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夢宵桜  作者: maon
7/14

あいつらを信じろよ?



「...どうしてそう思うの?」



頭をフル稼働した割に、口から出たのは実に残念な発言だった。これでは犯人はお前だ!と言われた瞬間の犯人の台詞である。



「...やっぱりな、なんか違和感があったんだよ...前から」

「...」


「しょっちゅう何も無い所見てるし、たまにすげー顔してるし...今日もずっと変だったしな」



私の中では上手く隠していたつもりだったのに、どうやら淳にはバレていたようだ。



「もし...そうだったら...?」



つくづく私は馬鹿だ。こんな返答では、完全に認めてしまっているのと同じだろう。自分が唾を飲む音が聞こえる。



「別にどうってこともないけどよ、どうして話してくれなかったんだ?」

「...気味が悪いでしょ、それに淳だって幽霊は信じないって...」



さっきのカラオケでも、「俺は幽霊は信じていない」と確かに言っていた。まだ自分の力を隠していなかった頃、そういう人達に散々嘘つきだと罵られた記憶が蘇る。



『由奈ちゃんって嘘つきだよね』

『嘘つきはドロボーの始まりだってママが言ってたよ』

『由奈ちゃんとはもう遊んじゃダメって』

『うーそつき!』



頭の中に走馬灯のように、幼い頃の記憶が溢れ出す。あれから私は、自分の力をひた隠しにしてきた。頭がおかしい子だと思われないように...。



「確かに幽霊は信じない、でもお前を嘘つきだとは思わない」



過去の記憶に傷つけられ、ぐちゃぐちゃだった思考から救い出してくれたのは、他でもない淳の言葉だった。



「何で?信じないんでしょ...?」

「残念ながら俺はこんな性格だからなー、そういった才能には恵まれなかったみたいだ。でも、それは俺が見えないだけだろ?見えないから信じない、でも見える奴を信じないのとは...また別だろ」



淳は、私の欲しかった言葉をくれた。全部を信じてくれなくても良かった。全部信じると言いながら、内心疑っている人間はたくさん居るから。


でも淳は...本当に本音で話をしてくれている。霊の存在ではなく、ただ私の言葉を信じてくれている...それで充分だった。



「...ありがと...っ...!...ぐすっ...」

「ばっ、なんで泣くんだよ!?」

「...だって...淳のばか...っ」

「意味わかんねー...」



私は泣いた。まるで子供のように...メイクが崩れてパンダ目になることも気にせず、鼻水も垂れ流してひたすら泣いた。


きっと酷い顔をしていたのに、淳は何も言わずにずっと頭をポンポンとしてくれていた。私の力を知っても態度を変えなかった、初めての人だった。




------------



「落ち着いたか?」

「...うん」



どれだけの時間泣いていたのだろう、すっかり夕暮れになり、公園に居た数人の子供たちも帰っていた。



「この事、あいつらは知ってるのか?」

「...言ってない、誰にも話してない」



結衣と芽衣には、怖い話は怖くて苦手とだけ言ってある。2人は夏の心霊番組を見てるみたいだけど、気を遣っているのか、私の前ではそういった話をしない。


「でも、さっきみたいにしんどくなることもあるんだろ?」

「うん...」

「なら、明日ちゃんと話せ」



それは正直怖かった。結衣と芽衣を信じていないのではない...ただ過去のトラウマはそう簡単に消えてはくれないのだ。


返事ができずに俯いていると、



「あいつらを信じろよ?」



そう言って頭を優しく撫でた。いつもなら気安く触らないでと言うところだけど、不思議と嫌な気分ではない。...それどころか、落ち着くようだった。



「そんだけ泣いて目を真っ黒にしてりゃ、あいつらも何も言えねーよ」

「淳ー!!」



口では怒って見せたが、今はそんな淳の軽口に救われている。それに、今の顔はそれほど酷いのだろうと思う。



「帰ろっか」

「おう」



いつも帰り道は憂鬱だけど、今日は少しだけ...気分が晴れやかだった。




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