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夢宵桜  作者: maon
6/14

お前さ...



全員無言で会計を済ませて外に出ると、最初に口を開いたのは芽衣だった。



「ごめんね...なんか芽衣のせいで楽しくなかったよね」

「何言ってんの、あんたのせいじゃないよ」

「そーだぞ、それにしても気味が悪い店だったな」



芽衣はそれでもまだ、納得がいかない面持ちだった。芽衣はとても優しい子だ、きっととても気にしているのだろう。



「そうだよ、芽衣。今日は解散して明日こそいつものカラオケに行こ?ちゃんと予約しとくから」

「もう解散かよ!」

「明日カラオケ行くんだから良いでしょー」



そうだ、今日は少しでも早く解散しないと...そう長くは意識を保つことはできない。この3人が好きだからこそ、私の力のことは絶対に知られたくなかった。



「わかったよ、じゃー帰るか」

「そだね」

「うん!」



良かった、皆賛成してくれたみたいだ。



ヒタッ...ヒタッ...ヒタッ...



「じゃあ私こっちだから!また明日!」

「っておい!...俺もそっちなんだけど...」



淳の言葉は聞こえていたが、これ以上平静を保っていることは難しい。淳には申し訳ないけど、このままなんとか逃げ切ろうと思う。



(...また明日...か)



自分で言っておきながら、なんて不確定な言葉なんだろう。私には明日が来る確証なんて...どこにも無いのに。憑依されたまま体を操られたら、そこで私の人生は終わりだ。



私の意識の中に、霊の記憶の断片が入ってくる。ここは...飲食店...?お客さんがたくさん居て...厨房があって...爆発...。



ドサッ



「あ、熱い...!!」



喉が沸騰して、身体中が炎に包まれて...早く楽になりたいのに、なかなか死ななくて...!!自分の体が焦げていく臭いがする...。周りの音が聞こえなくなって、ただ痛みと喉の乾きに襲われる。



(く、るしいね...こんなに苦しかったんだね...)



私の涙なのか、それとも中に居る人の涙なのかわからない、大粒の涙が次々と地面に落ちていく。もっと生きたかった、早く楽になりたい、そんな矛盾した気持ちが襲う。



「ごめっ....、ごめん...私には、何もできない...」



すると今度は激しい憤りを感じ、全身に激しい痛みを感じる。幸い、人通りが少ない路地だったため、私のことを不審に思う人も居ない。


ただ、その場から動けなくなっていた。



「由奈!!!!」



幻聴だろうか、遠くから淳の声が聞こえるような気がする。わざと回り道をしたりしてせっかく淳から離れたのに...不思議とその声に安堵して...意識を手放してしまった...。



------------



始めに感じたのは、香水の匂い。

それもきつい匂いじゃなくって、心地良いシャンプーみたいな香り。


次に感じたのは、人の温もりだった。少し硬いけど、この枕は嫌いじゃない。



「...ん...」

「由奈、起きたか?」

「...」



なんだろう、淳の声がやけに近くから聞こえる気がする。さっきまであんなに遠くから聞こえたのに...。



「...淳!?」

「いてっ!」「痛っ!」



目を開けると目の前に淳の顔が...!!こんな至近距離で淳の顔を見たことが無いから、瞬発的に飛び上がり、おでことおでこがぶつかってしまった。



おでこに鈍い痛みはあるが、さっきまでの体の痛みや不快感は消えていた。淳が一緒に居てくれたお陰かもしれない。



「お前、いきなりそれはねーだろ...」

「ごめん...でも何で居るの...それに膝枕...」



よく見るとここは公園で、私はベンチに横たわり淳の膝を枕に、淳の制服をひざ掛け代わりに使っていた。



「あー...やっぱりさっきのお前の様子が気になってよ、あちこち探したら道ばたでうずくまってたから」

「あはは...」


「本当はおんぶして送ってやろーかと思ったけど」

「...思ったけど?」



淳はなぜか一瞬口ごもり、ちらりと私の方を見る。



「...スカートが短すぎなんだよ、さすがに見えたら不味いだろうが」

「...」



なるほど、淳は私のパンツが通行人に見られないに考え、今も自分のブレザーで足元を隠してくれていたらしい。



「ありがとね」

「...別に」



私はブレザーを淳に返し、軽く背伸びをする。まだ少し体は重たいけど、意識はしっかりしている。



「お前さ...」

「ん?なにー?」



また口を閉じてしまった淳を見て、



「なにー?もしかしてパンツでも見えた?」



と言うと、



「見てねー!そうじゃなくって...」

「そうじゃなくって?」


「お前さ、もしかして霊とか...見えたりすんの?」

「...」



私にとって一番聞かれたくない質問、一番バレたくないことだった。淳が今までこんなことを言ったことがなかったため、思わず黙り込む。


早く否定しないと、そう思うと更に何も言えなくなってしまっていた。



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