだな」

 <ニュクス>の幹部は、小綺麗な幹部の個室には場違いな風貌の、目の前の男に無表情のまま言った。

「ふん、光栄だな」

 男は微笑した。

「ヴォルフ……銀狼と恐れられているだけの事はある」

 一九〇センチ前後はあるであろう長身と、しなやかでありながら端正な筋肉。相手を射抜くが如く鋭い目つきと、鮮やかな銀色の頭髪は、まさに銀色の狼というに相応しい容姿だった。

 ヴォルフというのは、ドイツ語での「狼」であり、それをイメージさせる容姿から、そう呼ばれていた。本名はわからない。

 ドイツ並みならずヨーロッパ全域で仕事を受けており、その成功率の高さは驚異的だという。当然、<ニュクス>の<下請け>には属さず、独自に活動していた。

 基本的には、諜報から暗殺までなんでもやるが、特に暗殺を得意とした。ヨーロッパにおいて暗殺者の「狼」といえばヴォルフの事である。それだけ有名であった。

「――要件は?」

 ヴォルフは、相手の褒め言葉など全く意に介さないという風で、ぶっきらぼうに言った。

「……要点だけを言う。詳細は担当の捜査官から聞いてくれ」

 幹部は間をおいて語った。

「日本にテロ組織の首謀者が潜伏しているという。この首謀者を拘束してほしい」

 幹部は相変わらずの無表情である。

「日本……。日本がテロの標的になっているのか?」

「いや、標的はアメリカだ。ワシントンDCだとの情報を掴んでいる。しかし、奴らがどこに潜伏しているのかわからん」

 幹部はヴォルフを見た。

「……しかし、そのテロ組織の首謀者は、どうも日本にいる」

 ヴォルフはそう呟くと、<ニュクス>の幹部を見て、鋭い目が一瞬光った。

「そうだ。なんで日本にいるのかは不明だ。テロとは縁遠い日本は、潜伏しやすいと考えたのかもしれない。が、なんであれ日本から指示を出していたのだろう。彼女を拘束して、何が何でも吐かせる」

「彼女?」

「そうだ。ある筋から得た情報だ。テロの首謀者は『性転換』の<発症者>だと言う。これに該当する人物はただひとり。――日本人の、ユイ・ハヤカワという女性だ」

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