...避けてる
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昼休みが終わり教室に戻ると、入口に淳が立っていた。とても神妙な面持ちで、通行人の妨げになっていることすら気付いていない。
「ちょっとバカ淳、こんな所に立ってちゃ邪魔でしょ」
いつも通りの様子で結衣が声を掛けてやっと、淳は私達の存在に気付き、壁にもたれ掛かっていた体を起こす。
「おい、お前ら...」
と言いながらも視線は私に向けられていて、私は笑顔で頷いた。相当心配してくれていたのか、淳の顔が途端に明るくなる。
「やったじゃねーか、由奈」
そう言って、拳を軽くおでこにぶつけてきた。その様子を結衣と芽衣は訝しげな顔で見つめている。
「...まさか、あんた知ってたの!?」
「淳くんだけずるい!」
「別にずるくはねーだろ!」
いつも通り結衣が淳にゲンコツをお見舞いし、芽衣が笑ってその様子を見ている。
「...ありがとう」
誰にも聞こえないぐらいの声で、そっと呟く。皆を信じて良かった、こんな素敵な友達が居てくれる私は...とても幸せ者だ。
開け放たれた窓から風が吹き寄せ、私を心地よく包む。今日、私に本当の友達ができたんだ---------
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「遅くなっちゃった」
皆で昨日のカラオケのリベンジをしていたお陰で、時刻はかなり遅くなり...補導時間ギリギリになってしまっている。
私には身元引受人になってくる親も親戚も居ないため、補導なんてされた日には大変である。小走りで路地を走るが、
「やっぱり夜は嫌だな...」
路地には多くの死者の魂が浮遊している。自分が死んだことに気付かず、延々と飛び降り続ける人。何度も何度も車にはねられる人...ただその場に立ち尽くしている人。
本当はこの道を通りたくはないが、いつもの道を進んでいたらかなり遠回りになってしまう。息を止め、できるだけ目を合わせないように道を進む。
すると、目の前に人影が見えた。まだ遠いのでよく見えないが、その服装から同じ学生であることがわかる。
「変なおじさんとかじゃなくって良かった...」
そんなことを呟きながら、周りに浮遊する霊達に怯えながらも小走りを続ける。目の前の人物との距離が縮まり、ようやくその姿が見えた。特に意味は無いが、目線を上に上げて学生の姿を見る。
学ランを着ているが、その雰囲気から見て中学生ではなく高校生だろう。黒髪できちんとセットされていて、身長はそれなりに高身長だと思う。
何より、切れ長な目と整った鼻...この距離から見てもかなりのイケメンであることがわかる。芸能人だと言われても納得するほどの、独特なオーラを発していた。
(...淳もイケメンだけど...タイプが違うよね)
淳がアイドル系イケメンだとすると、目の前の男子高校生は限りなく正統派イケメンだろう。ただ、そのイケメンはやけにフラフラと歩いていた。
「...!!」
気になってその様子を見ていると、私は目の前の光景に驚愕する。この際、容姿なんて目に入らない。
「...避けてる」
そう、目の前の人物はただフラフラ歩いているのではなく、明らかに『何か』を避けて歩いているのだ。その『何か』が、どういった類のものであるかということは、私がよく知っている。
私は確信した、
この人は...見えている!
今までに感じたことのない感覚が私を襲い、どういった感情なのか小刻みに体が震えてしまう...。