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夢宵桜  作者: maon
8/14

あたしもさ、あんた達に言ってないことがあるの



---------



淳に家まで送ってもらい、その日はなんとか平和に過ごすことができた。まだあの霊は憑依しているみたいだけど、気持ちが晴れやかなお陰か、姿を見せない。


ブー ブー ブー


スマホのバイブが部屋に響き渡る。いつも通り電気を全灯にしてベッドに潜り込み、スマホをチェックする。



『大丈夫そうか?』



送り主は淳だった。淳とは仲は良いけど、学校から帰るとお互いにわざわざ連絡することは無い。きっと、淳なりに心配してくれているのだろう。



『大丈夫だよ、ありがとう』


ブー ブー ブー


「え、電話?」



淳と電話したことなんて、3年間のトータルで30分あるかどうかだった。



「もしもしー?」

『おう、いきなり電話してわりーな』

「良いけど、どうかした?」

『また泣いてるんじゃないかと思ってよ』



かなり真面目なトーンでそんなことを言われたせいで、我慢できずに思わず吹き出してしまった。



『なんだよ...人がせっかく心配してやってるのに...』

「ごめんって、でも大丈夫だから...っくく...」

『おいこら...』



それから30分ほど、他愛もないことを話した。学校の校長の頭皮事情とか、新しいクラスメイトのこととか...。どれも大した話ではないのに、自然と笑みが零れていた。


親と死別している私にとって、この家はあまりにも広すぎて...寂しい場所でもあった。家に帰ってから人と話すことが無いため、この家に笑い声が響いていることが不思議でならない。



「そろそろ寝ないと明日遅刻するよー」

『あ、そうだな。俺はともかく由奈が遅刻するな!』



淳は遅刻魔の上にいつもありえない言い訳をする。美味しそうなパン屋があったから開店待ちしたとか、今日は学校が台風でなくなる気がしたとか...。



「バカ、また親父の遺言で学校には早めに行くなって言われた、なんて言って怒られても知らないから」

『よく覚えてるなー、俺の遅刻の言い訳のレパートリーはなかなかだろ』



確かに淳の凄いところは、出席日数ギリギリなぐらい遅刻を重ねているのに、その言い訳がかぶる日が無いところである。



「それじゃ、おやすみ」

『おう、明日頑張れよ!』



...明日頑張れよ、か...。もしかしたら明日、私達の仲は壊れてしまうかもしれない。でも、嘘つきだと思われたくないという気持ちの本質は、信じて欲しいということ...。



一歩だけ、一歩だけ前に進んでみたい...。



----------



「由奈、どーしたの話って」



私は昼休みに食堂でご飯を食べた後、早速芽衣と結衣を屋上に呼んだ。できるだけ誰にも聞かれたくないから、あえて屋上を選んだのだ。



「あのね...実はずっと2人に話してないことがあって...」



怖い、心臓がドクドクと波打って...胸はチクチクと痛む。足は小刻みに震えているし、握り込んだ手には汗が滲んでいた。



『あいつらを信じろよ』



頭の中に淳の言葉が響く。そうだ、私は2人のことが大好きだ。大好きだからこそ嫌われたくない...できればこのまま知られたくない...私は臆病だから。



「あの...ね...実は...」

「あたしもさ、あんた達に言ってないことがあるの」



私が次の言葉が見つからず、固まっていると急に結衣が話し始めた。その目は真っ直ぐ私を見ていて、その目を逸らすことはできなかった。



「え、結衣ちゃんもどうしたの?」

「実はあたしさ、夏以外ムダ毛処理しないんだよね」

「「え?」」



ムダ毛...?結衣は一体何の話をしているのだろうか。極めつけに袖をまくりあげ、確かにそれなりに立派な腕毛をアピールする。



「鞄だってぐっちゃぐちゃだし、家のトイレだって開けっ放しでするし、家での服装なんて大阪のオバチャンだし、おならだって平気でするし、賞味期限が切れた物だって」

「ちょっと待って、えっと...賞味期限切れの物を平気で食べるのは知ってるけど...何が言いたいの?」



緊張MAXだった時に、突然こんな微妙すぎるカミングアウトをされ、私の脳内は?マークで満たされていた。



「だから...あんたが何を言おうとしてるかはわからないけど、あたしだってあんた達に話してないことぐらいあるって話よ」



緩く巻いた茶髪を搔きあげ、罰の悪そうな顔で答える結衣。一言ずつ脳内でリピートすることによって、ワンテンポ遅れてやっと結衣の言わんとしていることが理解できた。



「め、芽衣だってあるよ!!」

「「え」」



芽衣は何を勘違いしたのか、勢いよく手を挙げ...



「本当はね!結衣ちゃんと由奈ちゃんに初めて声掛けたのは偶然じゃなくってね!2人ともずば抜けて可愛かったから、芽衣可愛い女の子大好きだから!見た目で声掛けたの!ごめんなさい!」

「「...」」



一気にまくし立てたかと思えば、今度は長座体前屈かと思うほど深々と頭を下げる。私と結衣は思わず目を合わせ、こらえきれずに大声で笑う。



「なにそれ...それ...ただのナンパじゃんあははっ」



当の本人はなぜ笑われているのかわからず、ただ目をぱちぱちさせていた。



「...さて、芽衣もカミングアウトしたところで、あんたの告白はなに?...っ」



まだ笑いを抑えてきれていない結衣だったが、もうこの流れで全部話してしまうことにした。さっき口を開いた時とは違い、今度はするすると話すことができた。


自分の力のこと、昨日のこと、黙っていた理由...結衣と芽衣は私の話を遮ることなく、最後まで黙って聞いてくれた。



---------



全てを話し終えた2人の反応はあまりにも軽く、拍子抜けしてしまうほどだった。結衣は空を見上げ、芽衣は目を輝かせている。



「...なるほどねえ...まさかあんたが霊感少女だったとは」

「結衣ちゃん、これって凄いことだよね!」

「確かに凄い!もっと早く聞いてれば何かできたかもしれないのに」



私のことを疑うこともなく、黙っていたことを責めることもしなかった。それどころか、呪い続けた私の力を凄いとさえ言ってくれている。



「気味、悪く...ないの?」


「なんで?あたしら元々心霊番組とか好きだし!」

「ねー、ひとりでお風呂入れなくなるのわかっていても、思わず見ちゃうんだよねー」

「そっか...なーんだ...」



安心すると一気に腰が砕け、その場にへたり込む。



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