あいつらを信じろよ?
「...どうしてそう思うの?」
頭をフル稼働した割に、口から出たのは実に残念な発言だった。これでは犯人はお前だ!と言われた瞬間の犯人の台詞である。
「...やっぱりな、なんか違和感があったんだよ...前から」
「...」
「しょっちゅう何も無い所見てるし、たまにすげー顔してるし...今日もずっと変だったしな」
私の中では上手く隠していたつもりだったのに、どうやら淳にはバレていたようだ。
「もし...そうだったら...?」
つくづく私は馬鹿だ。こんな返答では、完全に認めてしまっているのと同じだろう。自分が唾を飲む音が聞こえる。
「別にどうってこともないけどよ、どうして話してくれなかったんだ?」
「...気味が悪いでしょ、それに淳だって幽霊は信じないって...」
さっきのカラオケでも、「俺は幽霊は信じていない」と確かに言っていた。まだ自分の力を隠していなかった頃、そういう人達に散々嘘つきだと罵られた記憶が蘇る。
『由奈ちゃんって嘘つきだよね』
『嘘つきはドロボーの始まりだってママが言ってたよ』
『由奈ちゃんとはもう遊んじゃダメって』
『うーそつき!』
頭の中に走馬灯のように、幼い頃の記憶が溢れ出す。あれから私は、自分の力をひた隠しにしてきた。頭がおかしい子だと思われないように...。
「確かに幽霊は信じない、でもお前を嘘つきだとは思わない」
過去の記憶に傷つけられ、ぐちゃぐちゃだった思考から救い出してくれたのは、他でもない淳の言葉だった。
「何で?信じないんでしょ...?」
「残念ながら俺はこんな性格だからなー、そういった才能には恵まれなかったみたいだ。でも、それは俺が見えないだけだろ?見えないから信じない、でも見える奴を信じないのとは...また別だろ」
淳は、私の欲しかった言葉をくれた。全部を信じてくれなくても良かった。全部信じると言いながら、内心疑っている人間はたくさん居るから。
でも淳は...本当に本音で話をしてくれている。霊の存在ではなく、ただ私の言葉を信じてくれている...それで充分だった。
「...ありがと...っ...!...ぐすっ...」
「ばっ、なんで泣くんだよ!?」
「...だって...淳のばか...っ」
「意味わかんねー...」
私は泣いた。まるで子供のように...メイクが崩れてパンダ目になることも気にせず、鼻水も垂れ流してひたすら泣いた。
きっと酷い顔をしていたのに、淳は何も言わずにずっと頭をポンポンとしてくれていた。私の力を知っても態度を変えなかった、初めての人だった。
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「落ち着いたか?」
「...うん」
どれだけの時間泣いていたのだろう、すっかり夕暮れになり、公園に居た数人の子供たちも帰っていた。
「この事、あいつらは知ってるのか?」
「...言ってない、誰にも話してない」
結衣と芽衣には、怖い話は怖くて苦手とだけ言ってある。2人は夏の心霊番組を見てるみたいだけど、気を遣っているのか、私の前ではそういった話をしない。
「でも、さっきみたいにしんどくなることもあるんだろ?」
「うん...」
「なら、明日ちゃんと話せ」
それは正直怖かった。結衣と芽衣を信じていないのではない...ただ過去のトラウマはそう簡単に消えてはくれないのだ。
返事ができずに俯いていると、
「あいつらを信じろよ?」
そう言って頭を優しく撫でた。いつもなら気安く触らないでと言うところだけど、不思議と嫌な気分ではない。...それどころか、落ち着くようだった。
「そんだけ泣いて目を真っ黒にしてりゃ、あいつらも何も言えねーよ」
「淳ー!!」
口では怒って見せたが、今はそんな淳の軽口に救われている。それに、今の顔はそれほど酷いのだろうと思う。
「帰ろっか」
「おう」
いつも帰り道は憂鬱だけど、今日は少しだけ...気分が晴れやかだった。